市民参加のワークショップを出発点とした試行錯誤
2016年02月23日
前回述べたように、『ハッピーアワー』の放つリアルさは、これまで誰も体験したことのないようなものだ。
たとえば、看護師・あかり/田中幸恵の発する次のセリフの訴求力はどうだろう――「[以前だったら高齢の患者さんが]ここで死んだいうラインがあるやん。今は結局手術や投薬やあ言うて、その先も生きれてしまうわけよ。そうするとどうなるかって言うと、病気を持ってる上に、認知症を併発する患者さんっていうのが増えるわけ」「たとえば[病院を]脱走した人が、病院の外で事故に遭うやんか、もしくは自殺とかする。そうすると、それは看護師の“業務上過失致死”になんねん。裁判ではもう絶対負けんねん」。
では、こうした切実なセリフを、ひいては全編を貫く鮮明で先鋭な迫真性を、濱口竜介はいったいどうやって案出し、描出(びょうしゅつ)したのか。
それはやはり、本作が市民参加の「即興演技ワークショップ in Kobe(以下WS)」を出発点に制作された、という点に大きく関わっているだろう。
このことを、濱口らの著作、『カメラの前で演じること――映画「ハッピーアワー」テキスト集成』(濱口竜介・野原位・高橋知由、左右社、2015)に即して見ていこう。
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