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岩波ブックセンター、柴田信サンの思い(上)

「普通の本屋」の条件

福嶋聡 MARUZEN&ジュンク堂書店梅田店

 岩波ブックセンター

 東京の神保町の交差点近く、入り口から全体が見わたせる70坪の書店。やや古めかしいこの店を長年にわたって営んできたのが、柴田信サンである。

 1930年生まれ。教師などを経て書店の世界に入り、今年(2015年)でちょうど50年になる。

 御年85歳の柴田サンは、会長職にありながら、今でも週に3回、店頭に立っている。そして訪れた書店や出版社の人間(多くが、柴田サンの弟子を自認する)を笑顔で迎え、近くの喫茶店に誘い、時間が許す限り語ってくれる。

神保町・岩波ブックセンター東京・神保町にある岩波ブックセンターの岩波文庫の棚
 何度訪れても、話が尽きることはない。柴田サンの仕事が、活動が、現在進行形だからである。

 そんな「柴田学校」に、一人の熱心な生徒が通ってくるようになった。元業界紙『新文化』編集長で、『「本屋」は死なない』(新潮社)の著者、石橋毅史である。

 以前から時々訪れて話を聞いていた石橋が、ICレコーダーを携えてインタビューし始めたのは、3年くらい前からだと言う。1~数週間に一度、それでも、録音時間は膨大なものになった筈だ。

 その中で、石橋が募らせたのは、「どこまでいっても普通」な柴田サンの話を一冊にまとめたい、という思いだった。それが、今年4月に結晶した。『口笛を吹きながら本を売る――柴田信、最終授業』(晶文社)である。

 柴田信サンには、『出版販売の実際』(共著)、『ヨキミセサカエル――本の街・神田神保町から』(ともに、日本エディタースクール出版部)という著書もある。講演を頼まれることも多い。

 「神保町ブックフェスティバル」ではずっと中心メンバーであり、「本の街・神保町を元気にする会」の事務局長も務めている。柴田サンを師と仰ぐ人が多い所以である。

 4月8日に開催された「『口笛を吹きながら本を売る』刊行と、柴田信さん書店人生50周年を祝う会」には、書店、出版社、取次、そのOBと、100名以上の「弟子」たちが駆けつけた。

 70年代に店長を務めていた芳林堂池袋店では、恐らく日本の大型書店で初めて、スリップを使った商品の単品管理法が開発、活用された。著書では、その実績を踏まえて、単品管理の必要性を訴えた。現在のPOS管理の先駆けである。

 しかし、石橋が柴田サンの話を聞き続けたのは、そしてそれを本にしたいと思ったのは、柴田サンのそうした実績ゆえではない。柴田サンの「自らが普通であること、平凡であることに

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