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痛快タイムスリップ・サスペンス・コメディー

【公演評】舞台「扉の向こう側」

(キューブ提供)


拡大「扉の向こう側」公演から=岸隆子撮影
 11日、兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホールにて、舞台「扉の向こう側」が開幕した。「扉の向こう側」は、男役トップスターとして観客を魅了してきた元宝塚歌劇団雪組・壮一帆が、宝塚退団後、初の女性役、しかも2036年のSMクイーンに扮し、セクシーなコスチュームになる、という情報でも注目を集めた。

 “イギリスの喜劇王”と言われるアラン・エイクボーンが、1994年に執筆した作品で、今まで日本でも、幾度か上演されている。演出を担当する板垣恭一は、この作品を手掛けるのは2度目となる。壮は退団後、舞台「エドウィン・ドルードの謎」で“青年役を演じる壮一帆役”を、「Honganji」では性別を超越した美しき僧を演じた。今回のSMクイーン・フィービー役は、満を持しての初の“女性役”である。

 物語は、イギリスの五つ星ホテル「リーガル」のスイートルームが舞台。40年間の時空を行き来しながら、殺すか殺されるかのスリルと、それぞれの時代に生きる女性たちの奮闘ぶりが堪能できる、痛快タイムスリップ・サスペンス・コメディーだ。

 ホテルの部屋には、過去に2人の妻を殺した罪を悔い、ざんげの心を込めて告白文を書いた70歳の実業家のリース(吉原光夫)がいた。そこに、仕事の依頼を受けやって来たSMクイーンのフィービーが現れる。壮がコートを脱いだ瞬間、観客が目にするのは黒い“あの”コスチューム。それだけでもかなりの刺激ではあるが、それ以上に長い足と抜群のスタイルが目を引く。壮の飾らない性格が、一見はすっぱだが、人の良さやどこか素朴な雰囲気も持ち合わせるフィービーという人物にも反映されているようにも思える。

 事件に巻き込まれ命の危険を感じたフィービーが開けたドアの向こうに待っていたのは、2016年の同じスイートルームにいるリースの2番目の妻・ルエラ(一路真輝)。さまざまな人生経験から得た落ち着きと凜とした理知性をもつルエラを、一路は、自然に魅力的に演じている。ルエラという女性がこの物語において大きな核になるであろうことを予感させる。

 そして更に20年さかのぼるもう一つの時代、1996年にはリースの最初の妻・ジェシカがいた。紺野まひる演じるジェシカは、上品で清しく可憐(かれん)。新婚ほやほやで、まだ未来しか見ていないジェシカにリアリティーを与え、フィービーやルエラのような、人生の影を内在する人物とはまた違う空気をもつ人物像が際立つ。

 男優陣も力強く層が厚い。リース役を演じる吉原は、成り上がって来た実業家の強さと、世の中の裏表を見てきた複雑な人物像に加え、朽ちていく人の哀れを巧みに演じる。岸祐二演ずるジュリアンは、リースの忠実な共同事業者であり、こわもてに物事を遂行するが心に持つ闇ゆえか、時折見せる静かな怖さが印象的だ。騒動に巻き込まれてゆくホテルの警備員ハロルドを演じるのは、泉見洋平。唯一、絡み合う人間関係とは別のところにいる人物だが、その軽やかな居住まいとコミカルな風合いは芝居に心地よいリズムを与えている。

 ミュージカルで主演も多く務めてきた6人のスターキャストが、ストレートプレイでも、実力を遺憾なく発揮しぜいたくな劇空間を生み出している本作品。彼らが舞台上にいるだけで、劇場は一気にイギリスの高級ホテルと化し、移り変わる時空に観客は誘われる。息もつかせぬ展開にハラハラドキドキしながら、劇場を出る時には、愉快な気持ちと、切ない気持ちが残る作品になるに違いない。深まる“芸術の秋”に必見の一作だ。(キューブ提供)

【インタビュー記事はこちら

◆舞台「扉の向こう側」
《兵庫公演》2016年11月11日(金)~13日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
《東京公演》2016年11月16日(水)~23日(水・祝) 東京芸術劇場 プレイハウス
《名古屋公演》2016年11月28日(月) 青少年文化センターアートピアホール
⇒内容については公式ホームページなどでご確認ください。

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