2012年08月09日
五輪の解説というと、忘れられない人がいまして、いつの五輪だったかも忘れてしまいましたが、バスケットボールの解説の人。男性で、日本人で、名前はわからない。
とにかくファンキーで、激しく抑揚をつけて試合中に騒ぐ。審判の判定に異議があると、「うぁー? どぅしてぃ!」と叫ぶ。たぶん「え!どうして!?」と言ってるんだと思う。すごい抑揚なもんで、何言ってるのか一瞬わかんないんだ。でも、状況を見てると、なんとなく「ああ怒ってるんだ」「感動してる」「不安がっている」「恐怖に襲われている」などはわかる。興奮は常にしている。
NHKの中継とは思えないようなファンキー解説なので、次の五輪で楽しみにしていたのだが、もうその解説を耳にすることはなかった。あの人はなんという人で、今どうなさっているのだろうか。興奮解説といっても、サッカーの大騒ぎ解説とは一線を画す、何か聞いていて不安になってくるような興奮ぶりだったので、忘れられない。
やはりああいうのはテレビ的に不適とされて、その後の登板がないのだろうか。チャラチャラした興奮解説のほうがよっぽど聞いててうるさいけどなあ。
チャラチャラ興奮解説もイヤだが、もっとカンに触るのが「大本営解説」。
解説者というからには、競技の流れを見て解説をしてほしいものであるが、そうじゃなくて「こうなったらいいですね」という希望、それも陸連とかの方針とぴったり寄り添ったようなことしか言わないやつ。
これ、五輪という舞台で、相手が外国だからあんまり目立たないけど、「解説と名乗りながら巨人の応援か激励ばっかりしてる江川や掛布」みたいな解説がけっこう多いんだ。プロ野球だったら「巨人ファンじゃない」人は一定数いて「掛布はなんだ阪神出身のくせに巨人の応援ばっかしやがって」という不満となって表面化するけれど、五輪だと「なんだよこいつ日本人だからって日本の応援ばっかしやがって」という声は出てきづらい。きづらいどころか、ナショナリズムの発露としてそんな解説が「正しい」ような空気にすらなっている。
消息不明のバスケット解説者は、日本を応援していたのは確かだが、そんなことをぶっとばすぐらい「へん」だったので、ナショナリズムなんぞ吹っ飛ばす勢いだった。
サッカーのチャラチャラ大騒ぎ解説は、単にミーハーで単純なだけということが丸わかりなので、うるさいけどまあそういうやつもいるよ、と目をつむる。
マイナーな競技、たとえば乗馬とかだと、応援しようにも日本人は到底メダルに手が届かないので解説者は終始冷静。アーチェリーとか自転車競技のような、たまーにメダルが手が届くような競技でも、ふだんの扱いがマイナーなので、基本的につつましく、メダル獲得時の「思わぬ喜び」の様は、見ている者をして「ああよかったね」と思わせるものがある(北京五輪のケイリンで永井清史が銅メダルとった時の中野浩一とか)。
大本営解説でいやな感じになるのがマラソンなんですよ。
どうも昔から、マラソンの代表選手選考の段階から「陸連がお気に入りの選手」とそうでないのとがいる感じで、微妙に「陸連が贔屓してる」「陸連がどうもよく思ってない」のが透けて見えて、どうも気味が悪いと思っていた。
で、マラソンの解説というと、そんな陸連の決定を「なんの疑問もなく正しいもの」として、その考えをさらに国民に啓蒙しよう、と静かに押しつけてくるようなやつが多いんだ。具体的にいうと増田明美の解説。
彼女の解説って、「間違いのない滑舌」「はっきりとした声」でゆるぎなく「日本のマラソンは正しいのです」と言ってくる感じで、国防婦人会かい!といつもいやーな気分になっていた。
さてロンドン五輪の女子マラソン。誰が解説するのかまるで知らずにテレビをつけていたら、増田明美ではなかった。ああいう、はっきりした声やしゃべり方ではなく、ぼそぼそと、ふつうにしゃべる。
そして、聞くともなく聞いているうちに、なんともいえない暗い声の解説にひきずりこまれてしまった。
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください