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舘野仁美さんに聞くスタジオジブリの現場(上)

「本を出すことで、少しでも動画の地位が認められて欲しい」

叶精二 映像研究家、亜細亜大学・大正大学・女子美術大学・東京造形大学・東京工学院講師

 2015年11月21日、スタジオジブリで27年に亘って動画チェック(※註)を務めて来た舘野仁美さんが半生を綴った回顧録『エンピツ戦記 誰も知らなかったスタジオジブリ』(中央公論新社)が出版された。
 宮崎駿、高畑勲、鈴木敏夫といったジブリの中心人物から、著名なアニメーターたち、そして動画という過酷な職種について、現場ならではの視点から時に赤裸々に、時にユーモアを交えて綴られている。
 スタジオジブリの自主発行誌『熱風』の連載から出版に至った経緯、本書の行間からこぼれたエピソード、そして現在オーナー兼シェフを務める「ササユリカフェ」について、舘野さんにお話を伺った。 (文責/叶 精二)

※註 手描き・2Dアニメーションの動きは、キィとなるポーズを連続して描く「原画」と、その間(「中割」)を指定枚数で埋める「動画」という職種のリレーによって生成される。日本では「動画」は清書を兼務しており、最終的な画面は動画によって清書されたものとなっている。「動画チェック」または「動画検査」という職種は、大勢の「動画マン」によって仕上げられた「動画」の個人差・筆癖(線の強弱・硬軟ほか)・描き違いなどを選別・修正し、各カットの質を向上・統一する仕事を担う。いわば線画段階の最終関門である。

舘野仁美(たての・ひとみ)
1960年、福島県生まれ。アニメーター、西荻窪「ササユリカフェ」オーナー・シェフ。東京デザイナー学院を卒業後、作画スタジオ、フリーランスを経て、1983年にテレコム・アニメーションフィルム入社、『名探偵ホームズ』などの動画を担当。1987年、スタジオジブリに移籍、『となりのトトロ』『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』『ハウルの動く城』『崖の上のポニョ』『風立ちぬ』など、数多くの作品で動画チェックを歴任。2014年、スタジオジブリを退社。同年12月、東京・西荻窪に「ササユリカフェ」をオープン。

『熱風』連載から単行本出版へ

――本書はスタジオジブリ発行の月刊誌『熱風』に連載された原稿を基に構成されていますが、御執筆はどのような形で進行されていたのでしょうか。

舘野仁美さん舘野仁美さん
舘野仁美 私は文筆業は未経験でしたので、スタジオジブリ出版部(当時) の平林享子さんを読者に想定して、彼女が面白いと思ってもらえるものを書いていこう――という気持ちで書き始めました。

 連載中にコツコツ草稿を書き溜めて、最終的にノート3冊分くらいになりました。

 それを基に平林享子さんに構成して頂きました。平林さんが足りないと思う部分、膨らませたい話題などはインタビューで適宜補って下さるか、私が新たに書き起こしたりして、文体を整えて原稿に仕上げていくという進め方でした。

 最終的には連載の提案をして下さった鈴木(敏夫)さんがチェックして下さいました。

 平林さんは当時から「本になったらいいですね」とおっしゃって下さって、私も「そうなったらいいなぁ」と思っていました。色々な方と御縁があって、こうして本当に実現することが出来て喜んでいます。

舘野仁美さん舘野仁美さん フィルモグラフィー 「フリーランス時代」 
――全体に中高生やアニメーションに詳しくない一般読者でも親しめる仕様でまとめられている印象を持ちました。

舘野 文体も柔らかめですし、児童書みたいな感じで読みやすいと思います。

――「瞬き」や「歩き」を描く際の注意点など、技術的なお話が図解で掲載されている点もとても分かりやすかったです。

舘野仁美さん フィルモグラフィー 「フリーランス時代」 舘野仁美さん フィルモグラフィー 「テレコム・アニメーションフィルム時代」 
舘野 スタジオジブリの動画の原則のようなもので、本当はもっと沢山あるんですよ。でも、技術書ではないので余り専門的にならないようにと2点に留めました。

――アニメーター間の「原画」「動画」のやり取り、集団制作ならではの御苦労や愉しみがつぶさに記されている点も大変興味深く思いました。

舘野仁美さん フィルモグラフィー舘野仁美さん フィルモグラフィー 「スタジオジブリ時代」
舘野 綺麗事だけではない世界ですから、「いいお話」ばかりの本にはしたくありませんでした。宮崎(駿)さんにもそう言われました。

 けれど、どこまで書いていいのかという加減は本当に判断が難しくて、草稿の段階でも削ったエピソードがたくさんあるんです。連載の時にも、そのことで1回お休みをしているんですね。

 単行本にするにあたって、余り良い印象を持たれないエピソードで、連載時には勢いでお名前を載せてしまった何人かのお名前を伏せさせて頂きました。エピソード自体は削っていませんが。

――宮崎駿・高畑勲両監督を始め、登場人物たちが豪華ですから記されなかったエピソードも膨大にあると思いますが。

舘野 両監督のお話もそうですし、ベテランの原画マンたちや動画で一緒に苦労して来た同僚の人たちの話も書いていたんですが、色々な想いが重なってしまって上手くまとまりませんでした。

 高畑(勲)さん

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