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珠城のお披露目にふさわしいフレンチミュージカル

【公演評】月組「アーサー王伝説」

さかせがわ猫丸 フリーライター

アーサー王役の珠城りょう=岸隆子(Studio Elenish)撮影拡大アーサー王役の珠城りょう=岸隆子(Studio Elenish)撮影
 月組公演ミュージカル「アーサー王伝説」が、梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで上演されました。月組新トップスター珠城りょうさんが挑む「アーサー王伝説」は、2015年にパリで初演されたフレンチ・ミュージカル。本拠地、宝塚大劇場より一足早いお披露目です。

  早くから男役スターらしい風格が備わっていた珠城さん。いつかは必ずトップになると予想されましたが、天海祐希さんに次ぐスピード出世は、宝塚の歴史にも残るビッグニュースとなったことでしょう。そんな人事の面白さもまた、宝塚のだいご味なんですよね。

 岩に刺さった聖剣エクスカリバーを抜いた者が王となる「アーサー王伝説」は、宝塚でも「エクスカリバー」「ランスロット」などのオリジナル作品を生み出した、イギリスの古典的名作です。今回はパリで上演されたフレンチ・ミュージカル版をベース
 にし、珠城さんのお披露目にふさわしい、宝塚ならではの作品へとアレンジされました。

 聖剣を抜きブリタニアの王となったアーサー。広い心を持ち、民からも慕われていたが、いつも孤独ととなり合わせだ。隣国の娘グィネヴィアと恋におち、ようやくともりかけた幸せの予感に震えるが、魔術師マーリンの不吉な予言が現実となるのを、アーサーはまだ知らなかった……。

 グィネヴィア役には、引き続きトップ娘役をつとめる愛希れいかさん。豊かな経験と確かな実力で珠城さんをサポートし、安定感のある舞台を作り上げています。2番手に定まった美弥るりかさんは、アーサーの父親違いの姉モーガン役です。アーサーに災いをもたらす魔女で、妖艶(ようえん)な女役が怖いほどに美しい。めきめき演技力を高める千海華蘭さんは、魔術師マーリンとなって芝居を引っ張り、グィネヴィアと背徳の恋に燃えるランスロット
 には、雪組への異動が決まった朝美絢さんがさわやかに演じています。

 王となった責務と愛のはざまに揺れながら成長していくアーサーの姿は、まさしく今の珠城さんに重なるよう。雄々しい立ち姿は、早くもトップスターの名にふさわしい頼もしさに満ちています。個性と実力があふれるメンバーに支えられ、生き生きとセンターに立つ珠城さんから、エクスカリバーのごと く輝く、月組の未来が見えるようでした。

“トップスター珠城りょう”を応援する物語

 2008年に初舞台を踏んだ珠城さんは94期生で、現在、研9。先日、同期の仙名彩世さんも、花組の次期娘役トップスター就任が発表されたばかりですが、男役ではまだまだ若手といえる学年でしょう。それでも、2010年には「THE SCARLET PIMPERNEL」で新人公演の主演をつとめ、2013年には「月雲の皇子」でバウホール初主演も果たすなど、着実に路線を走り続けてきました。男役にふさわしい包容力と、思わず背中にすがりつきたくなるような立ち姿で、すでに脇には置けない雰囲気になっていましたが、トップスターという立場にかかるプレッシャーは計り知れないほど重いに違いありません。「アーサー王伝説」は、そんな珠城さんを応援するかのような“アテガキ”物語となりました。

 ――岩に突き刺さった聖剣エクスカリバーを抜いた者が王となる……少年たちが我こそはと競う中、引き抜いたのはアーサー(珠城)だった。ブリタニアの伝説通り王位は得たが、出生を知らない彼の孤独が癒やされることはない。そんなある日、メリアグランス(輝月ゆうま)の一味に攻撃された隣国カリメルドを救ったことで、アーサーは領主の娘グィネヴィア(愛希)と恋に落ちた。だが魔術師マーリン(千海)は「2人の出会いは不幸の始まり」と予言。アーサーを憎む姉モーガン(美弥)も、彼を陥れようとたくらんでいた。

 千海さん演じる魔術師マーリンは、終始舞台に登場するストーリーテラーのような存在です。常にアーサーを見守っていますが、不気味な予言や、魔法を使って人々を操るなど、摩訶不思議(まかふしぎ)な雰囲気も見逃せません。仙人のようなスタイルで愛らしいルックスを封印し、重厚な演技を見せる千海さんは、月組に欠かせない渋い役者になってきました。

 アーサーにエクスカリバーを抜かれ、幼い頃から恨みを募らせるメリアグランス役を演じる輝月さんは、左右の髪を編み込んだドレッド風のヘアスタイルでワイルドさ満点です。2幕からは顔の半分に不気味なメイクを施し、目には白いカラーコンタクトを入れ、恐ろしいのなんの。クリアなセリフと高い歌唱力が、強烈なキャラクターに磨きをかけています。

エネルギーあふれる愛希、相乗効果もバッチリ

アーサー王役の珠城りょう(右)とグィネヴィア役の愛希れいか=岸隆子(Studio Elenish)撮影拡大アーサー王役の珠城りょう(右)とグィネヴィア役の愛希れいか=岸隆子(Studio Elenish)撮影

