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ベルリン映画祭リポート(上) “社会派”

シナリオ通り? 出来過ぎなほど成功したアピール

林瑞絵 フリーライター、映画ジャーナリスト

 カンヌ、ベネチアと並び、三大映画祭のひとつに数えられるベルリン映画祭。第66回を迎えた今年は、2月11日から21日まで11日間にわたり開催された。

 一般にベルリン映画祭について語る時には、“社会派”とか“政治的”という形容を付けられることが非常に多い。たしかにその看板に嘘偽りはないだろう。

 例えば昨年(2015年)であれば最高賞の金熊賞は、ジャファル・パナヒ監督の『タクシー』が受賞した。

ベルリン映画祭ディレクター、ディーター・コスリック

Ali Ghandtschi©Berlinale 2015
ベルリン映画祭ディレクター、ディーター・コスリック Ali Ghandtschi(c)Berlinale 2015
 イラン当局の監視下に置かれながらも、不屈の精神で映画制作を続ける監督に花を持たせたベルリンらしい最高賞であった。

 だが今年はさらに輪をかけて、社会派の呼び声にふさわしい面目躍如のような年となったのだ。

 映画祭ディレクターのディーター・コスリックは「1951年以来、ベルリン映画祭は民族間の平和促進のために寄与してきた。今年が例外というわけではない」とも語っているが、客観的に眺めてみると、移民問題で激震が走るヨーロッパにおいて、本映画祭の存在意義がこれまで以上に発揮された年はないだろう。

難民問題に肉薄した作品に金熊賞

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