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【2013年 美術 ベスト5】  学芸員はもっと自由に展覧会を構想してほしい

古賀太 日本大学芸術学部映画学科教授(映画史、映像/アートマネジメント)

(1)夏目漱石の美術世界展(東京藝術大学大学美術館ほか)
(2)ラファエロ展(国立西洋美術館)
(3)竹内栖鳳――近代日本画の巨人展(東京国立近代美術館ほか)
(4)フランシス・ベーコン展(東京国立近代美術館ほか)
(5)ターナー展(東京都美術館ほか)
(次点)明治のこころ――モースが見た庶民のくらし(江戸東京博物館)+アントニオ・ロペス展(Bunkamuraザ・ミュージアムほか)
(番外)瀬戸内国際芸術祭

 欧米の美術館にマスコミが大金を払って丸ごと借りてくる「○○美術館展」は、今年も多かった。「ルーヴル美術館展」「プーシキン美術館展」「クラーク・コレクション展」など。

 そのほかにも流行りの「偽装」ではないが、展覧会名は違うけれど、中身は「○○美術館展」というパターンが今年は目立った。

 「レオナルド・ダ・ヴィンチ展」は実は「ミラノ・アンブロジアーナ図書館・絵画館展」、「ミケランジェロ展」は「フィレンツェ・カーサ・ブオナローティ展」、「カリフォルニア・デザイン 1930-1965」は「ロサンゼルス・カウンティ美術館展」、「貴婦人と一角獣展」は「パリ・国立クリュニー中世美術館展」、「ターナー展」は「ロンドン・テート美術館展」、「印象派を超えて 点描の画家たち」展は「オランダ・クレラー=ミュラー美術館展」等々。

 そんな安易な風潮に真っ向から対立するような学芸員主導の展覧会が、「夏目漱石の美術世界」展だ。これについてはここで既に触れた(「今年一番! 『夏目漱石の美術世界』展」)のでくわしくは書かないが、これまでの文学展の常識を大きく覆す展覧会だった。つまり自筆原稿や遺品などを並べるのではなく、漱石の文章の中に出てくる美術作品や美術のイメージを探り、漱石の頭の中にあった美の世界を再構築するものだ。

 架空の作品から、実際の作品を推測したり、あるいは現在の画家に描かせたりと、その作業はほとんど探偵に近い。そうして湧き上がってくる漱石の脳内世界は、これまでの漱石研究にも大きな刺激を与えるのではないだろうか。

 この展覧会の企画は2012年「高橋由一展」を担当した古田亮氏だが、ぜひ鴎外とか芥川にも挑んで欲しい。全国の学芸員は、彼を見習ってもっともっと自由に展覧会を構想するべきだろう。

 「ラファエロ展」は日本で初めて。彼の絵は、板に描かれたものばかりなので、基本的に輸送に適さない。そのうえウフィッツィを始めとして欧米の大美術館の目玉なので、貸し出しは困難なはずだが、20点以上揃った。

 何と優美で調和のとれた世界だろう。人の顔をくっきりと描き、髪や帽子、ドレスなどの物質感を際立たせる。そうして背景には畑があり、山があり、青い空がある。赤と青と茶色が微妙な均衡を保っている。1枚の肖像画の中に人間のすべてを描きこむような、ルネサンス特有の大きさを感じた。

 作品はウフィッツィを始めとしてイタリアの美術館を中心に、フランスのルーヴル美術館やアメリカのポール・ゲッティ美術館などからまで借りている力業の展覧会。

 「竹内栖鳳」展は、さすがに東京国立近代美術館で、よく揃っている。明治、大正の日本がいかにハイレベルだったかを堪能した。とりわけ中盤は、狐、獅子、虎、象、小鳥、猿、兎といった動物の絵がどんどん出てきて、その繊細さに溜息が出そうになった。ラファエロとは全く異なるが、これもまた世界のすべてがあるような、宇宙的な絵画だ。

 実は最近、映画『かぐや姫の物語』を見て、 ・・・続きを読む
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筆者

古賀太

古賀太(こが・ふとし) 日本大学芸術学部映画学科教授(映画史、映像/アートマネジメント)

1961年生まれ。国際交流基金勤務後、朝日新聞社の文化事業部企画委員や文化部記者を経て、2009年より日本大学芸術学部映画学科教授。専門は映画史と映画ビジネス。訳書に『魔術師メリエス――映画の世紀を開いたわが祖父の生涯』(マドレーヌ・マルテット=メリエス著、フィルムアート社)、共著に『日本映画史叢書15 日本映画の誕生』(岩本憲児編、森話社)など。個人ブログ「そして、人生も映画も続く」をほぼ毎日更新中。http://images2.cocolog-nifty.com/

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