メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

無料

剣幸、体当たりしていくしかないと思っています

【インタビュー】「繻子の靴-四日間のスペイン芝居」出演

真名子陽子 ライター、エディター


拡大剣幸=岸隆子撮影
 12月に京都芸術劇場 春秋座で上演される「繻子の靴-四日間のスペイン芝居」(原作:ポール・クローデル/翻訳・構成・演出:渡邊守章)。上演時間8時間という話題の本作で、主人公のドニャ・プルエーズ役を演じる剣幸に話を聞いた。(ウエストプラン・真名子陽子)

 最初この作品の話があったとき、すごく驚き、自分に務まるかと思ったという。でも新たに挑戦できることは幸せなことだと思い引き受けたそうだ。剣が演じるプルエーズについては、「いろんな面を持っていますので一筋縄ではいかない。やりがいのある役ですし、体当たりしていくしかないと思っています」と語る。

 また、「オラトリオ〈朗読〉の部分ではセリフだけをしっかり聞いていただき、芝居になったところでは動きまわっているので、声や体の感情が違うと思います。どちらも楽しんでいただけるように、精魂こめて演じます」と、本作品の壮大さを演じるにあたり、意気込みを語ってくれた。

 今年、「宝塚歌劇の殿堂」入りをした剣。宝塚歌劇団は今の自分の礎で、卒業しても切っても切れないところだそうだ。「上級生が下級生を教えるという絆は、他ではないと思います。それが延々と脈々と続いているすごさですね」とも。

 「この年齢になってチャレンジできることなんてなかなかないんですよ」という剣は、2年前の「ミー&マイガール」はチャレンジだったと言う。「ミー&マイガール」は、宝塚歌劇団が日本で初演し(1987年)、これまで何度も再演されている人気作品で、その初演で主人公のビルを演じたのが剣だ。そのビルを25年振りに演じるにあたり、男性キャストやベテラン俳優がいる中、剣は、「余計なことは考えずに、ビルという人間を男だろうが女だろうが関係なく演じられればと思った」と思ったと言う。そこに男役の意識はなかったそうだ。

 昨年は「エリザベート」、来年は「ビューティフル」と、ミュージカル作品にも出演している剣。ストレートプレイの芝居とミュージカル、そして自身の「恋文コンサート」。歌、芝居、ミュージカルがトライアングルのようにつながっていけたらいいなと、その活動に対する思いについても語ってくれた。

〈剣幸さんプロフィル〉富山県出身。1974年宝塚歌劇団入団。1985年月組の男役トップスターに就任し、数々の名作を残す。「ミー&マイガール」は1年間の続演という、宝塚史上初の記録を樹立した。1990年退団。その後はミュージカルのみならず、ストレートプレイ、コンサート、映像と幅広く活動を展開。渡邊守章演出では、「サド侯爵夫人」(ルネ役、1996年)、「声」ジャン・コクトー一人芝居(1997年)に出演。2015年よりTV「NHK短歌」の司会を務めている。2016年、「宝塚歌劇の殿堂」顕彰者に選出された。(剣幸オフィシャルサイト
◆「繻子の靴-四日間のスペイン芝居」《京都公演》2016年12月10日(土)~11日(日) 京都芸術劇場 春秋座(京都造形芸術大学内)⇒内容については公式ホームページなどでご確認下さい。

また違う自分に出会えるかもしれない、と思った

拡大剣幸=岸隆子撮影
――上演時間が8時間ということについて、最初聞かれたときは?

 長時間にわたる芝居も意外とあるんです。もちろん私自身8時間の芝居をやるのは初めてで、最初はすごく驚き、私に務まるだろうかと思いました。これまでいろんな作品をさせてもらってきて、新たに挑戦できることがあるのはすごく幸せなことだと、お引き受けすることにしました。挑戦するというのは、8時間という時間の長さだけではありません。新しいお仕事、作品はすべて初めてで、チャレンジです。歳を重ねると何かに挑戦することって少なくなってくるんですよね。「これはまた違う自分に出会えるかもしれない」と思いました。

 そして、渡邊先生の日本語の美しさと豊富な知識、本当にたくさんのことをご存じで、芝居だけでなくいろんなことを教えてくださるんです。またご一緒できるのがとても楽しみです。

――そうなんですね。

 ビル(ミー&マイガール)をさせてもらったこともチャレンジでしたけどね(笑)

――そうですよね! 2年前でした?

