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大人の恋模様をじっくり描いた新演出版

【公演評】ミュージカル「スカーレット・ピンパーネル」

中本千晶 演劇ジャーナリスト


写真はいずれも「スカーレット・ピンパーネル」公演から=渡部俊介・岩村美佳撮影拡大写真はいずれも「スカーレット・ピンパーネル」公演から=渡部俊介・岩村美佳撮影

 10月19日、赤坂ACTシアターでミュージカル「スカーレット・ピンパーネル」が上演された。小説「紅はこべ」を原作とし、フランク・ワイルドホーンによる心躍る楽曲が観客を魅了したミュージカルである。もともとブロードウェーで上演されていたが、日本では2008年に宝塚歌劇団が小池修一郎の演出、星組・安蘭けい主演によって初演、いちやく人気作となった。今回は演出としてガブリエル・バリーを迎え、宝塚版とは違う新バージョンとして上演された。

 時はフランス革命後の恐怖政治の時代、貴族たちを救い出すピンパーネル団の首領という裏の顔を持つイギリス貴族・パーシーを演じるのは石丸幹二だ。ノーブルな雰囲気と圧倒的な歌唱力がこの役にぴったりはまった。彼の妻である女優マルグリット役に、宝塚時代にパーシーを演じた安蘭けいが挑むのも今回の見どころだ。ピンパーネル団を追い続ける敵役ショーヴランは石井一孝が演じる。

 宝塚版との違いをひとことでいうならば、人海戦術と華やかさで勝負する痛快娯楽劇の宝塚版に対し、大人の恋模様をじっくり描いた新演出版といったところだろうか。パーシーとマルグリット、2人の心がすれちがっていく過程や、マルグリットの過去などもよりていねいに描かれている。

 キャストの歌がそれぞれに聞き応えがある。楽曲はほぼ宝塚版と同じだが、新曲も2曲ある。既存の曲も使われ方や訳詩が少しずつ違うのが興味深いところだ。宝塚版でおなじみの「ひとかけらの勇気」も、タイトルや使われ方が変わっている。

安蘭のマルグリット、男役として鍛えた腕前を発揮

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 1幕のパーシーは、ほとんどの場面でファッションのことしか考えていない間抜けなイギリス貴族を装っているが、演じる石丸は、そんな役どころをとことん楽しんでいる風だ。それだけに「ピンパーネル団の首領」という本来の姿に戻ったときがいっそう輝いて見える。

 マルグリットは、かつて革命の女闘士だった過去も描かれ、激動の時代をたくましく生き抜く女性だというところが安蘭によく似合っていた。特筆すべきは大詰めの殺陣で、宝塚時代に男役として鍛えた腕前を存分に発揮(しかも二刀流だ)。男たちの誰よりもマルグリットが強かったようにさえ見えた。

 ショーヴランは宝塚版では狂気に走っている男の印象が強く、共感はしづらい役どころとなっているが、今回の石井ショーヴランはより人間味や男の悲哀を感じさせる。マルグリットを思って切々と歌い上げる楽曲も胸に迫る。

ピンパーネル団には伸び盛りの若手俳優が集結!

「スカーレット・ピンパーネル」公演から=渡部俊介・岩村美佳撮影拡大

 デュハースト(上口耕平)、ベン(相葉裕樹)、ファーレイ(植原卓也)、エルトン(太田基裕)、オジー(駒木根隆介)、ハル(廣瀬智紀)と、ピンパーネル団には伸び盛りの若手俳優が集結。変装してパリの街を攪乱(かくらん)する場面など、楽しい見せ場が多い。ショーヴランの目をくらますべく全員でファッション狂いに見せかける時の衣装が宝塚も真っ青な“ど派手”さだが、石丸を筆頭に喜々として着こなしているのがおかしい。キャラクターの違いもそれぞれあるようなので、回を重ねて個性が際立ってくればより一層面白くなりそうだ。

 2幕、仮面夫婦と成り果てていたパーシーとマルグリットが、互いに相手の本当の気持ちに気付く過程は宝塚版とかなり違っている。パーシーが妻の本当の心を知ったときの喜びを歌い上げる一曲は追加楽曲のひとつだが、ここは石丸の真骨頂だろう。

 マルグリットの弟アルマン(矢崎広)は真摯(しんし)さの中にいり混じるコミカルな一面がチャーミングだ。捕らえられたアルマンとマルグリットをパーシーたちが救出する経緯も違っていて、痛快度は宝塚版、ハラハラ度は今回といったところだろうか。

宝塚版がどう進化していくのかも楽しみ

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 面白かったのが、ロベスピエールとプリンス・オブ・ウェールズという対照的な2役を同じ役者が演じ分ける(しかも早変わりもあり)という趣向だ。今回はこの2役を平方元基と佐藤隆紀がWキャストで演じるから、それぞれがどんな演じ分けを見せてくれるかも楽しみなところ。2幕の冒頭にはロベスピエールが彼なりの心情を表現する新曲も追加されている。

 マリー・グロショルツ(則松亜海)は宝塚版ではアルマンの恋人だが、今回は「タッソー」という男性が恋人だ。彼女が後に「マダム・タッソー」となったという史実も巧みに採り入れられている。今回、ギロチンの使い方がかなりグロテスクで、ここまでやる必要があるのかと思わないでもないが、最後のオチの部分で少しだけ腑(ふ)に落ちたのである。

 同じ題材でこれほどまでに違う描き方ができるのかと新鮮な一作だった。2017年には宝塚星組での再演も予定されているが、今回の上演を受けて宝塚版がどう進化していくのかも楽しみになってきた。

◆ミュージカル「スカーレット・ピンパーネル」
《東京公演》2016年10月19日(木)~26日(水) 赤坂ACTシアター
《大阪公演》2016年10月30日(日)~11月7日(月) 梅田芸術劇場メインホール
《東京凱旋公演》2016年11月24日(木)~29日(火) 東京国際フォーラム ホールC
⇒内容については公式ホームページなどでご確認下さい。

旧「スターファイル」ホームページはこちら


筆者

中本千晶

中本千晶(なかもと・ちあき) 演劇ジャーナリスト

山口県出身。東京大学法学部卒業後、株式会社リクルート勤務を経て独立。ミュージカル・2.5次元から古典芸能まで広く目を向け、舞台芸術の「今」をウォッチ。とくに宝塚歌劇に深い関心を寄せ、独自の視点で分析し続けている。主著に『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』『タカラヅカ流世界史』『宝塚歌劇は「愛」をどう描いてきたか』『宝塚歌劇に誘(いざな)う7つの扉』(東京堂出版)など。早稲田大学非常勤講師、NHK文化センター講師。

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