未来志向の創意あふれる短編アニメーション展示
2016年04月22日
3月5日から東京都現代美術館で開催されている「スタジオ設立30周年記念 ピクサー展 PIXAR 30 YEARS OF ANIMATION」(※)が好評を博している(5月29日まで)。特に週末は長蛇の列で1時間以上待つこともあるという。4月15日には来場者が10万人を突破し、4月29日から金曜・土曜・祝日は20時まで開館が延長されることが発表された。
手描きの集団作業による創意工夫と試行錯誤の果てに、はじめて3D-CGによって傑作群が成立していたことがわかる貴重な機会だ。
しかし、これらの展示物の多くは日本初公開ではない。2006年夏に森アーツセンターギャラリーで開催された「ピクサー展 Pixar:20 Years of Animation」を移設したものだ。
「ピクサー・アニメーション・スタジオ創立20周年記念企画」として2005年12月にニューヨーク近代美術館で開催されたこの展示は、その後展示物を増補しながら世界各国を巡回した。そして、10年ぶりに日本に帰って来たというわけだ。
よって日本初公開は「2007年から2015年までに追加された展示物」である。その中でひときわ目を惹かれる作品は、新鋭アートディレクター堤大介氏とロバート・コンドウ氏による『トイ・ストーリー3』『モンスターズ・ユニバーシティ』などの美術ボードである。
彼らの作品は主にデジタルで仕上げられているが、印象派を彷彿とさせる柔らかい色調の光が溢れ、平筆でざっと厚塗りしたようなタッチが実に特徴的だ。
堤・コンドウ両氏はピクサーのアートディレクターをキャリアの終点とすることを良しとせず、新たな飛躍を求めて2012年に短編アニメーションの自主制作を決意。2013年12月に18分の短編『ダム・キーパー』を完成させた。
手応えを感じた彼らは2014年7月にピクサーを退社、自らの手で継続的に作品を生み出すべく小さな制作会社「トンコハウス」を創設した。
『ダム・キーパー』は、初監督作品ながら各国映画祭で20以上の賞を受賞、2015年米アカデミー賞短編アニメーション部門へのノミネートも果たした。
『ダム・キーパー』は、次のような物語だ。
動物たちが暮らす高い塀に囲まれた集落。高台には風車があり、汚染された大気から村を守っている。その風車を24時間稼働させる管理者がダム・キーパーと呼ばれる人だ。
亡くなった父からその職を受け継いだ孤児のブタくんは、学校では友人もなく、いつもいじめられている。ある日、ブタくんは転校生のキツネくんと知り合い、スケッチを通じて、はじめて心を許す友を得る。しかし、その友情が崩れた時、ブタくんの抱える闇は一気に広がってしまう……。
かわいらしい動物たちのファンタジーの形を借りて、環境汚染、子供の疎外、格差やいじめなど、社会問題的テーマを内包した力作だ。
その絵画風タッチやライティングはデジタル行程だが、1枚ずつ手付けで仕上げられており、手作りの味わいがある。
『ダム・キーパー』のメイキングを含む3年間の軌跡から未来図までを惜しげもなく放出した展示「トンコハウス展 『ダム・キーパー』の旅」が銀座・クリエイションギャラリーG8で4月30日まで開催中だ。入場料金は無料。
同じ都内で開催中の「ピクサー展」と「トンコハウス展」。つながりの深い「姉妹展」のような二つの展示を
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