 はい、それよりも今回はもっとすごいチャレンジになります。

――務まるかなと思ったとのことですが、どういったところでそう思われたのでしょう?

 セリフを覚えて舞台に出ることは可能ですが、自分が納得するところまでいけるかということや、他の方々はこの作品を何回か演じられていて、その中に入れていただくので、皆さまに迷惑をかけないかなと。この作品の持つ壮大さや素晴らしさに、私がそこまでいきつけるか不安になりました。

――確かに、この作品はとても壮大です。

 もう、とっても壮大です、そして女性としてもすごいです、プルエーズは。ほんとうにいろんな面を持っていて一筋縄ではいかないと思っています。やりがいのある役ですし、体当たりしていくしかないと思っています。

私たちの体を通して、見ている方に届くように

拡大剣幸=岸隆子撮影
――出演が決まって、台本を読まれたときの最初の感想はどうでしたか。

 う~ん……一回ではなかなか理解できなくて……(笑) どういうことだろう、これは?と思いながら読みました。自分一人で読んでいてもわからないことってあるんですね。初めて読みあわせをした時に、皆さんは何度かそれぞれの役をされていますから、その皆さんから「あっ、なるほど、こういうことか」と、受け取るものがいっぱいありました。

――皆さんからの表現などからですか。

 そうです。夢の世界だったり、神様の話だったり、我々にはあまりなじみのない宗教の話だったりをどうつなげたらいいんだろうと思っていたんです。そんな中、他の皆さんが演じてくださるとその波動が伝わってきました。字面だけではわからなかったことが息づいてきたのです。

――よかったです! 私も読んだ時にわからなかったんです(笑)

 読むだけでは、なかなかわからないですね(笑)。線が立体になる感じですね。

――「禁じられた恋」の壮大な四部作とチラシにありますが、それだけでなく、地球規模の大きなお話だなと思いまし

 そうですね。壮大だからこそ繊細に演じなければいけないと思います。私たちの体を通して、生きた人間として見ている方にちゃんと届くようになればいいなと。それが歴史の大きなうねりに見え、壮大なドラマになるのではと思います。

――なるほど。読んでいて理解することを放棄したのですが、でも、反対にこの作品が朗読となり、またお芝居となって、どう伝えてくださるのだろうと楽しみにもなりました。

 オラトリオ〈朗読〉の部分ではセリフだけをしっかり聞いていただき、芝居になったところでは動きまわっているので、声や体の感情が違うと思います。どちらも楽しんでいただけるように、精魂こめて演じます。

――剣さんのキャリアをもってしても、悩まれましたか。

 キャリアなんて関係ないです。どの作品をやるときも、一から創る、という気持ちです。

――今の時代にとても必要なことが、この作品にあるような気がします。

 そうですね。素っ裸の情熱のようなものがありますよね。今の時代はSNSやLINEなどすぐ簡単にまわりとつながることができるけれど、このお話の中では10年も届かない手紙があって、それが大きな意味を持ちます。隔絶された中で鬱積された情熱がものすごくあって、それはとても人間ぽいことだと感じます。今はそういう熱い人間として生きることが恥ずかしいという風潮があるように思います。

――軽んじられているような……。

 登場人物たちは、最も人間らしい生き方をした人たちという気もします。プルエーズも結婚してるけれど、他の人を好きになってしまう。でもマリア様に、それを止めてと靴を差し出すんです。それって我々と一緒で神頼みなんですよね。そういったところが、とても人間っぽいなと思うんです。

見る方々は大丈夫なのかしら?と心配しました

拡大剣幸=岸隆子撮影
――今回の舞台セットは3段になっていて、その前面に映像が映されるという。

 私はまだ実際に見ていないのですが、本番は自分たちが見ることはないので、イメージしながら演じることになります。

――いろんな大陸に行きますが、それらが映像で表現されるんですね

 クローデル自身が外交官として様々なところへ行ってます。各国のいろんなことを、クローデルが取り入れている気がします

――最後は日本でこの本を書き上げられたんですよね。クローデル自身がすごく日本が好きだったのかなと思います。

 日本の能や文化にものすごくドラマ性を感じたんじゃないかなと思うんです。そこから発想を得て、作品にでてくる「人間」は、クローデルの琴線にふれたものじゃないかなと思います。

