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 実際のところ、本当にこうした近代的なものがアトピー性皮膚炎の原因なのかということについて、ひとつひとつはっきりとした検証がなされているわけではない。

 確かに、一部の食品添加物が人によってはアレルギー反応を引き起こす原因になることはあるが、社会で使用される食品添加物の増加がアトピー性皮膚炎患者の増加と関係している、という厳密なデータはない。

 また、もっとも古いアトピー性皮膚炎の事例は、今から2000年以上前にさかのぼったローマ帝国の初代皇帝アウグストゥスだといわれるように、近代よりはるか以前からアトピー性皮膚炎患者は存在していたはずである。つまり、アトピー性皮膚炎は、必ずしも近代的な要因だけが原因で起こっているわけではない。

 私は、アトピー性皮膚炎を近代的要因と結びつける発想は、科学的な根拠とはあまり関係なく、多くの人々にとってそれがとてもしっくりとくる「物語」だったから受け入れられたのではないかと考えている。

 長くなってしまったが、「なぜ、アトピー性皮膚炎の場合はこういうデトックス話が語られるようになるのか」という問いに戻ると、アトピー性皮膚炎は文明病だというイメージがあるため、あらゆる近代的な要因を原因物質として想定しやすいという特徴があるからではないかと考えられる。

 さらに、そもそもアトピー性皮膚炎は原因がはっきりと特定できないために、デトックスのようなわかりやすい「物語」が必要とされているということもあるだろう。多くの人は、原因がはっきりわからない状態でいることになかなか耐えられないものである。原因がわからないほど、それを説明してくれるわかりやすい「物語」が必要とされるのである。

科学的根拠を凌駕する物語

 ところで、私たちは物事を理解するとき、必ずしも科学的な根拠をもとに物事を判断しているわけではなく、「物語」という理解のしやすいお話の形でまとめられた説明や、わかりやすいイメージに納得させられることが多いのではないだろうか。

 例えば、「ある食品添加物がアトピー性皮膚炎の原因となっているかどうか」、という科学的根拠を示すデータをもとに、「食品添加物が含まれている食品は買うのは止めよう」と判断している人はあまり多くないように思う。それよりも、先の医師が書いたデトックスの話を読み、 ・・・続きを読む
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筆者

牛山美穂

牛山美穂(うしやま・みほ) 早稲田大学高等研究所助教(医療人類学、文化人類学など)

早稲田大学高等研究所助教。千葉県生まれ。早稲田大学大学院文学研究科修士課程修了後、イギリスに渡りUniversity College London医療人類学コース修士課程修了。早稲田大学大学院文学研究科博士号(文学)取得。専門は医療人類学、文化人類学、ジェンダースタディーズ、カルチュラル・スタディーズ。現在の主な研究テーマは、医師と患者の関係、自助グループ、アトピー性皮膚炎をめぐる問題。主な著書に『ステロイドと「患者の知」:アトピー性皮膚炎のエスノグラフィー』(新曜社、2015年)など。

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