怒り、恨み、哀しみ……人間の根本的な感情を書く文学
2017年01月05日
「ツイッター翻訳小説『ニンジャスレイヤー』の挑戦――独特の言語世界と特異なメディア展開」で書いたように、コミカルな日本語表現やツイッターを軸にした展開は、『ニンジャスレイヤー』の魅力の一部にすぎない。この作品がファンの根強い支持を得ているのは、「格差社会」と「復讐の物語」を描き続けているからではないか、とわたしは考えている。
オレンジ色の作業服を着た労働者ヨシチュニ・ヒロシは、監視ゲートで労働賃金を受け取ると、オミヤゲ・ペナント工場を後にした。労働者の群れは、今夜のスシや電脳マイコセンターを求め、魚群めいてオイシイ・ストリートへ向かう。ヒロシも数時間ぶりにIRC端末を操作しながら、流れに乗った。 3
— ニンジャスレイヤー (@NJSLYR) 2012年3月14日
(第2部「チューブド・マグロ・ライフサイクル」より)
『ニンジャスレイヤー』は格差社会を描く物語でもある。単なる「異能力バトルもの」と本作を分けるのは、社会の歪みと弱者へのまなざしである。
「マケグミ」の生活から頭一つだけでも抜け出して新鮮な空気を吸いたいという希望や怨嗟。あるいは、他人を押し退けて得ている「カチグミ」の生活も一歩間違えれば落とし穴が待っているという不安や罪悪感。『ニンジャスレイヤー』は人生がぎちぎちと閉じ込められてゆくような現実社会の感情や雰囲気をうまくくり抜いて悲喜劇を加速させる。
描かれるのは労働者だけではない。「勝ち組」と「負け組」に分断されたサラリーマン。得体の知れない粗悪な栄養補給食品。ドラッグやネットに没入するひとびと。生命倫理を無視したサイボーグやクローン技術。映像メディアを独占するアイドルグループ。大企業と癒着した政府による言論統制や相互監視。
「何だと……!」さしものチバも己の目を疑った。千の代議士は一糸乱れぬ統率感で起立すると、同時に大扉側を向き、チャカガンを抜き放ったのだ!「「「ザッケンナコラーッ!」」」おお、何たるディストピア的禁忌光景!千の議席を占めていたのは、アマクダリ金バッチをつけたクローン代議士であった!
— ニンジャスレイヤー (@NJSLYR) 2016年7月13日
(第3部「ニンジャスレイヤー・ネヴァーダイズ/アクセラレイト」より)
現実の日本社会に蔓延する「格差社会」や「統制社会」の現実を、『ニンジャスレイヤー』はときに露骨な仕方で描写する。
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