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格差と復讐の物語を描く『ニンジャスレイヤー』

怒り、恨み、哀しみ……人間の根本的な感情を書く文学

高原耕平

デフォルメ化された格差社会で

 「ツイッター翻訳小説『ニンジャスレイヤー』の挑戦――独特の言語世界と特異なメディア展開」で書いたように、コミカルな日本語表現やツイッターを軸にした展開は、『ニンジャスレイヤー』の魅力の一部にすぎない。この作品がファンの根強い支持を得ているのは、「格差社会」と「復讐の物語」を描き続けているからではないか、とわたしは考えている。

(第2部「チューブド・マグロ・ライフサイクル」より)

 『ニンジャスレイヤー』は格差社会を描く物語でもある。単なる「異能力バトルもの」と本作を分けるのは、社会の歪みと弱者へのまなざしである。

公式サイト(「ニンジャスレイヤー公式ファンサイト・ネオサイタマ電脳IRC空間」)拡大「ニンジャスレイヤー公式ファンサイト・ネオサイタマ電脳IRC空間」より
 各エピソードではしばしば、ぎりぎりの生活を送る小市民が物語の糸口をつくる。危険な低賃金労働を強いられている労働者が、偶然のきっかけから小さな幸福を掴もうとしたところに悪のニンジャ組織の策動に巻き込まれてしまう……、という筋書きが典型的である。

 「マケグミ」の生活から頭一つだけでも抜け出して新鮮な空気を吸いたいという希望や怨嗟。あるいは、他人を押し退けて得ている「カチグミ」の生活も一歩間違えれば落とし穴が待っているという不安や罪悪感。『ニンジャスレイヤー』は人生がぎちぎちと閉じ込められてゆくような現実社会の感情や雰囲気をうまくくり抜いて悲喜劇を加速させる。

 描かれるのは労働者だけではない。「勝ち組」と「負け組」に分断されたサラリーマン。得体の知れない粗悪な栄養補給食品。ドラッグやネットに没入するひとびと。生命倫理を無視したサイボーグやクローン技術。映像メディアを独占するアイドルグループ。大企業と癒着した政府による言論統制や相互監視。

(第3部「ニンジャスレイヤー・ネヴァーダイズ/アクセラレイト」より)

 現実の日本社会に蔓延する「格差社会」や「統制社会」の現実を、『ニンジャスレイヤー』はときに露骨な仕方で描写する。 ・・・続きを読む
(残り:約2032文字/本文:約3217文字)

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筆者

高原耕平

高原耕平(たかはら・こうへい) 大阪大学文学部博士後期課程

大阪大学文学部博士後期課程(臨床哲学専攻)。大阪大学未来共生イノベーター博士課程プログラム所属。1983年、神戸生まれ。大谷大学文学部哲学科卒。研究テーマは、トラウマに関する精神医学史、ドイツ哲学、阪神淡路大震災。最近の論文として、「反復する竹灯篭と延焼 阪神・淡路大震災における〈復興/風化〉と追悼の関係」(『未来共生学ジャーナル』3号、2016年)など。