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故宮博物院展、「國立」2文字抜け問題で露呈したこと

古賀太 日本大学芸術学部映画学科教授(映画史、映像/アートマネジメント)

 6月24日から上野の東京国立博物館(東博)で始まった「台北 國立故宮博物院 神品至宝」展は、日本で初めて台北の故宮博物院の所蔵品を見せる展覧会だ。歴代中国皇帝のコレクションのうち、重要な作品が1948年に内戦で台北に渡り、北京とは別の故宮博物院ができた。今回はそのうち名品186件を選んだものだが、この貴重な展覧会が実は開催直前に大揺れに揺れていた。

 というニュースは、台湾では21日の朝刊各紙で1面を飾ったが、日本ではほとんど報じられなかった。

 問題は、ポスターなどに「國立」の2文字が抜けていたというもの。日本政府は現在、中国に配慮して台湾を正式に国として認めていない。従って「國立」という表現が使いにくかったのだろう。ところが故宮博物院はこれが改められないと展覧会を中止すると宣言したため、日本では慌ててポスターに文字を張って「國立」を入れた。

駅貼り駅貼りのポスター=撮影・筆者
 駅貼りの写真をよく見ると、文字の大きさや色調の違いから明らかにその部分が後で貼られたことがよくわかる。関係者の話だと、開会式当日の23日明け方に作業が済んだようだ。

 なぜこれがニュースにならなかったのか。

 理由は簡単で、ほとんどのマスコミが主催に加わっていたからだ。ポスターなどでは、主催がNHK、読売新聞社、産経新聞社、フジテレビジョン、朝日新聞社、毎日新聞社、東京新聞。特別協力としてTBS、テレビ朝日、日本テレビ放送網、共同通信社。

 加わっていないのは日経新聞くらい。確かに日経では22日夜の電子版に記事がある。

 「東京国立博物館で24日から開催予定の『故宮展』のポスターなどから、正式名称にある『国立』の文字が削除されているとして台湾側が抗議している問題で、日本側は22日までに、台湾の要請に応じて修正に乗り出した。一通り作業を終えて台湾側の承認を得た上で、予定通り23日に開幕式を開き、開催を迎えたい考え」

 開会式では東館の銭谷眞美館長が、ポスターの不手際を詫びるという前代未聞の挨拶があったという。

 それに対して故宮博物院の馮明珠院長は「中華民国の國立故宮博物院」を強調しつつ、東博の謝罪を受け入れた。もちろんこれをきちんと報じたのは一部のネットのみ。

故宮.「國立」が抜けていたチラシ
 なぜ「國立」の文字が抜けたのかわからない。朝日のネットを見てみると、正月の特集に始まって、記事には「國立」の文字はほとんどない。

 もともと、展覧会の正式名称に「國立」という文字を使うこと自体が、ある種のトリックだった。つまり旧字を使って固有名詞として、通常の記事ではほとんど使わないという摩訶不思議な論理だ。

 今回の騒ぎの根本にあるのは何だろうか。一つは、「國立」という旧字を正式名称に入れたのに、それを一部のポスターなどで入れなかったことにある。それなら最初から「國立」か「国立」を必ず書くことに決めておけばよかったのだ。

 もともと、今回の展覧会に関して中国側からの抗議はこれまで一切ない。固有名詞として旧字を使う約束をしたのに、マスコミは記事やポスターで自らの論理でそれを省いた。東博とマスコミのそんなゴマカシが、台湾側には通じなかった。

 さらに奥深い問題は、マスコミの

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