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「暴力」について改めて考えさせられた本(下)

桃井治郎『アルジェリア人質事件の深層』、内田樹『ためらいの倫理学』

福嶋聡 MARUZEN&ジュンク堂書店梅田店

 「正義」の名の下に行われる過剰な暴力や殺人には与したくない。

 国家-資本の「テロ」行為を前に手を拱(こまね)いているのも嫌だ。

 「テロ」との距離感を測りかねている時にぼくが出会ったのが、桃井治郎 『アルジェリア人質事件の深層――暴力の連鎖に抗する「否テロ」の思想のために』(新評論)だった。

 2013年1月16日、アルジェリア、イナメナスのガスプラントが武装集団に襲撃され、何十人もの外国人スタッフが人質として拘束された。3日間の攻防の末、アルジェリア軍は掃討作戦を敢行、武装集団の壊滅(29名死亡、3名拘束)に成功するも、人質のうち、日本人10人を含む10カ国40人が犠牲となった。

居住区と天然ガス生産施設を結ぶ道沿いには、焼け焦げた車両が放置されていた=31日、アルジェリアアルジェリア人質事件の現場=2013年1月
 ぼくは、この事件が、「ジャスミン革命」から「イスラム国」へと至る中東―北アフリカの出来事の連鎖の中で、特に重要な事件の一つだと思った。

 だが、事件直後こそ衝撃とテロへの怒りに満ちた報道で溢れていたものの、詳しい続報や検証は続かなかった。

 事件の約2年半後に刊行された本書は、ぼくにとって待望久しい一冊であった。

「テロ」の連鎖を断ち切る思想

 事件の真相―深層を知るには、正確で詳細な経緯とともにその背景を知り、事件を時空間座標の中で位置づけることが必要である。

 桃井は、アルジェリア内外の新聞報道から事件を時系列で整理し、アルジェリア政府並びに日本を含む諸外国の対応を検証した上で、オスマン帝国領時代からフランス植民地、独立、軍事独裁、内戦を経て現在に至るアルジェリア近現代史を俯瞰し、石油、天然ガス資源に依存するアルジェリアの経済状況とグローバル・テロリズムが交差する「今」に、この事件を定位していく。

 「テロ」には、そこに至る歴史の流れがあり、原因がある。

 だが、「テロ」は何物をも解決しない。「テロ対策」という名の「テロ」が、今度は国家ー資本の側からなされるだろう。

 そもそも、合法的に「暴力」を手許に集約する国家こそ、「テロ」の連鎖の始源である(大杉栄のいう「征服国家」による「奴隷化」)。「テロ」は「テロ」を生み、「テロ」の連鎖を存続・拡大していくものでしかない。

 「テロ」の連鎖を何とか断ち切るために桃井が参照するのが、

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