2015年04月28日
1月につづいて、歌舞伎興行のレポートを記す。
この間に、坂東三津五郎と中村小山三が亡くなった。三津五郎は中村勘三郎と同学年で、勘三郎急逝の後は昭和30年代生まれの世代のリーダーとなるべき人だった。小山三は現役最長老で、94歳での大往生だった。
おめでたい話としては、1月から4代目中村鴈治郎の襲名披露興行が始まった。
歌舞伎座は、尾上菊五郎、松本幸四郎、中村吉右衛門、片岡仁左衛門、中村梅玉ら大幹部がほぼ全員揃って、新しい鴈治郎を迎え、正月についでの大一座となった。
大勢の役者が出て、さらに鴈治郎が主役のものが二つ、口上を兼ねた『芝居前』もあるので、ひとりずつの出番は少なかった。
東京での襲名披露にあたり鴈治郎が選んだのは、大阪でも演じた『吉田屋』の伊左衛門と、大阪では演じなかった『河庄』の紙屋治兵衛で、どちらも初代鴈治郎が得意としていた『玩辞楼十二曲』のひとつ、すなわち「家の藝」である。
『吉田屋』では父・坂田藤十郎が相手役の夕霧を勤めた。藤十郎は83歳で、さすがに出演時間が短くなっている。『河庄』では梅玉と中村芝雀が相手役を勤めた。一族では、弟の中村扇雀が、『玩辞楼十二曲』のひとつだが40年ぶりの上演となる『碁盤太平記』の主役・大石内蔵助を勤めた。
鴈治郎の長男の壱太郎は、『碁盤太平記』『石切梶原』『河庄』『石橋』と4演目で重要な役を勤め、初代から数えて5世代目であることをアピールした。扇雀の子の虎之介は『河庄』『石橋』に出た。
襲名なので「家の藝」を見せるのは当然といえば当然だが、鴈治郎が主役を張れるレパートリーがそう多くないのも事実だ。
襲名披露興行が終わった後、鴈治郎が歌舞伎界でどういうポジションに就けるのかは、見えない。同世代の勘三郎、三津五郎がいなくなったいま、『鴈治郎』という大きな名跡は今後リーダーになっていい名なのだが……。むしろ、息子の壱太郎のほうが平成世代のなかで一頭地を抜きつつあり、その将来性を改めて認識させた。
大幹部たちは舞踊の『六歌仙容彩』と『芝居前』に出ただけだったが、幸四郎は『石切梶原』で主役を勤めた。息子の市川染五郎も『碁盤太平記』『河庄』『石橋』に出て、存在感を示した。鴈治郎家と幸四郎家が目立つ興行となった。
染五郎の1月以降を確認すると、1月は歌舞伎座に父・幸四郎と共に出て『金閣寺』で主役を勤め、他にも2演目。2月は博多座の花形歌舞伎で座頭となり『伊達の十役』で10役を奮闘。3月は歌舞伎座に戻り『菅原伝授手習鑑』の通しで武部源蔵と松王丸と、大役が続いている。
父と一緒に出る歌舞伎座でもいい役がまわり、花形中心の公演ではリーダーとして主役と、どの劇場でも恵まれた環境にある。
毎年4月のみの興行だが、四国こんぴら歌舞伎大芝居も今年で31回目となる。
今年は「菊五郎と左團次抜きの菊五郎劇団」の座組(この二人は歌舞伎座に出ている)。繰り上がって中村時蔵が座頭となり、尾上菊之助、尾上松緑、尾上松也、尾上右近、中村梅枝、坂東亀三郎、坂東亀寿ら菊五郎劇団の花形が藝と美を競った。
菊之助は『伊勢音頭恋寝刃』『御所五郎蔵』で、どちらも立役の主役。最近、女形が少なくなっているのは、当人が将来の菊五郎を見据えて立役のレパートリーを重視しているからだろうが、この劇団に、梅枝と右近という、若く美しい女形が二人も育ってきたからでもあろう。
染五郎同様に、菊之助も正月から大役が続いている。
1月は国立劇場で菊五郎劇団の『南総里見八犬伝』。2月は歌舞伎座に出て『関の扉』の小野小町姫と傾城墨染と、『一谷嫩軍記』の〈陣門・組打〉の小次郎と敦盛。3月は歌舞伎座の『菅原伝授手習鑑』で桜丸。実父・菊五郎と義父・吉右衛門という二人の大幹部に引き立てられる立場となり、最も恵まれた環境にある。
知名度が高くなってきた松也は、テレビのバラエティ系番組によく出ているので、軽薄なイメージももたれ、ふざけているとの批判もあるようだが、ちゃんと歌舞伎への出演も続いている。
バラエティに出るのは歌舞伎公演の宣伝を兼ねてのものが多く、そこまでしないと客が来てくれないとの危機感の現れであろう。
松也の今年をふりかえると、1月は浅草歌舞伎で座頭となり、自分より少し若い平成世代を引っ張った。2月は博多座で染五郎の相手を勤め、3月は浅草とほぼ同じメンバーで京都・南座の花形歌舞伎で座頭となり、『鳴神』『弁天娘女男白波』の大役を勤めた。
しかし、4月のこんぴら大歌舞伎で菊五郎劇団に戻ると、菊之助、松緑、さらには亀三郎、梅枝、右近ら御曹司組の次のポジションになってしまう。この後は、6月から8月は帝国劇場で東宝ミュージカル『エリザベート』に出演する。ダブルキャストで皇后暗殺者・ルキーニに挑戦する。 (つづく)
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください