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渡辺えり×木野花×桑原裕子が情熱的に語る(上)

演出家3人が出演する「今しかない演劇」~オフィス3〇〇『鯨よ! 私の手に乗れ』

大原薫 演劇ライター


拡大左から、桑原裕子、渡辺えり、木野花=岩村美佳撮影

 2017年1月18日から2月5日まで、オフィス3〇〇公演『鯨よ! 私の手に乗れ』がシアタートラムにて上演中だ。作・演出は渡辺えり。

 認知症が進んだ老女たちが入所している介護施設。なんでも演出したがる認知症の元演出家助手、藍原佐和子(木野花)が老女たちを率いて、往年のアングラ芝居を上演しようとする。入所者の神林生子(銀粉蝶)を見舞いに来た生子の娘で女優の神林絵夢(桑原裕子)はその様子を目の当たりにして……。認知症になっても演劇への情熱を燃やす老女たちの姿に、渡辺は20年後の自分たちを重ねる。渡辺の母親が介護施設に入所した実体験をモチーフとしながら、フェミニズムの問題にまで切り込んでいく。歌と踊りで彩られる「渡辺ワールド」は、現実と虚構を行き来する舞台。渡辺は生子の母、神林鶴子役で出演する。

 稽古も佳境を迎えた1月初旬、渡辺、木野、桑原の3人に話を聞いた。演出家として活躍する木野と桑原が渡辺の演出を受け、大いに刺激を受けている様子が伺えた鼎談だった。

切ない、いい話になったのは出演者の力が大きい

拡大渡辺えり=岩村美佳撮影
――木野さん、桑原さんへ出演を依頼した理由は?

渡辺:演劇の話が書きたかったので、(演出家でもある)この二人にお願いしたかったんです。この作品の中で自分の母と自分のことを書こうとして、誰に自分の役を演じてもらうかと思ったとき、作・演出をして役者もしている桑原さんにお願いしようと思いました。木野さんとは前々から「女流三羽烏」と言われていてね。

木野:如月小春さんとね。

渡辺:(1970年代後半~80年代)当時は三人とも「なんで三人一緒にされるんだろう」と心穏やかじゃなかった。

木野:そうだね。

渡辺:そういう時代から同じ演劇をやってきた仲間の木野さんが、私たちの20年後の姿を描くのにはピッタリだと思うんですね。

――木野さんから見て渡辺さんの演出は?

木野:大変ですよ(笑)。えりの世界は妄想と虚構と現実を行ったり来たりしてるから。自分たちで読み解きながらも、えりに説明してもらわないとわからない部分がたくさんあるんですよ。でも、あんまりしつこく聞くと怒っちゃうんです。

渡辺:怒らないよ(笑)

木野:「自分で想像しなさい」と言われたりするし、大変でした。

渡辺:私が思い込みが激しいから「これはわかるだろう」と書いていることを、木野さんは「ここはどういう意味かわからない」「これはきちんとわかる形で書いた方がいい」と言うんです。正月2日の朝に電話があって、ここがわかりにくいから、別の台詞を書き加えた方が良いと。木野さんは論理的。わかるようにきちんとやりたいという気持ちが強い。私は感覚派の直球型でどんどん行ってしまう方だから、助かった。今回、田根楽子さんが急病のため、銀粉蝶さんが代役で(渡辺の母親にあたる役)生子をやってくれるんですが、銀さんも昔、生田(萬)さんと劇団(ブリキの自発団)をやっていた方だから、今回やろうとしていることがすぐ理解できましたね。昨日改めて本読み稽古をしたんだけど、涙が止まらなかった。

桑原:わかります。泣けちゃいました。

渡辺:母親のことを思ったり、自分たちが今までやってきたことを検証する芝居になったり。切ない、いい話になったなあと思いましたね。それは、出演者の力が大きい。実際にアングラ芝居をやるという心意気が(登場人物に)ないと、ただのパロディーで嘘になってしまう。木野さんにしても銀さんにしても、当時小劇場でやろうとしたことを体現してくれているので、それがとても助かっています。

演劇でないとできない舞台です

拡大桑原裕子==岩村美佳撮影
――桑原さんは、先輩演劇人のお二人とご一緒するのはいかがですか?

