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地味な人文書出版の未来は決して暗くはない

出版不況の最大要因「アマゾン」対応を間違えるな

中川右介 編集者、作家

 2016年の出版界は、明るい話題がほとんどないままに暮れた。

 2月に取次の準大手の太洋社が破産した。これで、大阪屋、栗田出版販売、太洋社の3社が数年の間に経営危機に陥り、大阪屋(現・大阪屋栗田)しか残らなかったことになる。その次の規模の中小取次も大きな話題にはならないが、いくつも姿を消している。最大手のトーハン、日販とて安泰ではない。

 そして11月に、神保町にある信山社・岩波ブックセンターが86歳になる会長の死去の数週間後に破産した。

 同店のホームページには「硬派出版社の新刊本・既刊本にこれだけ出会える書店は、他に例はない」とあり、「専門書の専門店」として出版業界と読書好きの間では知られていた。

 岩波書店とは資本・経営的に関係がなくなっても、「岩波ブックセンター」の看板はそのままだったので、この破産をもって、「岩波文化の危機」としている論調もある。

 それは大げさだと思うが、とはいえ、岩波書店の経営状況もよくはないし、主に人文書を出している「硬派出版社」全般が厳しい経営状況にあるのは間違いない。

 だが、「出版不況」は、硬派・軟派、規模の大小、刊行物のジャンルを問わず、出版界全体の話でもある。

「書店不況」「流通不況」の要因

アマゾンの「プライムナウ」向け倉庫。注文された商品を作業員が一つずつ集めていく=東京都内アマゾンの「プライムナウ」向け倉庫。アマゾンが総合ネット通販会社になって久しい=東京都内
 ただ、これまでの「出版不況」と少し異なるのは、かつては、倒産するのは出版社がほとんどだったが、現在の出版不況は、書店と取次を直撃している「流通危機」だということだ。

 この「出版不況」論に対して「活字離れではない」「読者は減っていない」との反論があるが、それは全く的外れなわけではない。

 ネットも含めれば、むしろ読者は増えているとの説もある。「本が書店で売れない」だけなのだ。

 つまりは「書店不況」、「流通不況」である。

 その最大要因は、アマゾンにある。つまり、「アマゾン不況」と呼んでもいい。

 この「アマゾン不況」においては、書店・取次・出版社・著者の4者の利害は一致しない。さらに「読者」という第5者となると、もっと一致しない。

大手取次に明るい未来はない

 この状況下、「地味な人文書」に未来はあるのか。

 アマゾンはいくつかの顔を持つ。

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