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橋下徹を「最も危険な政治家」にさせたものは?

青木るえか エッセイスト

 朝日新聞の天敵であるらしい新潮社(新潮社の人が朝日の人にそう言われた、と言っていた)の『新潮45』。今月号(11月号)はよかった。特集が『「最も危険な政治家」橋下徹研究』だ。

 確かに「橋下は今いちばん危険な政治家」なので、この時期にキッチリと批判しとくのはいいことだと思う。というか、これは朝日新聞がやるべき特集だったと思う。でも朝日でやるんじゃ橋下に「左翼の朝日の言うことなんか聞く必要無し!」とか言われそうだし(言ってる顔を思い浮かべただけでハラがたってくる)、ここは「もしかして橋下ホメ特集を組むかもしれないと思わせる新潮45」が書くことに意味があるかもしれぬ。

 4人の書き手のうち、「橋下という男がどうやってこういう人間になったのか」を子供時代にまでさかのぼって調べ上げた上原善広の『孤独なポピュリストの原点』は面白かった。これを読んで感心したのが、橋下さんが、中上健次いうところの“路地”出身で、子供の頃いくら苦労してることがわかっても「ああ橋下もツラかったんだな、今ああなっちゃったのもちょっとはしょうがないか」という気持ちに「ぜんっぜん!」ならなかったことだ。恵まれない子供時代を送ったのち殺人鬼になってしまうような人については「その人の気持ち」になって考えてしまうタチなのだが、橋下さんは殺人鬼ではなく「弱い者を陰険に、しかしカサにかかってイジメる権力者」になったので、いっさい同情の気持ちがわき起こらないのだった。

 ところで小さなことだけれど、この特集の最初が上原さんの原稿で、次に野田正彰による『大阪府知事は「病気」である』が続いていて、こちらも筆者が野田さんだからたいへん読み応えのある文章なのだけれど、上原さんの原稿とネタがかぶってるところがあるのだ。上原さん野田さん、それぞれが別々に取材してきたのか、2人で一緒に聞いたのか、あるいはどっちかがどっちかから教えてもらったのかわからないが、「橋下が通ってた中学の先生がこんなこと言ってるんですよ」というネタがそっくりかぶっている。その中学時代の先生の発言からの考察がお二方でいくらかでも違ってれば意味もあるんだが、「中学の先生がこんなこと言ってる。やっぱり橋下ってのはこういうやつだったんだ」というのがほぼ一緒。なんだか野田さんが上原さんの原稿読んでから書いたみたいに見えちゃうので(そんなわけはないと思うだけに)気になった。

2008年2月、大阪府知事就任あいさつのため都庁を訪れ、石原慎太郎・東京都知事と握手する橋下徹氏

 それともう一点。上原さんの原稿に、橋下徹という男は「小沢一郎とか石原慎太郎みたいなコワモテに甘えるのが上手」という話が書いてあって誠にさもありなんと思わされる。で、この橋下徹特集よりも前のページに“これが今月号でいちばん重要な巻頭特集なのよ!”って感じにドーンと載ってるのが『【特別対談】なぜ日本人はかくも堕落したのか/石原慎太郎vs.福田和也』なので、いろいろ考えこんでしまう。

 福田和也こそは「文壇で重鎮に甘える(文学的に聞こえるがじつは下世話な話をしてさしあげて相手を喜ばせる)作戦で生きている男」だと思っていたので、そのことに『新潮45』がダメを押してくださったような気がしてしまった。そんなつもりはないでしょうが。できることなら、福田和也が聞き手となって「橋下徹について語らせる」のだったらこの橋下特集ももっとすごいものになっただろう。

 石原慎太郎は「愚昧な民衆がホメるもの」が大嫌いだし(自分がそういう民衆によって当選してることはなかったことになっているが)、文学の話をできないやつのこともバカにしているので、橋下については政治的信条とは別のところで思うところがいっぱいあると睨む。うまくおだてて、そこまでやってほしかった。でもそういう「火に油を注ぐような」対談って、福田和也は案外苦手かもしれない。いざとなると引いちゃうと思う。あるいは自分はぜったい危ういことは言わないようにする。それがミエミエでシラケるか。

 ……と、いろいろなことを考えさせてくれる『新潮45』の橋下徹特集でした。

 最初に書いたように、保守的で、弱い者がキライで、人をキマリでがんじがらめに支配してエラくなりたいという橋下徹という政治家はたいへん危険だと思っているが、そもそもこんな危険なやつがなぜ政治家になっちゃったかといえばそれは

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