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見かけ倒しのフランス“反アマゾン法” (下)――便利さの裏に…

林瑞絵 フリーライター、映画ジャーナリスト

 “反アマゾン法”は、表向きには町の書店の救済法案。だがこれまで見てきた通りに、実際は町の本屋さんは恩恵を受けていない。

 肝心な消費者といえば、アマゾンを使っていた人であれば、5%の割引がキレイになくなってしまうのだから、一番損をしたとも言えそうだ。では反アマゾン法では、誰も恩恵を受けていないのだろうか。

パリの書店パリの書店=撮影・筆者
 いや、もしや今回の件でちょっと得をした存在があるのなら、それは大手チェーン店フナックではないか。フナックは全国に108の店舗(その他海外に68店舗)を持つが、同時にeコマースの分野でもすでに国内第2位の地位を占める、いわばリアルとネットの両刀使いの会社なのである。

 たしかにフナックは、ネット上ではアマゾンと同じく、「5%の割引」も 「無料配達」もできなくなった(配送料はすかさずにアマゾンと同じく0.1サンチーム=約1.36円とした)。

 だが値引きの方は、アマゾンとは別の作戦がとれる。たとえネット上で「5%の割引」が不可能になっても、ネットで予約した本をフナックの店舗まで取りに行けば、5%の割引は可能だ。これはアマゾンも小さな本屋もできない合わせ技といえる。

 実際、今回の法律可決の裏には、フナック側からのロビー活動もあったとの噂も漏れ聞こえている。

 とはいえ実際フナックがこの特異性をどれほど活かせるのかは、もう少し様子を見ないとわからない。

 ちなみにフナックの店員さんにも、反アマゾン法についての影響を直接聞いてみたが、「客足や売り上げに変化を感じない」ということだった。たかだか5%の割引を狙いフナックまで足を運ぶより、割引なしでも自宅に配達してもらった方が楽でいいと思う人が多いのか。フランス人はケチな人が多いが、ケチより怠惰さの勝利というわけか。

 しかもフナックのサイトは、使い勝手がよくないとも指摘される。フナックのサイトのビジター数は、2000年代前半まではアマゾンよりも多かったのだが、2008年を境に完全に逆転し、現在は年々差が開く一方なのだ。

 また本の売り上げは横ばい状態だが、近年はCDやDVDの売り上げが振るわず、フナック全体の経営は大変厳しそうだ。はたから見ても、決して楽観視できる状況にはない。

 それにしてもだ。反アマゾン法はその名の通り、アマゾンを目の敵にした法律だが、そもそも町の本屋さんを散々潰してきたのは、アマゾンよりフナックじゃなかったっけなあと

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