情報ネットワーク法学会
2013年06月21日
ソーシャルメディアの登場により、「誰もが情報発信者」の時代が訪れた。個人に関する情報が大量に公開される社会が訪れようとしている。法制度や倫理の制約を抜きにして、人々がライフログの全公開を受け入れるようになれば、どんな「キンミライ」が訪れるのか。NTTコミュニケーション科学基礎研究所の木村昭悟氏が、情報ネットワーク法学会の連続討議で語った。(構成・新志有裕)
木村昭悟 この研究会メンバーには数少ない工学系研究者ですので、純粋に技術の観点から発表しようと思います。近未来のテクノロジーに何ができるかという話ですので、法的、社会的、倫理的問題に関しては次回以降の討議で論じたいと思います。
また、この発表は所属機関の代弁や宣伝ではありませんし、本日お話しすることは、予測が目的ではないので外れる可能性もある点をご了承ください。
念のため、もう一度申し上げますが、技術が進化することで発生しうる社会的な問題は一旦棚上げします。
ソーシャルメディアの膨大な情報を回収して分析することにより、「どこで」「誰が」「どんなことを思っているか」が断片的に分かるようになってきました。
さらにそれらの相互関係や集合体によって社会現象の実像が分かるようになりました。まず、そのような社会現象の事例をいくつか紹介しようと思います。
◆事例A 地域の特徴を可視化
事例Aをご覧ください。ウェブログやソーシャルメディアに関する国際会議であるICWSMの2012年の会議で発表された事例です。ニューヨーク・マンハッタンの地図上に、位置情報を属性ごとに色で分類したものです。
TwitterやFoursquareから導き出された行動パターンから、地域ごとの属性が明らかになりました。分かりやすいものだと、自由の女神像の下に集まる観光客などが見て取れると思います。また、ビジネスマンが多い地域、郊外から働きにきている人が多い地域などが可視化されています。使っているデータは全米8都市、Twitterでの1800万ほどのツイートデータ、Foursquareでの4万ほどのチェックインデータです。これらのデータをクラスタリングの技術で分析しています。それぞれの色が、どのような特性を示すのか、個々に確認してみてください。
◆事例B インフルエンザの広がり具合
次の事例Bは、AAAIという人工知能の国際会議で2012年に発表されたものです。こちらもニューヨークの地図、Twitterのタイムライン、Foursquareのデータを利用しています。この図は時間ごとにインフルエンザがどう流行っていくかについて、Twitterのタイムライン、Foursquareの拡散情報から明らかにしようという試みで、色の付き方が拡散状況を示しており、赤が強くなればなるほど感染が深刻になっている状況を示しています。
位置情報とツイートの関連情報をまとめて解析し、その結果、24時間分を1本のビデオになるようにしたものです。位置情報を利用しながら、ソーシャルメディア上のキーワード抽出以外のさまざまな関係情報を併用すると、このような有益な情報を見出すことが可能です。
ソーシャルメディアの情報からリアルワールドを表現するだけでなく、ソーシャルメディアによって、オフラインの人の行動を促すにはどうすればいいかと考える人も多いでしょう。その一形態としてのO2O(online to offline)という形ではどのような可能性があるでしょうか。事例Cとして、こちらの動画をご覧ください。
この「tab Interest to Action」は、ある新しいサービスの宣伝のために、人が各々に興味があるものをお互い紹介してゆくことで行動を喚起する過程を表現した動画です。ソーシャルメディアをこのように活用したいと考えている人たちもいます。
◆事例D Place Engineで屋内の位置情報も
今までは、屋外での位置情報を扱った話でした。Foursquareを使っている人ならご存知かもしれませんが、位置情報は屋内でも取得できます。PlaceEngineという技術により、wifiの電波を使い、位置情報を測定することができます。この技術では、電波強度の組み合わせを計測して、大体の位置情報を推定できます。GPSとは違い、空が見えていない屋内でも使える点が特徴です。将来的に屋内での人の実行動を把握するために、例えば店舗の中に無線LANのビーコンを多数設置するようになるのは、ほぼ間違いないのではないかと思います。
◆事例E 経産省などが行動トレースを実験
2年前に経済産業省と複数の民間企業との共同実験として、以下のような取り組みが行われました。
同一施設内にある複数の店舗に無線LANのビーコンを設置した上で、スマートフォンにアプリを入れたユーザーがどのような行動をしていたかトレースしました。さらに人の行動情報やソーシャルメディア上での関連情報と、ARを活用したモバイルマーケティングツールと組み合わせた実験も展開されました。
今後同じような取り組みがいくつか予定されており、近い将来、人の実世界での行動がトレースされ、ソーシャルメディア情報と組み合わされることでマーケティングに応用されるようになるのは、ほぼ間違いないのではないでしょうか。
◆事例F イベントの出演者、参加者を把握
事例Eのような形態でソーシャルメディアを利用しようと思った場合には、ソーシャルメディアから人の興味関心をある程度正確に把握することが必要となります。この話題に関しては、時間の関係上、論文の題名・出典を明記するのみにとどめます。このような論文で言われていることは、Flickrのようなマルチメディア系のソーシャルメディアを使い、どのイベントに誰が出るか、誰が参加しているのかが分かることです。さらにFlickrだけでなく、検索のセッションログを使い、どうやって人が満足できるものを推薦していくかという話もあり、データを握っている人たちは、それぞれの参加者がどんな興味関心を持っているか、刻々と追うこともできます。
■自分だけつけていれば良いセカイ?
◆事例G Google glassと画像認識の技術的可能性
位置情報などソーシャルメディアから、ライフログへと話題を移しましょう。(人の生活や行動、体験を映像や音声、画像、位置情報などとして記録する技術である)ライフログには、画像情報が大きく関わってきます。私自身が画像認識などの分野の仕事をしているので、その周辺の研究について紹介したいと思います。
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