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 9月3日、ディズニーは公式Twitterなどで映画『アナと雪の女王』の続編となる新作短編『Frozen Fever』を2015年春に公開すると発表した。

『アナと雪の女王』の拡大『アナと雪の女王』 (c) 2014 Disney. All Rights Reserved.
 アナの誕生日のプレゼントを用意するために、エルサ、クリストフ、オラフが奔走する物語だという。監督は本編と同じくジェニファー・リーとクリス・バック、音楽もロバート・ロペス、クリステン・アンダーソン・ロペス夫妻が担当する(9月3日付『Banq』)。

 マイケル・アイズナーがCEO(最高経営責任者)に君臨していた時代、特に2000年以降のディズニーは、本編とは別スタッフ・別スタジオで制作された続編ビデオを量産して評価を下落させた。

 ジョン・ラセターがCCO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)となった2007年以降は、安易な続編企画は廃案とし、本編を大切にする続編制作に切り替わっている。2012年に制作された『ラプンツェルのウェディング(原題 Tangled Ever After)』も本編『塔の上のラプンツェル』(2010年)と同じくバイロン・ハワード、ネイサン・グレノ両監督によって制作され、見事な後日談となっていた。

 このニュースに先立つ8月25日、『アナと雪の女王』の観客動員がついに2000万人を突破した。主要都市のシネコンなどでは上映を終えた館が多いものの、地方都市や小劇場などで未だ興行は続いており、今も動員は増え続けている。

 日本で公開された全ての映画で2000万人を突破した作品は『アナと雪の女王』と『千と千尋の神隠し』の2本だけだ。後者の持つ観客動員記録は2340万人である。

 発売中のBlu-ray Disc・DVDセット『アナと雪の女王 MovieNEX』は、累計売り上げが213.4万枚に到達。DVDの歴代最多売り上げ記録も『千と千尋の神隠し』が持つ240.3万枚(本年8月18日現在)だ。こちらも歴代記録更新の期待がかかっているという(8月27日付『オリコン』)。

 ほか、来年1月30日からは東京ディズニーランドでスペシャルイベント「アナとエルサのフローズンファンタジー」の開催が決定する(8月24日付『スポーツ報知』)など、今後も話題をさらいそうだ。

 本連載は今回で終了となるが、映画『アナと雪の女王』の評価や歴史的意義などは今後も長期に亘って検証されるべきだと考える。

日本型主観主義の導入

 まず、前回記した「主観的な世界観の設計」についてもう少し詳しく述べたい。

 日本のいわゆる「テレビアニメ」では、予算・スケジュール・人材不足から徹底的な作業合理化と動画枚数の削減が余儀なくされたこともあり、やたらとバストアップの切り返しによる会話や心情をモノローグで代弁したり、時間を自在に引き延ばしたりといった演出が採用されて来た。設定の矛盾、シナリオの構成力不足、キャラクターの心情などは、観客が主観的に同期することで推し量り、そこに「思い入れ」を膨らませて来た。

 一例を挙げれば、スポーツや格闘を扱った作品では、瞬間的な技や闘争に回想・モノローグ・討論・周囲の反応・解説などを重ねて、実時間を数十倍に引き延ばし、狭いコートや闘技場を巨大空間に変貌させて来た。

 また、中高生を主人公に学校生活を描いた作品では、親との家庭生活や授業風景は視界外に置かれ、数名だけの課外や休憩時間がテーマの中心となり、客観的な学校生活総体でなく主観的充実が拡大描写されて来た。

 しかし、線で括り色面で塗り分けられたキャラクターは、いかにも実在感が薄い。これを補うのが背景美術で、写実的にたっぷり描き込むことで臨場感を盛り立てる。実景さながらの空間的密度により、仮想現実に没入しやすくなる。

 また、キャラクターの視線で切り取ったレイアウトとカメラワークの多用なども観客の感情移入を助長する。時には画面一杯の顔のアップの切り返しだけで延々会話が繰り返される。

 巨大な眼、小さな鼻と口、髪色や形の些細な描き分けなど、顔の各パーツの描法が異常に発展して来た理由も、顔の芝居と台詞が優先され、動かなくても長持ちする絵を追求した結果だ。より刺激的・扇情的効果を目指して、顔の一部やハイライトを描き込んだ目だけが大写しになるトメ絵のアップなどもカメラワークや効果線などと共に常用されて来た。

 こうした技術と演出の積み重ねによって、常に「こうであろう」「こうありたい」とする心理・心情・心象の描写が最優先とされ、面倒な場所・時間・空間の現実的整合性は棚上げにされて来た。つまり、観客は各キャラクターに同化・感情移入し、その他の思考を停止することが作品を楽しむ前提となる。

 このような特殊な「日本型主観主義」の観賞訓練を重ねた観客の支持によって、日本のアニメーションは世界でも類例のない量産を可能として来た。

 よって、『アナと雪の女王』の設定不問・アップ頼みの主観主義的演出は馴染み深いものであり、違和感なく受け入れる素地は充分にあったと思われる。

 しかし、本家主観主義を押しのけてまで『アナと雪の女王』が日本で大ヒットを記録した理由は何か。 ・・・続きを読む
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筆者

叶精二

叶精二(かのう・せいじ) 映像研究家、早稲田大学・亜細亜大学・東京工学院講師

映像研究家。早稲田大学・亜細亜大学・大正大学・東京工学院講師。高畑勲・宮崎駿作品研究所代表。著書に『日本のアニメーションを築いた人々』(若草書房)、『宮崎駿全書』(フィルムアート社)、「『アナと雪の女王』の光と影」(七つ森書館)、共著に『王と鳥 スタジオジブリの原点』(大月書店)など。

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