――見る側も大変です。8時間耐久じゃないですけれど……

 そうです! 見る方々は大丈夫なのかしら?と、自分よりそちらを心配してしまいました。お客様も出演者も、どちらも覚悟がいると思います。でもこの間、9時間のお芝居を見たという方がいらしたんです。疲れることなく、集中して楽しんでご覧になったとおっしゃって。

――そして今回は、京都公演の2公演のみです。見た方は自慢できる作品になるのではないかなと思ったりするのですが。

 そうなればいいですね。「私、あのすごい作品を見たのよ」って自慢できるような作品にならなきゃだめだし、我々はそこを目指して体力をつけて(笑)、頑張りたいと思います。

――演じるプルエーズですが、どう役作りをしようと思っていますか?

 その時その時で自分の心にものすごく正直に走った人だと思うので、いろんな顔をその都度見せなければならないなと思っています。マリア様という信じているものへの道徳心、そこからはみ出た情熱、とても女らしく魅力的で男性から守られたり、また国を守るという強い力も持ちあわせている。決して一つの顔ではないという感覚を今は持っています。2~3ページの長ゼリフの中だけでも、ひとつの物語ができるくらいの感情の変化を、常に表現していかなきゃいけないと思っています。好きな人への愛と国を守らなければいけないという狭間で生きた女性だと思います。

――お稽古中でいろんな顔を作っていく作業が待っているんですね。お稽古が楽しみですね

 ……はい、楽しみです!(笑) できるできないは別として、このプルエーズという女性を演じさせていただける喜びがすごくあります。

「並んでください」で、必ず真ん中から学年順に

――今年、「宝塚歌劇の殿堂」入りをされました。剣さんにとって、宝塚歌劇団はどんなところでしょうか。

 私のベースです。今こうやって仕事をしている一番の礎は宝塚歌劇団で教えていただいたことですし、一人では何もできない、みんなで作る喜びを知りました。そして、卒業しても切っても切れないところです。OGで集まったときは、改めて宝塚のすごさを感じますし、それは100年以上続いてきている所以です。上級生が下級生を教えるという絆は、他ではないと思います。それが延々と脈々と続いているすごさですね。

――2014年に100周年を迎えられて、OGのイベント公演がありましたが、ああいった場合も上下関係はちゃんとあるんですよね。

 もちろんです。例えば「並んでください」と声がかかると、あっという間に必ず真ん中から学年順にずらっと並びます。

――そういう時、ご自身の位置ってすぐわかるもんなんですか?

 一目瞭然です! そして上級生の言葉はスムーズにすぐに伝わります。普通だったらこんなにうまく連携しないと思いますが、宝塚で培ったスゴさです。

――すばらしいですね。共演者の中に後輩がいたら、やっぱりいろいろと話されたりするんでしょうか。安心感のようなものがあったり……?

 なんなでしょうね~、同じ組でなくても、年代が離れていても通じるものがあります。

新しいビルを演じられたことはとても幸せでした

――もうご卒業してからの方が長いですよね。ご出身の富山県で公演をされたりしていました。

 市の企画として2011年から5年間、富山のオーバード・ホールで公演するというものでした。市長の森雅志さんが、生活には不必要だと思えるものこそ必要だとおっしゃってくださったんです。芝居などの自虚ムードが広がった時でも、そういう時だからこそ必要なんだと理解してくれる市長さんでした。

 最初は富山県出身の方たちが主な出演者でしたが、うわさが広がり東京の仲間たちも、富山ですごいことをやっていると言って、オーディションを受けてくれました。「ハロー・ドーリー!」は東京公演もあり、25年振りに「ミー&マイガール」もさせていただきました。

――「ミー&マイガール」をされていて、宝塚で演じられたビルをされてどうでしたか?

 全然違うものですね。宝塚は宝塚ならではの様式美があって、その中でビルを作りあげていきます。富山の公演では男性キャストももちろんいますし、ジョン卿を演じられた宝田明さんの存在はとても大きかったです。私は余計なことは考えずに、ビルという人間を男だろうが女だろうが関係なく演じればいいんだと思いました。男役という意識はなかったです。ただ、ビルという人間は周りを巻き込んでいくので、そのパワーだけは落とさないようにと思っていました。私の中で新しいビルを演じられたことはとても幸せでした。

――懐かしいという感覚ではなく?

