メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

“ふつうの感覚”からの疑問(下) アパホテル

部屋に置かれた代表著の時事評論集

大槻慎二 編集者、田畑書店社主

 「公」と書き付けてもうひとつ酷い目にあったことを思い出した。

 それは仕事先が大阪・心斎橋で取ってくれたあるホテルでのことである。ひとしきり飲んで帰った深夜、チェックインして部屋に入った瞬間、なぜか背筋がざわめいた。

 しばらくして、その居心地の悪さの原因が判明した。ふつうならば聖書が置いてあるような場所に、ホテルチェーンの代表らしき人物の著書が置いてある。

 それは時事評論集で、極めて「右」に偏った論旨が展開されている。おまけに口絵には著者が若い頃スポーツカーの前で撮った写真とともに、航空自衛隊の戦闘機の操縦席に嬉しそうに収まっている写真が並んでいる。

 その芬々(ふんぷん)たる自己顕示に辟易したことはともかく、なぜこんなものを、どんな思想信条を持った人が泊まるか分からない部屋に置くのか。その神経を疑った。

 日付は替わり時刻はもう1時を回っていたが、そんな部屋で

・・・ログインして読む
(残り:約2542文字/本文:約2984文字)