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映画以前のしろもので、何とも嫌な気分になった『図書館戦争』

古賀太 日本大学芸術学部映画学科教授(映画史、映像/アートマネジメント)

 今年のゴールデンウィークの映画は、『アイアンマン3』を除くと、邦画が強かった。興行収入30億円を超した『名探偵コナン 絶海の探偵』を始めとして、クレヨンしんちゃんや仮面ライダーなどのシリーズもののアニメが上位を占め、実写の邦画も3本が健闘した。最終興収が20億円を少し割りそうなのが『図書館戦争』と『藁の楯』で、その半分くらいが『舟を編む』。

 もちろんそこまでの成績を上げるにはテレビ局は不可欠で、『図書館戦争』はTBS、『藁の楯』は日本テレビ、『舟を編む』はテレビ東京が製作の中心的役割を果たしている。

 映画としてのできは、圧倒的に石井裕也監督の『舟を編む』がいい。一言で言うと、松田龍平演じる編集者が辞書を作る話だが、一つ一つの言葉に定義を与えてゆく作業を、丹念に見せている。文字への信頼が地に落ちた現在、これほどまでに執拗に言葉への執着を映像で見せてくれたことは、奇跡に近い。

 印刷という仕事の細部を見せているのもいいし、会社組織の描き方がうまい。何らかの形で印刷に係わったことのある人ならピンとくることばかりだ。主人公が会社員として成長してゆくのが、見ていて何とも嬉しくなる。客層は40歳以上が中心だが、私の大学の学生に課題として見させたところ、反応は悪くなかった。

 三池崇史監督の『藁の楯』は、良くも悪くも三池節の映画だ。孫娘を殺した男を捕まえたら10億円の賞金を出すという、ありえない新聞広告に始まって、全編が現実離れした設定の中で、すさまじいアクションシーンが続く。あくまでB級を狙う三池崇史の確信犯的な映画で、その意味では爽快だった。

 三池監督の映画としては、2012年の『愛と誠』や『十三人の刺客』(10)の方がずっとおもしろいと思うが、毎年1本から3本の映画を作りながら、毎回見て損のない商品に仕立て上げる才覚はタダモノではない。B級として作られた『藁の楯』が、現在開催中のカンヌ国際映画祭のコンペに出たのも何とも痛快な気分になる。こちらの客層は老若男女だが、とりわけ中年男女が強いか。

 3本の中で、見ていて気持ちが悪くなったのが『図書館戦争』。最近の邦画を見渡してもこれほど不快な気持ちになった映画は珍しい。映画としてのできが悪いからではない。そんな映画はいくらでもある。そうではなくて、ストーリー全体を貫く思想の方向が今の日本のダメなところを象徴しているようで、何とも嫌な気分になった。

 舞台は2019年で、いわば近未来SFだ。冒頭で1989年に「メディア良化法」が設立されたことが説明される。今の日本にも悪書を追放しようという動きがあるが、その延長線上にできた法律らしい。私は最初、現在広まりつつあるメディアや表現を規制する保守的な流れに対抗するものかと思った。

 確かに一見、そのような自由を守るための戦いを描いているように見える。「メディア良化法」は検閲を可能にする法律で、そのためにメディア良化隊という軍隊も持つ。同じ年にできた「図書館法」は図書館の自由を保障する法律で、図書隊という自衛組織を持つようになったという設定だ。

 映画は何と良化隊と図書隊の銃撃戦が半分以上を占める。ところが、これが

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