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佐村河内事件、および『FAKE』について(上)

われらの欲望が生んだ偽ベートーヴェン

藤崎康 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

スキャンダル・エンターテインメントとしての事件

 森達也は、オウム真理教(当時)の内部を、オウム=絶対悪という枠をとっぱらった独自のアングルで記録した『A』(1997)、および『A2』(2001)で知られるドキュメンタリー映画監督。15年ぶりとなる彼の新作『FAKE』は、かの佐村河内守に“密着”した、これまた問題提起的で興味深い作品だが、本作に触れる前に、まずは2014年に世間を騒がせ、メディアの餌食(えじき)となった佐村河内事件を、私見を交えて簡単に振り返っておこう。

「現代のベートーヴェン」などと拡大事件前は、「現代のベートーヴェン」と呼ばれた佐村河内守氏=2010年
 1963年広島生まれの佐村河内は、全聾でありながら『鬼武者』のゲーム音楽(2001)や「交響曲第1番≪HIROSHIMA≫」(2011)などを作曲したとして世の注目を集め、メディアは彼を「現代のベートーヴェン」などと呼んで持ち上げ、CD「≪HIROSHIMA≫」は、クラシック界では異例の18万枚の出荷枚数となった。

 だが2014年2月、佐村河内作とされる曲が、じつは作曲家・新垣隆によるゴーストライティング(代作)であることが発覚すると、テレビ・週刊誌・新聞などのメディアは一転、こぞって佐村河内を「偽ベートーヴェン」「詐欺師」と呼び、この“食いつきのいい(高視聴率を稼げる)”事件に飛びつき、連日連夜、大々的に――「殊勝な反省モード」も取り込んで――報道しつづけた。

 例によってメディアは、その本性のひとつであるスキャンダリズムの牙をむき出しにしたわけだ(「スキャンダリズム」とは、スキャンダル/醜聞を詮索・暴露する新聞・雑誌などのメディアの傾向)。

 そして、「NHKスペシャル・魂の旋律~音を失った作曲家~」を放送し(2013年3月31日)、佐村河内ブームの火付け役となったNHKは、即刻ニュース番組で謝罪表明をおこなったが、われわれの多くが、この一連の騒動をスキャンダル・エンターテインメントとして楽しみ、ストレス発散目的で消費したことは言うまでもない――。

「美談」の商品化

 佐村河内守の「人となり」、履歴、および彼の引き起こした事件については、ノンフィクション作家・神山典士の『ペテン師と天才――佐村河内事件の全貌』(2014、文藝春秋)に詳しいが、私が ・・・続きを読む
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筆者

藤崎康

藤崎康(ふじさき・こう) 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

東京都生まれ。映画評論家、文芸評論家。1983年、慶応義塾大学フランス文学科大学院博士課程修了。著書に『戦争の映画史――恐怖と快楽のフィルム学』(朝日選書)など。現在『クロード・シャブロル論』(仮題)を準備中。熱狂的なスロージョガ―、かつ草テニスプレーヤー。わが人生のべスト3(順不同)は邦画が、山中貞雄『丹下左膳余話 百万両の壺』、江崎実生『逢いたくて逢いたくて』、黒沢清『叫』、洋画がジョン・フォード『長い灰色の線』、クロード・シャブロル『野獣死すべし』、シルベスター・スタローン『ランボー 最後の戦場』(いずれも順不同)

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