桑原:私からすると「オールスター夢の共演」みたいな場所に飛び込ませてもらったような気持ちなんです。18、19歳で芝居を始めたころは演劇部の部室に(渡辺えりの代表作の一つ)『ゲゲゲのげ』や(木野花が在籍した)劇団「青い鳥」の台本があった。私が最初にやったのは如月小春さんの台本でした。「あの頃なにもわからずにやっていた、あの方々とご一緒できる」という思いがありますね。それだけで終わらせてしまうとあまりにももったいないので、なんとか食らいついていかねばと思っているところです。

――桑原さんが演じる絵夢に、渡辺さんが思いを託している部分もありますよね。

渡辺:そうですね。自分でも照れて言えないようなことを言ってもらうとちゃんと収まるから。

桑原:私が演劇を始めたころは平田オリザさんが出てきて、「現代口語演劇」といわれる静かな演劇が主流になっていたころなので、アンダーグラウンドというものを経験しないまま演劇を始めて20年。あの時代の「死にもの狂いで演劇をする」という情熱を体感しないままで来たんです。今回の『鯨よ!~』の中で書かれていることを羨ましく思う、不思議な感覚があって。読んでいると反転する形で、現代の若い子たちの閉塞感が浮かび上がってくる脚本だなと感じます。「今、息苦しいんだな」ということを感じるんですね。

◆公演情報◆
オフィス3○○公演『鯨よ! 私の手に乗れ』
2017年1月18日(水)~2月5日(日) 東京・シアタートラム
[スタッフ]
作・演出・振付:渡辺えり
[出演]
木野花、銀粉蝶、久野綾希子、桑原裕子、土屋良太、広岡由里子、鷲尾真知子、渡辺えり
小出奈央、川口龍、佐藤友紀、町田達彦 ほか
公式ホームページ
〈渡辺 えりプロフィル〉
劇作家・演出家・女優。舞台芸術学院、青俳演出部を経て、1978 年より「劇団 3○○」を 20 年間主宰。82 年『ゲゲゲのげ ~逢魔が時に揺れるブランコ』で岸田國士戯曲賞を受賞。87年『瞼の女-まだ見ぬ海からの手紙-』には第22回紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞し以後、数々の作品を生み出す。NHK朝の連続ドラマ小説『あまちゃん』や映画『Shall we ダンス?』他、CM・バラエティー番組などにも出演しマルチな活躍をみせている。四年前より開講している「渡辺流演劇塾」では、老若男女問わず幅広い年齢層に演劇を創造する楽しさを自ら教え、その育成に励むほか、今年は自身初演出のミュージカルも手がけた。
渡辺えりオフィシャルブログ
〈木野 花プロフィル〉
女優・演出家。1974年に東京演劇アンサンブル養成所時代の仲間5人と、女性だけの劇団「青い鳥」を結成。翌年に旗揚げ公演を行い、80年代の小劇場ブームの旗手的な存在になる。86年、同劇団を退団後も女優・演出家として活躍中。主な出演作に映画 『恋人たち』『娚の一生』、ドラマ『あまちゃん』『3年B組金八先生』、舞台『書く女』など。演出作に、グループる・ばる『八百屋のお告げ』月影番外地『どどめ雪』など。渡辺えり作品は、2003年・07年『りぼん』(初演・再演)、11年・12年『月にぬれた手』(初演・再演)に続き、今回が5度目の参加となる。
〈桑原 裕子プロフィル〉
KAKUTA主宰・作・演出・俳優・東宝芸能所属。阿佐ヶ谷スパイダース・葛河思潮社・双数姉妹・道学先生・ブラジル等人気劇団や白井晃演出『ペール・ギュント』などへ多数出演。脚本家としては、舞台・映像・ラジオ・ノベラ イズ小説・ゲームシナリオと様々な分野に脚本を提供。近年は山下達郎クリスマス・イブ(30th Anniversary Edition)初回限定盤特典『クリスマス・イブ』新録ショート・フィルムやドラマ『温泉マル秘大作戦』の脚本も手掛け、09年KAKUTA作品『甘い丘』再演で第64回文化庁芸術祭・芸術祭新人賞(脚本・演出)、14年KAKUTA 作品『痕跡(あとあと)』にて、第8回鶴屋南北戯曲賞を受賞。演出家としては、2011年~13年までブロードウェー・ミュージカル『ピーターパン』の潤色・作詞・演出を行う。
桑原裕子twitter

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筆者

大原薫

大原薫(おおはら・かおる) 演劇ライター

演劇ライターとして雑誌やWEB、公演パンフレットなどで執筆する。心を震わせる作品との出会いを多くの方と共有できることが、何よりの喜び。ブロードウェー・ミュージカルに惹かれて毎年ニューヨークを訪れ、現地の熱気を日本に伝えている。

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