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「紙」から書物を考える(下)――林業の挑戦から学ぶこと

福嶋聡 MARUZEN&ジュンク堂書店梅田店

 地方の過疎化とエネルギー問題に解決の糸口を提起し、2014年の新書大賞ベスト1(ぼく個人は「新書」と括らなくてもベストだと思っている)に選ばれた『里山資本主義――日本経済は「安心の原理」で動く』(藻谷浩介・NHK広島取材班著、角川oneテーマ21)で、いっとう最初に紹介されるのが、中国山地の山中、岡山県真庭市の建材会社銘建工業が、製材過程で出る木屑を使ったバイオマス発電で工場の電力をすべてまかない、更に余った木屑を圧縮してペレットという燃料をつくり、「木屑バイオマス発電」を全国に広めた実践である。

 その実践が多くの賛意の下に受け入れられたのは、山の木からつくられたペレットという燃料のエコロジカルな魅力による。

 山の木は一度切ってもまた生える再生可能な資源であり、山を燃料源にすれば無尽蔵に燃料を得ることができる。そして山の木は、定期的に伐採した方が、環境は良くなっていくのである。今あるものをひたすら採掘し尽くそうとしている石油資源とは、その点が大きく異なる。

 ただし、真庭で「木屑バイオマス発電」が成り立つのは、それだけの量の製材屑が出るからである。これは、銘建工業が、細く切った木の板を格子状に張り合わせて大きな材木のようにした「集成材」を開発、販売を軌道に乗せた競争力ある企業であればこそ、と言える。いわば合わせ技であり、木を伐り出して燃料にするだけで、石油や原子力に対抗したエネルギー産業になれるわけではない。

 「古来、日本人は山の木を利用することに長けていた」と銘建工業の中島社長は言う。その利用法は多岐にわたり、又時代とともに変遷してきた。

 三重県北牟婁郡紀北町の速水林業で社長を務める速水亨は、その著書『日本林業を立て直す――速水林業の挑戦』(日本経済新聞出版社)のなかで、次のように書いている。

 “この時期(1951年8月)はまた、炭や薪などをエネルギー源としてりようしていた時代から、電気・ガス・石油に切り替わる時期でもあった。炭や薪のための木が必要とされなくなる一方で、建築資材などになるスギやヒノキが求められた”。 だが、“やがて丸太の足場が鋼管の足場にとって代わられるようになると、需要が一気に減って売れなくなった”。そして、建築資材自体もまた、円高によって割安となった輸入木材にとって代わられる。

 ヨーロッパでも同様に、木材需要は、時代の産業構造のあり方に振り回された。精錬業での燃料需要を石炭に奪われ、建設業でも鉄や鋼の使用が増大し続けるなど、19世紀を通じて木材への需要は減少の一歩をたどっていた。この需要の空隙を埋めたのが、製紙業であったと、前述のローター・ミュラーは言う。

 だとすれば、製紙業は、銘建工業の「集成材」のように、「木屑バイオマス発電」を成り立たせる産業構造のプレーヤーとなり得るのではないか。そして製紙業の重要な顧客である出版業も、また。

 かつて、出版物の生産は紙資源の浪費と見なされ、売れ残ったら廃棄するしかない「再販制」が環境破壊の元凶とすら言われたことがある。

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