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『Woman』の子役、高橋來くんと鈴木梨央ちゃんがすご過ぎた夏

矢部万紀子 コラムニスト

 隔世の感とはこのことだと思う。何かというと、子役である。いやいや、もうすでに日本人は芦田愛菜ちゃんを知ってしまったわけで、今さら子役のすごさを書かれても、と思われた方もたくさんいらっしゃろうと思いますが、さらに進化を遂げているように思う。低年齢化と演技の幅と。「これは一体、何を意味するのだろう」などと考え込んでしまったこの夏。

 9月11日に16.4%という高視聴率で最終回を迎えたドラマ『Woman』日本テレビ系)は、芦田愛菜ちゃんを世に出した『Mother』の坂元裕二さんが脚本家だから、それは子役を使うのはお手のものだろうということは言えるのだけど、『Mother』はまさに「母親」がテーマであり、つまりそれは対としての「daughter」もテーマであり、それを愛菜ちゃんが演じたのである。

 そのようにテーマそのものを子役が演じるという系譜をたどると、「同情するならカネをくれ」の『家なき子』の安達祐実がそうであり、私が子どもだった頃(40年以上も昔!)に見ていた「チャコちゃん(またはケンちゃん)シリーズ」に行き着く。

 それに対し『Woman』は文字通り「女性」がテーマで、ものすごく子どもを愛する2人の女性(満島ひかりと田中裕子)が主人公だが、いわゆる母性(安藤美姫さんの出産をいじめるような、固定観念としての母性)がメインのテーマでは全くなく、対としての「child」がテーマでも全くない。ということを理解してもらうために、ストーリーを描くとこうだ。

 田中は満島の母だが、夫のDVから満島が幼い頃に家を出ている。満島の夫は痴漢だと腕をつかまれ電車から引きずりおろされ、ホームから落ちて死んでしまう。実は夫を痴漢だと訴えたのは、田中裕子が再婚して生んだ娘であり、痴漢というのはデタラメだったのだが、背景にはその娘が小さい頃から学校で受けていたいじめがある。

 満島の死んだ夫は小学生のときに母親に捨てられ、月に一度郵送される現金書留で一人暮らしをしていたが、送金もほどなく絶えた。そもそも満島と田中が再会したのは、夫の死後、複数のアルバイトをかけもちして幼児2人を育てている満島が生活保護を申請すると「3親等以内の親族がいて援助の意志を示すなら受理できない」と言われ、「親とは没交渉で関係ない存在だ」と訴えても聞き入れられないからなのだ。

 DV、痴漢冤罪、育児放棄、いじめ、シングルマザー、生活保護……ため息が出るような「現実」オンパレード。

 しかも満島は、再生不良性貧血になってしまう。これだけ読むと、「おいおい、難病まで出すか」と突っ込みを入れたくなるような、やり過ぎ感があると思う。が、実際は静かに心打つ、私が今クールでいちばん好きなドラマだった。それはすべて、ドキッとさせられるリアルな台詞があってこそだ。

 たとえば満島が仕事場(クリーニング工場)で出会った同じシングルマザーの友人は、こんなことをポツリと言う。「結局、うちらシングルマザーは、子ども育てるには風俗で働くか再婚するかしかないんですよね」。この前に彼女が話すのは、夜の仕事に出るとき子どもに睡眠薬を飲ませて出て行くというシングルマザー友だちのことなのだ。

『Woman』=日本テレビ提供拡大『Woman』=日本テレビ提供
 ここで、子役に話を戻すのだが、そういう社会が描かれるなかに2人の子どもがいる。7歳の姉と4歳の弟という設定だった。

 それを演じる子役は、リアルな世界に、ただリアルにいることが要求されているのだ。「同情するならカネをくれ」と決め台詞を言うのとは、まるで違う。それを2人の子役が、実に巧みに実にうまく演じていたから、私は本当に感心した。

 姉を演じているのが、鈴木梨央ちゃん。「八重の桜」で、八重の子ども時代をネイティブ顔負けの会津弁で演じていたから、まあ、うまさ、巧みさは織り込み済みだとしよう。

 驚いたのが、弟を演じた高橋來くんという子である。 ・・・続きを読む
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筆者

矢部万紀子

矢部万紀子(やべ・まきこ) コラムニスト

1961年生まれ。83年、朝日新聞社に入社。宇都宮支局、学芸部を経て、週刊誌「アエラ」の創刊メンバーに。その後、経済部、「週刊朝日」などで記者をし、「週刊朝日」副編集長、「アエラ」編集長代理、書籍編集部長などをつとめる。「週刊朝日」時代に担当したコラムが松本人志著『遺書』『松本』となり、ミリオンセラーになる。2011年4月、いきいき株式会社(現「株式会社ハルメク」)に入社、同年6月から2017年7月まで、50代からの女性のための月刊生活情報誌「いきいき」(現「ハルメク」)編集長。

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