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「トンコハウス展 『ダム・キーパー』の旅」

未来志向の創意あふれる短編アニメーション展示

叶精二 映像研究家、早稲田大学・亜細亜大学・東京工学院講師

同時開催中の「ピクサー展」と「トンコハウス展」

 3月5日から東京都現代美術館で開催されている「スタジオ設立30周年記念 ピクサー展 PIXAR 30 YEARS OF ANIMATION」(※)が好評を博している(5月29日まで)。特に週末は長蛇の列で1時間以上待つこともあるという。4月15日には来場者が10万人を突破し、4月29日から金曜・土曜・祝日は20時まで開館が延長されることが発表された。

※「スタジオ設立30周年記念 ピクサー展」公式サイト

東京都現代美術館で開催中の「ビクサー展」入口(撮影/筆者)拡大東京都現代美術館で開催中の「ピクサー展」入口=撮影・筆者
 同展の主な展示物は、制作準備期間に描かれた膨大なイメージスケッチやキャラクター・デザイン、ストーリーボードや美術ボード、マケット(粘土による人形)、『トイ・ストーリー』の立体ゾートロープなどだ。

 手描きの集団作業による創意工夫と試行錯誤の果てに、はじめて3D-CGによって傑作群が成立していたことがわかる貴重な機会だ。

 しかし、これらの展示物の多くは日本初公開ではない。2006年夏に森アーツセンターギャラリーで開催された「ピクサー展 Pixar:20 Years of Animation」を移設したものだ。

 「ピクサー・アニメーション・スタジオ創立20周年記念企画」として2005年12月にニューヨーク近代美術館で開催されたこの展示は、その後展示物を増補しながら世界各国を巡回した。そして、10年ぶりに日本に帰って来たというわけだ。

 よって日本初公開は「2007年から2015年までに追加された展示物」である。その中でひときわ目を惹かれる作品は、新鋭アートディレクター堤大介氏とロバート・コンドウ氏による『トイ・ストーリー3』『モンスターズ・ユニバーシティ』などの美術ボードである。

 彼らの作品は主にデジタルで仕上げられているが、印象派を彷彿とさせる柔らかい色調の光が溢れ、平筆でざっと厚塗りしたようなタッチが実に特徴的だ。

観覧客を笑顔で迎えたロバート・コンドウ氏(左)と堤大介氏(右)(提供/クリエイションギャラリーG8).jpg拡大「トンコハウス展 『ダム・キーパー』の旅」の観覧客を笑顔で迎えたロバート・コンドウ氏(左)と堤大介氏=提供・クリエイションギャラリーG8
 堤大介氏は2007年にピクサーに入社、ロバート・コンドウ氏は2002年入社だ。彼らの精力的活動がピクサーの更なる進化を支えていたことは想像に難くない。けれども、彼らは現在ピクサーに在籍していない。

 堤・コンドウ両氏はピクサーのアートディレクターをキャリアの終点とすることを良しとせず、新たな飛躍を求めて2012年に短編アニメーションの自主制作を決意。2013年12月に18分の短編『ダム・キーパー』を完成させた。

 手応えを感じた彼らは2014年7月にピクサーを退社、自らの手で継続的に作品を生み出すべく小さな制作会社「トンコハウス」を創設した。

 『ダム・キーパー』は、初監督作品ながら各国映画祭で20以上の賞を受賞、2015年米アカデミー賞短編アニメーション部門へのノミネートも果たした。

 『ダム・キーパー』は、次のような物語だ。

 動物たちが暮らす高い塀に囲まれた集落。高台には風車があり、汚染された大気から村を守っている。その風車を24時間稼働させる管理者がダム・キーパーと呼ばれる人だ。

 亡くなった父からその職を受け継いだ孤児のブタくんは、学校では友人もなく、いつもいじめられている。ある日、ブタくんは転校生のキツネくんと知り合い、スケッチを通じて、はじめて心を許す友を得る。しかし、その友情が崩れた時、ブタくんの抱える闇は一気に広がってしまう……。

 かわいらしい動物たちのファンタジーの形を借りて、環境汚染、子供の疎外、格差やいじめなど、社会問題的テーマを内包した力作だ。

トンコハウス展 『ダム・キーパー』の旅」入口(提供/クリエイションギャラリーG8拡大「トンコハウス展 『ダム・キーパー』の旅」入口=提供・クリエイションギャラリーG8
 キャラクターは「フォトリアル」仕様ではなく、堤・コンドウ両氏の描く絵そのままに厚塗のキャラクターが3コマ撮り(1秒8枚)で動く。作画行程は3D-CGではなく2Dの手描きだ。

 その絵画風タッチやライティングはデジタル行程だが、1枚ずつ手付けで仕上げられており、手作りの味わいがある。

 『ダム・キーパー』のメイキングを含む3年間の軌跡から未来図までを惜しげもなく放出した展示「トンコハウス展 『ダム・キーパー』の旅」が銀座・クリエイションギャラリーG8で4月30日まで開催中だ。入場料金は無料。

 同じ都内で開催中の「ピクサー展」と「トンコハウス展」。つながりの深い「姉妹展」のような二つの展示を ・・・続きを読む
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筆者

叶精二

叶精二(かのう・せいじ) 映像研究家、早稲田大学・亜細亜大学・東京工学院講師

映像研究家。早稲田大学・亜細亜大学・大正大学・東京工学院講師。高畑勲・宮崎駿作品研究所代表。著書に『日本のアニメーションを築いた人々』(若草書房)、『宮崎駿全書』(フィルムアート社)、「『アナと雪の女王』の光と影」(七つ森書館)、共著に『王と鳥 スタジオジブリの原点』(大月書店)など。

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