 珠城さんは鎧(よろい)風の衣装とあいまってますます大きく見え、王としての存在感も抜群。「統治はしても君臨はしない」との信念を持ち、寛大な心を持ち合わせるアーサーにグィネヴィアがほれるのも納得です。家族を知らずいつも孤独だったアーサーにとっても、グィネヴィアは希望の光だったことでしょう。2人の並びもバランスよく、お披露目らしくラブラブで良かった~と、一瞬、思わせるのですが……。

 グィネヴィアを演じる愛希さんは、透明感あふれる可愛いお姫様。なのに気になる男性には無邪気に、かつガンガン迫っていく大胆さも持ち合わせ、それがまた小悪魔的でキュートです。トップ娘役としての経験も重ね、歌・ダンス・演技のすべてが充実し、エネルギーあふれる愛希さんを全身で受け止める珠城さんは包容力がさらにアップ、相乗効果もバッチリではないでしょうか。

美しさが怖さを倍増させる、魔女役の美弥

モーガン役の美弥るりか=岸隆子(Studio Elenish)撮影拡大モーガン役の美弥るりか=岸隆子(Studio Elenish)撮影
 月組の2番手スターの位置を固めた美弥さんは、異色の敵役となりました。孤児となり辛酸をなめた自分と比べ、父親違いの弟アーサーは王になり恋人もできた……この憎しみを晴らさずにはおれぬと、メラメラ燃える魔女モーガン。触角のようなヘアスタイルに険しいメイク、ハードな衣装もすべて黒ずくめで、美弥さんの美しさが怖さを倍増させています。手下に早乙女わかばさんと海乃美月さんの美女2人を連れてとことん悪女を演じますが、フィナーレのショーでは男役に戻っていつものカッコよさを見せるので、こちらも大満足でした。

 ブリタニアの騎士たちも皆、思い思いの髪形を工夫したイケメンぞろい。特に紫門ゆりやさんと貴千碧さんの、騎士らしいりりしさと深い演技には目を引かれました。

 

ロックなナンバーに客席の温度が上昇

アーサー王役の珠城りょう(中央)=岸隆子(Studio Elenish)撮影拡大アーサー王役の珠城りょう(中央)=岸隆子(Studio Elenish)撮影

 身分より熱意ある者で集う“円卓の騎士”制度を導入し、グィネヴィアと結婚もして、ますます人々の尊敬を集めるアーサーですが、ランスロットが新しく騎士に参加したことで暗雲がたちこめます。ランスロットに心引かれていくグィネヴィアに、果たしてアーサーは気づいているのか? 3人の関係を利用したモーガンのたくらみが、ようやく安らぎを得たはずのアーサーを地獄へといざない……。

 ランスロット役を演じる朝美さんは、甘い歌声とハンサムな優男ぶりがアーサーとは対照的な魅力にあふれ、グィネヴィアが恋するのも無理はないと思わせるのが憎い。2人の関係がフェルゼンとマリー・アントワネットのごとく発展していくほどに、アーサーが可哀想でたまらないのですが、そこもまた女性のハートを、いろんな意味でくすぐります。この後、異動となる朝美さんですが、新天地雪組でもまた新たな一面が開花することでしょう。スターぞろいの95期生として、ますますの活躍が期待されます。

 フレンチ・ミュージカルは、とにかく音楽がいい。ロックなナンバーが流れるたび、客席の温度が上昇するのを肌で感じられます。さらに、ふんだんに取り入れたパントマイムや、テンポよく進むストーリーにぐんぐん引きつけられ、月組生の芝居心の豊かさ、ダンスや歌の実力にも改めて感嘆しました。

頼もしい仲間に支えられ、センターで大きく輝く珠城

アーサー王役の珠城りょう=岸隆子(Studio Elenish)撮影拡大アーサー王役の珠城りょう=岸隆子(Studio Elenish)撮影
 当初、頼りなさや傲慢(ごうまん)な一面ものぞいていたアーサーが、苦難を乗り越えることによって真の王へと成長していく様子は、新トップスターとなる珠城さんへのこれ以上ない応援歌となったことでしょう。トップコンビの仲は悲恋に終わりましたが、自我を抑えて国を守ろうとするアーサーに向かって、騎士たちがあらたな忠誠を誓う場面などは、思わず目頭が熱くなりました。

 頼もしい仲間に支えられ、どんな役でもおまかせな愛希さんを相手役に、珠城さんは今後のびのびと成長していけると確信できた公演でした。ドラマシティの箱が小さく見えるほど、センターで大きく輝く珠城さん。月組の新トップスターとして立ったスタート地点は、明るく希望に満ちていました。

 

◆「アーサー王伝説」《文京シビックホール公演》2016年10月14日(金)~10月19日(金)《梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ》2016年10月28日(金)~11月9日(水)⇒内容については公式ホームページなどでご確認下さい。

旧「スターファイル」ホームページはこちら


筆者

さかせがわ猫丸

さかせがわ猫丸(さかせがわ・ねこまる) フリーライター

大阪府出身、兵庫県在住。全国紙の広告局に勤めた後、出産を機に退社。フリーランスとなり、ラジオ番組台本や、芸能・教育関係の新聞広告記事を担当。2009年4月からアサヒ・コム(朝日新聞デジタル)に「猫丸」名で宝塚歌劇の記事を執筆。ペンネームは、猫をこよなく愛することから。

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