 楽しさですね、同じ作品ですが、キャストやスタッフが変わることで、違う面からとらえて新しい発見もありました。

――宝塚の「ミー&マイガール」は見られているんですか?

 はい! 見ています。

――それは、やはり懐かしいという感じですか?

 そうですね。今の人たちはカッコいいな~って(笑)

役者さんが歌われる歌ってすてきなんです

――昨年は「エリザベート」、来年は「ビューティフル」と帝国劇場でのミュージカルにも出演されています。そして今回は8時間のお芝居と、幅広く活躍をされています。

 ミュージカルとストレートプレイをバランスよくやっていきたいです。相乗効果ってあると思うんですね。ストレートプレイでの芝居はミュージカルでの芝居も変えてくれるし、ミュージカルをやっているからこそ、芝居がリズミカルになり、音楽的な要素が良い作用を生み出したり。両方やることによりそれぞれに良い作用をもたらしてくれると思います。その中で、1年に一度、「恋文コンサート」という、私自身が構成を考えるコンサートをさせてもらっています。それは自分の歌としての表現であって芝居とはまた別のものです。歌、芝居、ミュージカルがトライアングルのようにつながっていけたらいいなと思っています。

――最近、役者さんがされるコンサートへ行く機会が続いたのですが、とてもシンプルにダイレクトに伝わってくるなと思いました。

 本当にそうですね! 役者さんが歌われる歌ってすごいすてきなんですよ。ミュージカル俳優さんじゃなくて、初めて舞台で歌を歌いますっていう俳優さんが歌った時、なんて心にしみるんだろうっていつも思うんです。声が出るとかでないとかではないんですよ、歌は。一番大事なことは伝わることだと思うんです。歌もせセリフだから、そこをうまく表現できる役者でいられたらと思います。

――スターファイルの読者のほとんどが女性で、40代以上の方が一番多いのですが、なにかアドバイスみたいなものがあれば!

 私の40代はすっごく楽しい時期でしたね。アドバイス……なんだろう。自分が何をしたいのかを、自分に聞いてあげることが大事だなと思うんです。40代でしたら、結婚してる方も多く、お子さんが大きくなって手が離れる頃でしょうか。自分の時間を大切に、と思いますね。自分が楽しめること、自分は何がしたいのかちゃんと知ることでしょうか。忙しいと思うんです。やらなきゃいけないことがたくさんあると思うのですが、少しでも自分の時間を作ってほしいなと思います。

――では最後に、「繻子の靴」への意気込みをお願いします。

 8時間、プルエーズとして生きていけるかはチャレンジです。壮大なロマンがあり、見ごたえのある作品ですので、皆さんに8時間見てもおもしろかったと言ってもらえるように頑張りたいと思います。

〈インタビューを終えて〉
 私もわからなかったです、と「繻子の靴」を読んだ感想を正直にお話しくださった剣さん。その言葉でなんだかホッとして、とても穏やかにインタビューすることができました。終始笑顔で、凛とされて、カッコいい……憧れます。チャレンジできることが幸せとおっしゃった剣さんのご年齢を考えると、私もまだまだチャレンジしないと、いや、チャレンジしたいと思わせてくださいました。8時間の「繻子の靴」、体力付けて挑みます。

 余談ですが、私もカメラマンの岸さんも剣さんのサヨナラ公演だった「川霧の橋」の大ファン。インタビューが終わって、その思いをお伝えできて幸せでした。話の流れでシーンを再現してくださり、その後私たちは、夢見心地で帰路につきました。

旧「スターファイル」ホームページはこちら

 


筆者

真名子陽子

真名子陽子(まなご・ようこ) ライター、エディター

大阪生まれ。ファッションデザインの専門学校を卒業後、デザイナーやファッションショーの制作などを経て、好奇心の赴くままに職歴を重ね、現在の仕事に落ち着く。レシピ本や観光情報誌、学校案内パンフレットなどの編集に携わる一方、再びめぐりあった舞台のおもしろさを広く伝えるべく、文化・エンタメジャンルのスターファイルで、役者インタビューなどを執筆している。

真名子陽子の新着記事

もっと見る