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【ヅカナビ】インド映画がタカラヅカの舞台に!

マサラ・ミュージカル『オーム・シャンティ・オーム-恋する輪廻-』

中本千晶


 2017年、星組に新トップスターが誕生した。紅ゆずるである。じつは私、この日を密かに楽しみにしていた。何故なら、彼女こそ今という時代が生んだスターだと感じており、ずっと気になる存在だったからだ。

 もともと優等生ではなく、スター候補生として早くから抜擢されてきたわけでもなかった。新人公演最後の年に主役のチャンスをつかんだけれど、それ以上に紅が注目されたのはCS放送「タカラヅカ・スカイ・ステージ」上でのことだったと思う。彼女が「自主的に」結成したユニット「紅5(くれないファイブ)」が登場する番組が大人気になったのだ。まさにCS放送が育てたスターと言っていい、今どきらしいスターなのである。

 もちろん舞台映えもするけれど、舞台を降りても面白く、トーク力も抜群なトップスターの誕生だ。タカラヅカでは新トップスターの最初の主演作品(プレお披露目公演)には、そのスターの持ち味が最大限に生かされる作品を持ってくるが、果たしてこの異色スター、紅にはどんな作品がチョイスされるのかに興味津々だった。そうしたら何と、インド映画の大ヒット作『オーム・シャンティ・オーム』だという。そう来たか! しかも「マサラ・ミュージカル」という謎の副題も付いている。

インド映画のカオスな世界がタカラヅカへ!?

 予習のため先に映画を見てみることにした。インドには「ハリウッド映画」に対して「ボリウッド映画」という言葉があることぐらいは知っていたが、恥ずかしながら見るのは初めてだ。まず約2時間50分もの超大作であることに驚いた。しかも、そのうちかなりの部分が唐突に始まる歌と踊りで占められている。むろんヅカファンたるもの、そういう展開には全く動じないけれど。しかし、これにもちゃんと理由があるらしい。インドの人にとって映画は、休日に家族総出で大枚はたいて見る娯楽なので、時間もたっぷり、内容も盛りだくさんなものが求められるのだそうだ。

 物語の舞台はボリウッド映画界。脇役俳優のオーム・プラカーシュ・マキージャーは、自分もいつか大スターになると信じ、憧れの大女優シャンティプリヤの大看板の前でいつも彼女に話しかけている。ふとしたチャンスから本物のシャンティプリヤと知り合い、心を通わせるのだが、映画プロデューサーのムケーシュの策謀により2人は命を落としてしまう。ところが30年後、オームは大スター、オーム・カプールとして転生、前世の記憶を思い出した彼は??……というストーリである。

 オーム役を演じるシャー・ルク・カーンは「キング・オブ・ボリウッド」の異名を取る大スターだそうで、紅とはあまり似ていないソース系の顔立ちだが、楽天的で決して夢をあきらめないキャラクターはお似合いな気がした。いっぽうヒロインの方は、紅と共にこのたびトップ娘役となる綺咲愛里の雰囲気にぴったりだ。

 正直、紅のプレお披露目公演と聞いて、もっとコミカルな作品だと思っていたのに、意外とヘビーな話だなと思った。お気楽さと真面目さ、優しさと残酷さ、刹那と永遠が交錯している。じつはこれまたインド映画の特徴で、恐怖や憎悪といったネガティブなものも含めた多様な情感が描かれている作品が、インドでは良しとされるのだとか。まさにインドらしいカオスである。

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筆者

中本千晶

中本千晶(なかもと・ちあき) 演劇ジャーナリスト

山口県出身。東京大学法学部卒業後、株式会社リクルート勤務を経て独立。ミュージカル・2.5次元から古典芸能まで広く目を向け、舞台芸術の「今」をウォッチ。とくに宝塚歌劇に深い関心を寄せ、独自の視点で分析し続けている。主著に『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』『タカラヅカ流世界史』『宝塚歌劇は「愛」をどう描いてきたか』『宝塚歌劇に誘(いざな)う7つの扉』(東京堂出版)など。早稲田大学非常勤講師、NHK文化センター講師。

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