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 『ミニオンズ』の日本興行は80日間を超えて未だ継続中だ。世界興行収入は10月15日現在で11億5151万ドル(約1381億8120万円/1ドル=120円計算)、こちらも伸び続けている。

 10月14日には、ロサンゼルスエレクトロニック・アーツとイルミネーション・エンターテインメント、ユニバーサルパートナーシップス&ライセンスの3社共同で、スマートフォン用無料アプリケーション「ミニオンズ パラダイス」の配信を開始し、WEB上で話題となっている。12月2日発売の『ミニオンズ』日本版ブルーレイ・DVDの予約販売も好調のようだ。

ディズニーの呪縛との距離感

雑貨点店頭のミニオングッズコーナー拡大雑貨店店頭のミニオングッズコーナー=撮影・筆者
 『ミニオンズ』を製作したイルミネーション・エンターテインメント社は2007年に新設されたばかりの新興スタジオである。

 これまでに製作された長編はわずかに5本だが、いずれも世界的大ヒットを記録し、1本もハズレがない。

 アニメーションの世界では前代未聞の快挙だ。この右肩上がりの急成長を成し得たのは、創業者で現CEO(最高経営責任者)のクリス(クリストファー)・メレダンドリの豪腕と言える。

 今や、メレダンドリはアニメーション業界のトップを独走するディズニー/ピクサーの全作品を統括するCCO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)ジョン・ラセター、長年のライバルであるドリームワークス・アニメーションSKGのCEO(最高経営責任者)ジェフリー・カッツェンバーグと肩を並べる存在と目されている。

 ラセターとカッツェンバーグの二人はディズニー出身であり、かつて部下(制作会社ピクサーの監督)と上司(配給元ディズニーのプロデューサー)という関係で世界初の3D-CG長編『トイ・ストーリー』(1995年)を世に送り出した間柄だ。

 カッツェンバーグはディズニー内部の主導権争いから退社してドリームワークスを創設。ラセターの新作『バグズ・ライフ』(1998年)公開に先んじて、ディズニー牽制の目的でカッツェンバーグが同じテーマの『アンツ』(1998年)を急ごしらえでぶつけた経緯があり、何かと因縁が深い。

 要するに、どちらも「ディズニー黄金期の継承」を掲げる人物だ。ディズニーでキャリアをスタートさせ、独立・移籍しても「ディズニー式」を求められ、独創性を発揮できずに消えていく関係者・スタッフは数知れない。

 それほどディズニーの影響力は強烈なのだ。これはディズニーに対するコンプレックスであり、ディズニーの呪縛である。

 メレダンドリもディズニーの実写部門に在籍した経歴があり、イルミネーションのスタッフにもディズニー/ピクサーからの移籍組は多数いる。

 しかし、その作風にはディズニーに限らず先行作品を見習いつつ違うものを目指すという、楽観的で軽快な気分が感じられる。つまり、呪縛やコンプレックスの印象が薄い。これがイルミネーションの大きな特徴と言える。

イルミネーションの歴史

クリス・メレダンドリ.拡大クリス・メレダンドリ
 イタリア系アメリカ人であるメレダンドリは、1986年頃からコロンビア、ユニバーサルなど各映画会社で製作スタッフを務めた後、ウォルト・ディズニー・ピクチャーズに移籍。

 実写映画『スウィング・キッズ』『クール・ランニング』『天使にラブ・ソングを 2』(全て1993年)などのプロデューサーを務めた。

 ワーナーで『Trial by Jury』(1994年/日本未公開『脅迫』としてソフト発売)の製作を経て、1994年に新設された20世紀FOX・アニメーション部門に移籍した。

 FOXは、かつてディズニー次世代の旗手と目されながらクーデター的に独立した過去を持つドン・ブルースとゲーリー・ゴールドマン、そのスタッフ130名を招聘し、アリゾナ州フェニックスに巨大な2Dアニメーションスタジオを建設した。

 300名のスタッフを擁する同スタジオは、当時ディズニーに次ぐ規模であった。長編第1作『アナスタシア』(1997年)は、監督・脚本・音楽に至るまでメインスタッフの多くがディズニー長編経験者で、「第二のディズニー」路線は明確であった。

 「第2作は『アイス・エイジ』」と発表されたが何故か製作中止となり、代わってSF大作『タイタンA.E.』(2000年)が製作された。

 この作品は3D-CGと2D作画を併用し、未踏だったSF長編で新境地を拓こうというディズニーの意欲が感じられたが、興行は大敗。スタジオは閉鎖となってしまった。FOXの「ディズニー後追い路線」は、ここでいったん絶たれたと言って良い。それゆえに、部門代表となっていたメレダンドリは大胆な改革者であり得た。

 FOXは『タイタンA.E.』制作中の1997年にCG制作会社ブルースカイ・スタジオを傘下に収めていたことから、メレダンドリ総指揮による3D-CG長編アニメーションの製作が実現した。

 メレダンドリは頓挫していた『アイス・エイジ』(2002年)の企画を復活させ、新生FOX/ブルースカイの長編第1作として製作。ブルースカイ代表のクリス・ウェッジが監督した『アイス・エイジ』は、ドン・ブルースらの路線とは大きく異なる明快なコメディであり、全世界でファミリー層を中心に大ヒットを記録した。

 以降もメレダンドリは製作総指揮を歴任し、『ロボッツ』(2005年)『アイス・エイジ2』(2006年)『ザ・シンプソンズMOVIE』(2007年/2D)『ホートン ふしぎな世界のダレダーレ』(2008年)と立て続けに大ヒット作を連発した。

 しかし、メレダンドリはこの成功に満足せず、新たなステージに進む。彼は、FOX/ブルースカイ体制が安定期を迎え、「これから」という時期に退社して独立し、2007年にイルミネーション・エンターテインメントを創設した。社屋は製作会社が密集するロサンゼルスではなく、カリフォルニア州サンタモニカに構えた。

 アニメーション映画は、コントロールが大変に困難なビジネスである。キャラクターの動きから背景美術、小物一つに至るまで画面に映るものは全て創作物であるため、その作業は際限がない。企画・脚本・制作・撮影・編集・宣伝など、全行程に膨大なマンパワーが必要となる。

 製作期間は長引き、製作費・人件費は用意された予算を上回り、少々ヒットしても赤字でスタジオは倒産という例は無数にある。FOXスタジオ閉鎖を経験し、ブルースカイとの共同制作が1作ごとに予算もスケジュールも膨張することを懸念していたメレダンドリは、新スタジオ創設にあたり常識破りの経営・制作方針を打ち出した。

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 メレダンドリの方針は端的に言って、以下5点である。 ・・・続きを読む
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筆者

叶精二

叶精二(かのう・せいじ) 映像研究家、亜細亜大学・東京工学院講師

映像研究家。亜細亜大学・大正大学・東京工学院講師。高畑勲・宮崎駿作品研究所代表。著書に『日本のアニメーションを築いた人々』(若草書房)、『宮崎駿全書』(フィルムアート社)、「『アナと雪の女王』の光と影」(七つ森書館)、共著に『王と鳥 スタジオジブリの原点』(大月書店)など。

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