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『アナと雪の女王』独自解釈、掲載拒否の怪――「救済」してくれたのはインターネットだった

中森明夫

 『アナと雪の女王』について書いた私の原稿が、月刊誌「中央公論」に掲載拒否されました。既にこの全文が以下のサイトで公開されています。http://real-japan.org/ をご参照ください。

 ここでは、今回の経緯について詳しく説明したいと思います。

 「中央公論」編集部の面識のない編集者からメールが届いたのは、5月15日の午後でした。映画『アナと雪の女王』の大ヒットについての考察を書いてほしいという。分量は3600字程度で、締め切りは11日後と異様にタイトでした。普通、月刊誌の場合、締め切りの前々月ぐらいに依頼されることが多いです。それでも引き受ける旨を返信しました。私自身、『アナと雪の女王』について書いてみたいと思っていたし、依頼のメールがとても熱心な感じだったということもあります。

氷の城を築き、解放されるエルサ。主題歌「Let It Go ~ありのままで~」を高らかに歌い上げるシーンだ〓2014 Disney. All Rights Reserved..jpg拡大『アナと雪の女王』。氷の城を築いたエルサは主題歌「Let It Go ~ありのままで~」を高らかに歌う=2014 Disney. All Rights Reserved
 件の編集者から電話があって、私の『アナ雪』観を話しました。とても喜んでいる様子で「もっと原稿の分量を増やしましょうか?」と言われたほどです。

 締め切り2日前に原稿を完成させて、送りました。翌々日、編集者から電話があった。声が曇っています。私の原稿に問題があるという。

 まずはストーリーを詳しく紹介している、いわゆるネタバレについて。

 しかし、公開から3か月を経て、記録的な大ヒットをしている映画です。公開前や直後にエンタメ情報誌に書くのならまだしも、論壇誌「中央公論」に批評文として書くのに、どうだろう? ストーリー紹介は必要です。「ネタバレ注意」と喚起するだけで充分ではないか? そんなことを話しました。ただ、この点については充分に交渉の余地があると感じました。

 続いて、長谷川三千子氏について。

 私の論では何人かの著名人を雪の女王にたとえています。長谷川氏についての見解は、既に電話で件の編集者に伝えていました。それが突如、ダメだという。どこがどうダメなのか説明を求めました。が、明瞭な回答はない。

 記述が間違っているとか、差別表現があるとか指摘され、納得すれば直します。ただ、これは私の署名原稿なんですよ。つまり「意見」です。長谷川三千子氏に異論があれば、ご自身が反論されればいいのではないか? 長谷川氏はNHK経営委員という準公人であり、埼玉大学名誉教授で充分に発言力があります。

 話はそれで終わりません。さらに雅子妃について書いたところが問題だと言われました。「皇太子妃が『ありのまま』生きられないような場所に、未来があるとは思えない」と書いています。それは「雅子の人格を否定するような動きがあったのも事実です」という皇太子の発言を受けてのもの。このあたりも問題だという。

 首を傾げました。皇室に触れたら何でもタブーではないでしょう。「中央公論」がかつて深沢七郎の小説をめぐり皇室問題で事件になったことは、知っています。しかし、半世紀以上も昔の話で、今回の私の文章の内容とはまったく違います。皇室を侮辱したのでもなければ、反天皇制の内容でもない。皇太子殿下の発言を支持して、バッシングによって心労に至った雅子妃をねぎらおうとしたものです。

 「週刊文春」6月19日号には<雅子さまは「雪の女王」か>と題する3ページの記事が掲載されています。私の論とは真逆で、雅子妃に対するバッシング的な色彩の強いもの。しかし、皇太子妃を雪の女王になぞらえるのは珍しくない発想かもしれない。この記事が日本で最大部数の週刊誌に載り、この見出しが新聞広告や電車の中吊り広告を飾って、問題が生じたとは聞いていません。雑誌の性格の違いはあるにせよ、雅子妃に触れたからタブーにするというのは過剰反応に過ぎるというものでしょう。

 長谷川三千子氏と雅子妃の記述について、いったいどういう問題なのか、再三詳しい説明を求めましたが、明瞭な回答はありません。「編集部の姿勢や質に合わない」と曖昧な言葉が繰り返されるばかりです。

 結局、なんとこの電話一本で掲載拒否を通告されました。正直、啞然とした。10分か15分程度の会話だったでしょうか?

 私はライター生活30年以上です。新聞や雑誌などたくさんの出版メディアに文章を発表してきた。しかし、今回のような事態は初めてです。原稿の記述をめぐって編集者とやりあうことはある。一字一句、自分の書いた通りに載せるべきだとも主張しません。

 こちらが折れることもある。たとえば、ある女性誌で「キムタク」と書いたら、その記述はやめてくれと言われました。いやー、困惑した。木村拓哉サイドに気をつかっているのでしょうか? 信頼できる編集者から「どうしても、これはダメなんです。勘弁してください!」と泣きつかれ、「キムタク」を「木村拓哉」に変更しました。

 しかし、後に他の雑誌でこの一件をネタに「キムタク禁止令の怪」というコラムにして、 ・・・続きを読む
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筆者

中森明夫

中森明夫(なかもり・あきお) 作家・アイドル評論家

1960年生まれ。著書に『アナーキー・イン・ザ・JP』(新潮文庫)、『午前32時の能年玲奈』(河出書房新社)など多数。