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【公演評】ミュージカル『フランケンシュタイン』

歌の力で壮大なドラマを紡ぎ出す、韓国発のミュージカルを日本初演

大原薫 演劇ライター


 ミュージカル『フランケンシュタイン』が上演中だ。韓国で人気を博した作品の日本初演。難曲に日本のミュージカル界を代表するキャストたちが挑み、見事な成果をあげている。また、メインキャスト8人がすべて一人二役で演じていることも見どころの一つ。ビクター/ジャック役は中川晃教と柿澤勇人、アンリ/怪物は加藤和樹と小西遼生がダブルキャストで演じている。中川と加藤の出演回を観劇した。

豊かな音楽性と舞台からほとばしる熱が作品の魅力

拡大ミュージカル『フランケンシュタイン』公演から=東宝演劇部提供

 韓国ミュージカルはこれまで日本で『シャーロックホームズ』『ブラック メリー ポピンズ』『キム・ジョンウク探し』などが上演されてきたが、客席数1000席以上の規模での公演は今回が初めて。日本では欧米のミュージカルの翻訳上演が主なのに対して、韓国では翻訳作品と並んでオリジナル作品の上演が盛んにおこなわれている。『フランケンシュタイン』は企画段階から世界的に共感できる作品を目指し、ヨーロッパや中国での上演も検討されているという。

 韓国オリジナルミュージカルの特徴は音楽性の豊潤さ。海外で音楽を学ぶなど経験を積んだ作曲家がドラマチックで流麗な楽曲を生み出し、主演者からアンサンブルまで優れた歌唱力を誇る演者がそろう。さらに、舞台の熱さ。以前、韓国ミュージカルで活躍する俳優ユン・ヒョンリョルが「俳優の情熱。今日の公演が最後のように演じきる、それが韓国俳優の特徴です」とインタビュー(BSスカパー放送『韓国ミュージカルの世界』)で語った言葉がもっとも韓国ミュージカルを端的に表現していると思う。演者の熱がダイレクトに伝わる舞台が観客を魅了し、日本から韓国まで観劇遠征に出かける者も多い。

 『フランケンシュタイン』は韓国ミュージカルの特徴を最も魅力的に生かした作品だといえる。楽曲による説得力でストーリーを運んでいくという手法の作品に日本のミュージカル界を代表するキャストたちが真っ向から挑戦。高音から低音まですべての音域を駆使して歌わなければいけないドラマチックな楽曲に挑み、スケールの大きなドラマを紡ぎ出した。

中川晃教はまさに天才そのもの、加藤和樹は怪物役で新生面を拓く

 フランケンシュタインといえば、「怪物」の代名詞。しかし(多くの人が勘違いしているが)、フランケンシュタインは怪物の名前ではなく、怪物を生み出した科学者の名前だ。原作は19世紀のイギリスの女流作家メアリー・シェリーによる小説。今回のミュージカル版は原作を換骨奪胎し、人物設定を借りてオリジナルのストーリーを編み出したものだ(脚本・作詞はワン・ヨンボム)。

 19世紀ヨーロッパ。科学者ビクター・フランケンシュタインは戦場でアンリ・デュプレの命を救う。“生命創造”によって理想の世界を実現させようと意欲に燃えるビクターと出会い、志を同じくするアンリ。固い友情で結ばれた二人だが、アンリは殺人事件に巻き込まれたビクターを救うために、無実の罪で死刑となる。ビクターはアンリを生き返らせようと“生命創造”を試みる。しかし、誕生したのはアンリの記憶を失った“怪物”だった……。

 理想に燃える天才青年ビクターを演じるのは中川晃教。日本で「天才」を演じさせたら、中川の右に出る者はいないと言っていいだろう。音楽の天才モーツァルト(『モーツァルト!』『ロックオペラ モーツァルト』)、チェスの世界チャンピオン(『CHESS THE MUSICAL』)、天使の歌声を持つアーティスト(『ジャージー・ボーイズ』)、ピンボールの魔術師(The who’s 『TOMMY』)と枚挙に暇がないが、中川はビクターで新たな「天才」像を立ち上げた。神の領域に踏み込む恐れと罪の意識を内包しながらも、自分が持つ理想のために“生命創造”に命を懸けるビクターの生き様を、中川は歌声にすべて映し出す。

 圧巻なのは1幕最後の大ナンバー「偉大な生命創造の歴史が始まる」(音楽はイ・ソンジュン)だ。曲前半の低音部分ではビクターの心の震えがそのまま歌声となり、オーケストラの弦楽器の震える音もまるでビクターの内面から発信しているかのように錯覚させられる。観客とビクターがシンクロし共振する中で、一気に静寂を破って高音域に突入するときの解放感はすさまじい。この圧倒的な力はまさに「天才」がなせる業なのだと問答無用で納得させられる。

拡大ミュージカル『フランケンシュタイン』公演から=東宝演劇部提供
 アンリ/怪物を演じるのは、加藤和樹。細かい説明部分を省いたスピーディーな物語展開の中で、役の心情を通すために繊細にアプローチを試みた。「君の夢の中で」のナンバーでは自分の命を救ってくれたビクターに対する恩義だけでなく、同じ志を持つ者同士として深い共感を持っているという心情を歌声に込めた。ほほ笑みを浮かべて断頭台に臨む姿が印象深い。おぞましい姿の「怪物」となってしまった後は、自らの「創造主」であるビクターへの恨みを爆発させる。悲惨な過去の回想シーンの後に歌われる「俺は怪物」は、本作を代表するナンバーであり、難曲。このナンバーを歌いこなすために、韓国でアンリ/怪物役を演じたパク・ウンテの師の指導を仰ぎ、レッスンに励んだという。迫力のある歌声で怪物の慟哭を体現して、新生面を切り拓(ひら)いた。

 怪物はアンリであったときの記憶は失っている別人という設定だが、日本版では物語後半、怪物が少年と出会う場面に改変を加え、アンリの記憶が少しずつ蘇っている可能性を感じさせるものとなっている。

◆公演情報◆
ミュージカル『フランケンシュタイン』
2017年1月8日(日)~29日(日) 東京・日生劇場
2017年2月2日(木)~5日(日) 大阪・梅田芸術劇場メインホール
2017年2月10日(金)~12日(日) 福岡・キャナルシティ劇場
2017年2月17日(金)~18日(土) 愛知・愛知県芸術劇場大ホール
[スタッフ]
潤色/演出:板垣恭一
訳詞:森雪之丞
音楽監督:島 健
[出演]
中川晃教/柿澤勇人(Wキャスト)、加藤和樹/小西遼生(Wキャスト)、音月桂、鈴木壮麻、相島一之、濱田めぐみ ほか
公式ホームページ

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筆者

大原薫

大原薫(おおはら・かおる) 演劇ライター

演劇ライターとして雑誌やWEB、公演パンフレットなどで執筆する。心を震わせる作品との出会いを多くの方と共有できることが、何よりの喜び。ブロードウェー・ミュージカルに惹かれて毎年ニューヨークを訪れ、現地の熱気を日本に伝えている。

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