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【ヅカナビ】バレンシア・砂漠・コクトーの世界

三者三様、「愛と復讐」の3日間

中本千晶 演劇ジャーナリスト


 11月末、宙組全国ツアー『バレンシアの熱い花』、花組宝塚大劇場公演『金色の砂漠』、そして宙組バウホール公演『双頭の鷲』を3日間連続で観劇してしまった。この3作品、上演劇場も作品のタイプも全く異なっているのに、いずれも「愛と復讐」がテーマとなっている。このような体験は我がヅカファン人生でも初めてのことなので、少し振り返ってみたいと思う。

復讐が果たされたときに終わる愛……『バレンシアの熱い花』

 いわゆる懐かしの名作の再演である。初演は今から40年前の1976年。この頃の月組は、男役には榛名由梨・瀬戸内美八・順みつき、娘役にも小松美保・舞小雪・北原千琴と、タイプの違うスターが揃った贅沢な時代だった。そんな月組メンバーに合わせて柴田侑宏氏が当て書きしたのが、この作品だ。

 時はナポレオン支配下のスペイン、貴族の青年フェルナンド(朝夏まなと、初演は榛名)はバレンシアで権力を握るルカノール公爵(寿つかさ)に父を殺され、その仇を討つべく、恋人シルヴィア(遥羽らら、初演は舞)をルカノール公爵に奪われたロドリーゴ(澄輝さやと、初演は瀬戸内)、ラモン(真風涼帆、初演は順)と共に立ち上がった。フェルナンドはその過程で酒場の娘イサベラ(伶美うらら、初演は小松)と身分違いの恋に落ちるが、ラモンもまたイサベラに思いを寄せている。いっぽうフェルナンドには可憐な婚約者マルガリータ(星風まどか、初演は北原)が健気に待っているのだった……と、ストーリーも古典的だ。

 したがって、この作品における「愛」と「復讐」の関係もシンプルだ。復讐と愛が並行して描かれ、復讐の中で生まれた愛は、復讐が果たされたときピリオドが打たれる。だが、定番の物語もキャストが揃うとこんなに見応えがあるものに仕上がるという良き事例となった。影のある知性派ロドリーゴへのときめき、ラモンのお茶目なユーモアと包容力、そしてチャラ男のふりして王道の二枚目ぶりを発揮するフェルナンドへのギャップ萌え。三者ともに初演に劣らないのではないかと思えるほどのハマリ役で、観客としては「みんな素敵で選べないっ!」(誰も選んでいいとは言っていないのだが)という気分になってしまうところが、この作品の醍醐味だろう。

 娘役陣もそれぞれ魅力が際立ち、とりわけ伶美イザベラの凜とした美しさには目を見張るものがあった。3組のカップルが歌う名曲『瞳の中の宝石』は、「愛している」の連呼へ込められる思いがそれぞれ違い、胸を打たれる。全国各地の劇場で上演され、初めてタカラヅカに触れるお客さんも多い公演にふさわしい一作となった。

愛と復讐は密接不可分……『金色の砂漠』

 うって変わってこちらは、新進気鋭の演出家・上田久美子氏の新作だ。『月雲の皇子』『翼ある人びと』そして『星逢一夜』と、これまで次々とハイレベルな作品を繰り出してきただけに期待値も高かったが、またしても新たな引き出しを見せつけられた。

 物語の舞台は架空の砂漠の国。この国の王族の子どもは、幼少時から異性の奴隷と共に育てられるという不思議な風習がある。こうして幼少時から共に育った王女タルハーミネ(花乃まりあ)と奴隷のギィ(明日海りお)との間には、互いに相手を激しく愛し、ゆえに憎み合うという抜き差しならぬ関係が生まれていく。

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筆者

中本千晶

中本千晶(なかもと・ちあき) 演劇ジャーナリスト

山口県出身。東京大学法学部卒業後、株式会社リクルート勤務を経て独立。ミュージカル・2.5次元から古典芸能まで広く目を向け、舞台芸術の「今」をウォッチ。とくに宝塚歌劇に深い関心を寄せ、独自の視点で分析し続けている。主著に『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』『タカラヅカ流世界史』『宝塚歌劇に誘(いざな)う7つの扉』(東京堂出版)、『鉄道会社がつくった「タカラヅカ」という奇跡』(ポプラ新書)など。早稲田大学非常勤講師、NHK文化センター講師。

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