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“伝説のテロリスト”の半生を描く傑作長編『カルロス』(上)――革命家からテロ・マフィアへ  

藤崎康

 フランスの実力派監督オリヴィエ・アサイヤスの『カルロス』は、とんでもない傑作だ。『プロメテウス』とならんで、本年度洋画ベストワンの最有力候補の一本である。

 『カルロス』が「とんでもない」のは、まず、その題材だ。これまで「アート系」と呼ばれるような、比較的地味な『夏時間の庭』(2008)などの秀作を撮ってきたアサイヤスが、なんとベネズエラ生まれの“伝説のテロリスト”、暗号名カルロスの波乱に富んだ半生を、史実と報道にもとづく3部構成の5時間30分(!)の劇映画に仕上げたのだ。しかもアドレナリン出まくりの、スピード感あふれる活劇として!

 カルロス(本名イリッチ・ラミレス・サンチェス、以下カルロス)に扮するのは、やはりベネズエラ生まれの、大胆不敵な面構えと頑丈そうな体格のエドガー・ラミレス。風貌だけでなく、その名前(ラミレス!)からして、カルロスを演じるべく生まれてきた男にしか見えない俳優だ。

<物語の要約、およびカルロスの人物像・本作の歴史的背景の素描>

 1949年生まれのカルロスは、あの日本赤軍のテルアビブ空港乱射事件(1972)や、OPEC(石油輸出国機構)のウィーン本部襲撃事件(1975)に関与したほか、数多くのテロ/爆破・暗殺を計画し、あるいは実行した、1970年代以後の国際テロリズムの中心人物の一人であった。

 そして、1994年に逮捕されるまでの20年間、カルロスはテロ14件、殺害83人、負傷者100人以上の事件に関与したといわれているが、さまざまな偽名を使って暗躍したことからファントム/幽霊とも呼ばれた。またモテモテだった恋多き男カルロスは、本作でも描かれるように、根っからの享楽主義者であり、多くの女性と情を交わしたが、本作の宣伝プレスのコピーには“銃と女だけを信じた実在の男の壮絶な物語”とある(イケてる奴だなあ……)。

 このような法外な/「とんでもない」男カルロスは、むろん、精神を病んだ殺人者ではない。カルロスは――少なくともOPEC襲撃事件以前は――、「世界革命」をめざす自称マルクス・レーニン主義者であり、アメリカ資本主義打倒・被抑圧民族解放のための武装闘争を大義(行動の根拠)として掲げて活動していたと思われる。

 が、やがてカルロスは、ビジネスのために爆破・暗殺・ハイジャック等を計画、あるいは実行する無節操なテロ・マフィアと化していく(映画にするなら、こういう人物のほうが、組織に忠誠を尽くしイデオロギーに殉ずる愚昧(ぐまい)で生真面目な「革命戦士」――どこかの国の“連赤”のような――などより、ずっと面白い)。

 ともあれカルロスは、KGB(ソ連情報部)やシュタージ(東ドイツ情報部)などの、反米・反イスラエルを標榜する東側共産主義国のインテリジェンス、および中東のPLO(パレスチナ解放機構)、PFLP(パレスチナ解放人民戦線)などの非国家的政治組織と連携してテロ活動を行なったが、全世界のメディアも一時期、彼を“栄光の国際テロリスト”として大々的に取り上げた(カルロスは1976年まで、PFLP過激派=PFLP-EOの、いわば「契約テロリスト=傭兵」、しかし大義ある「革命家」として活動)。

 だがカルロスは、1976年、PFLP過激派のリーダー、ワディ・ハダドから追放(リストラ!)されたのちは、 ・・・続きを読む
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筆者

藤崎康

藤崎康(ふじさき・こう) 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

東京都生まれ。映画評論家、文芸評論家。1983年、慶応義塾大学フランス文学科大学院博士課程修了。著書に『戦争の映画史――恐怖と快楽のフィルム学』(朝日選書)など。現在『クロード・シャブロル論』(仮題)を準備中。熱狂的なスロージョガ―、かつ草テニスプレーヤー。わが人生のべスト3(順不同)は邦画が、山中貞雄『丹下左膳余話 百万両の壺』、江崎実生『逢いたくて逢いたくて』、黒沢清『叫』、洋画がジョン・フォード『長い灰色の線』、クロード・シャブロル『野獣死すべし』、シルベスター・スタローン『ランボー 最後の戦場』(いずれも順不同)

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