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土井たか子さんと大江麻理子キャスターのはざまで(下)――期待を裏切ることのできる人

矢部万紀子 コラムニスト

 ここからが大江麻理子キャスターの話になる。マネックス証券の松本大(おおき)社長と結婚すると聞いたとき、「ああ、雇均法後の世界の女性だなあ」としみじみ実感した。大江さんは1978年生まれで、35歳。雇均法ができたとき、小学生だった人。雇均法後の世界の人。

 どんな人かというと、「期待を裏切ることのできる人」である。

大江麻理子キャスター拡大大江麻理子キャスター
 組織に生きる人間にとって、卵が先かニワトリが先かの話だが、場所を与えられると成長するし、成長すると場所を与えられる。だから雇均法後の女性たちは、与えられる場所に敏感だ。正しい。

 私が気づいたとき、大江さんはもうテレビ東京のエースアナウンサーだった。「出没!アド街ック天国」で愛川欽也の隣に座り、下手な駄洒落を言って受けていたし、「モヤモヤさまぁ~ず2」で大きなサイコロを転がし、さまぁ~ずの二人と笑っていた。

 可愛らしく、人柄がよさそうで、度胸も伝わり、人気が出るのも当然と思った。彼女をニューヨーク支局に赴任させるとテレビ東京が決めたとき、誰もが小谷真生子さんのあとの「ワールドビジネスサテライト」のキャスターにするための修業だろうと思ったはずだ。

 1年で帰って、即キャスターになったとき、「意外と早かったな」と私は思ったが、それはテレビ東京が判断することだ。

 ワールドビジネスサテライトを熱心に見ているわけではないが、周囲に熱心な視聴者は何人かいる。まじめな仕事好きなおじさまたちで、少しくつろぎながら見ては、明日からのビジネスのネタ、そこまでいかないまでもパワーランチの席や部下との雑談で使えるネタ、そんなものを探しているように見受けた。大江さんは、そういう番組のキャスターを精一杯果たしていたと思う。

 そこに松本社長との結婚である。キャスターに就任し、半年もたっていない。すごい、私だったら絶対できないと、プロポーズされることなど120%ないのにもかかわらず反射的に思った。

 松本社長が大金持ちだ、年上だと騒がれたが、小金持ちでも普通でも、同い年でも年下でも、社長と結婚するのはキャスターとしてどうなのか。

 社長というのは、経済活動の重要なプレイヤーである。万が一、マネックス証券が不祥事を起こした場合、どう伝えるのか。マネックス証券が画期的な商品を発売した場合、それを伝えると視聴者は、「妻が宣伝している」と見ないだろうか? 報道に携わったものとして、まずそう思った。

 次に思ったのが、「会社、がっくりだろうな」だった。テレビ東京の幹部は、大江さんを抜擢し、これからのテレビ東京をある意味で託したのに、そういう相手と結婚ですかと本音で思ったろう。会社の論理を優先させる人間なら、そういう道筋で「会社の期待を裏切る結婚」に葛藤したはずだ。

 などと思うのは、私が雇均法以前の人間で、「会社に入れていただけただけでありがたい」派だからであって、大江さんは全然違うだろうか?

 好きな人と結婚したいと思い、自分の人気と実力があれば問題ないと思ったか。何も考えなかったか。少子化時代、おめでたい話にけちをつけるようなことは言いにくい。テレビ東京の経営陣も、ストレートには言わなかっただろう。だが、「何のためにニューヨークに生かせたのだ」と思ったはずだ。

 大江さんは最終的に、結婚という決断をした。会社の期待より、自分の幸せを選べる。これを私は「期待を裏切ることのできる人」と命名している。

 こういう人の存在に気づいたきっかけは、実は広末涼子という女優だった。 ・・・続きを読む
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筆者

矢部万紀子

矢部万紀子(やべ・まきこ) コラムニスト

1961年生まれ。83年、朝日新聞社に入社。宇都宮支局、学芸部を経て、週刊誌「アエラ」の創刊メンバーに。その後、経済部、「週刊朝日」などで記者をし、「週刊朝日」副編集長、「アエラ」編集長代理、書籍編集部長などをつとめる。「週刊朝日」時代に担当したコラムが松本人志著『遺書』『松本』となり、ミリオンセラーになる。2011年4月、いきいき株式会社(現「株式会社ハルメク」)に入社、同年6月から2017年7月まで、50代からの女性のための月刊生活情報誌「いきいき」(現「ハルメク」)編集長。

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