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SMAPを失ったテレビは可能性を大きく狭めた

道半ばだったSMAP/エンターテインメントと社会の新たな関わり方

太田省一 社会学者

SMAPのベストアルバムの販売コーナー。ファンらがメッセージを書いたノートが置かれていた=21日午後、東京都渋谷区のタワーレコード渋谷店拡大SMAPのベストアルバムが並べられたレコード店のコーナー。ファンのメッセージを書いたノートが置かれた=2016年12月21日、東京都渋谷区のタワーレコード渋谷店

大晦日、ラジオで最後に叫ばれた「SMAP」

 昨年2016年12月31日大晦日の夜11時、私はそれまで見ていた『NHK紅白歌合戦』(以下、『紅白』と表記)からいったん離れ、ラジオに耳を傾けた。その日で解散することを発表していたSMAP・中居正広の番組『中居正広のSome girl' SMAP』(ニッポン放送)を聞くためである。

 その日、中居正広は、たまたま放送日が大晦日になったことにはなにか意味があるのかもしれないと切り出し、静かに語り始めた。その内容は、分裂・独立騒動から始まったこの一年の心境、他のメンバーの頑張りに対する労(ねぎら)い、そしてファンが熱心に繰り広げたさまざまな支援活動への感謝などである。それは、彼が初めて解散(彼は番組中その単語を一度も口にしなかったが)について自分の言葉で語ったものと言えた。

 そして番組の終わり、中居正広は「ちょっと声、張りますね。いいですか?」と前置きしたうえで、「しんごー! つよしー! ごろうー! きむらー! SMAPー! じゃねー! バイバーイ!」とメンバーと「SMAP」の名を心の奥底から絞り出すように、だが同時に明日にでもすぐ会える友だちに向けたものであるかのように叫んだ。その後彼の選曲で流れたのは、彼らがデビュー前から歌っていたオリジナル曲のひとつ、その名も『SMAP』であった。

 一方、事前の出演交渉をめぐってあれほど話題になっていたにもかかわらず、『紅白』の番組中に「SMAP」の名はまったくふれられることがなかった。

 この20年くらいのあいだ、彼らが『紅白』の屋台骨を支えてきたと言っても過言ではない。『SMAP×SMAP』(フジテレビ系)もそうだが、彼らは音楽番組やバラエティといったテレビの娯楽の中心にあった。その「SMAP」の名が、テレビよりもラジオで最後に叫ばれることになったのは、大きな歴史の皮肉であったと言うしかない。

SMAPがいない意味

 だが、多くのファンにとっては、「SMAP」はまだ続いている。

 昨年12月に発売されたファンの投票によるベストアルバム『SMAP 25YEARS』は、異例の速さでミリオンセラーとなった。その背景には、ファンを中心に続く地道な活動がある。たとえば、昨年の騒動直後から始まった購買運動によって『世界に一つだけの花』が売上300万枚に到達したのは、すでに伝えられている通りだ。

 その際、インターネットが果たした役割は大きい。『世界に一つだけの花』の購買運動も、SNSなどを通じたファンや賛同者の横のつながりがなければ、これほど長続きすることはなかったに違いない。このインターネットを介したつながりは、所属事務所の対応やテレビなどの報道のされ方に対する疑念や不満など、解散に至る経緯に納得のいかないファンの検証や情報共有も可能にした。そこから芸能界の旧態依然とした側面について批判の目が向けられてもいる。つまり、ここにもテレビとの対比が見て取れる。

 確かにメンバー個々の活動は、2017年に入ってもテレビで見ることができる。草彅剛主演のドラマ『嘘の戦争』(カンテレ/フジテレビ系)、同じく木村拓哉主演のドラマ『A LIFE ~愛しき人~』(TBSテレビ系)がさっそく1月から始まった。稲垣吾郎もドラマ『不機嫌な果実スペシャル~3年目の浮気~』(テレビ朝日系)に出演、中居正広や香取慎吾がレギュラー出演するバラエティも続いている。そこだけ見れば、ほとんどなにも変わっていないようにも映る。

 だがやはり「SMAP」がそこにいないということは、テレビ、そして社会にとって小さくない意味を持つと私は考える。 ・・・続きを読む
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筆者

太田省一

太田省一(おおた・しょういち) 社会学者

1960年、富山県生まれ。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得満期退学。テレビ、アイドル、歌謡曲、お笑いなどメディア、ポピュラー文化の諸分野をテーマにしながら、戦後日本社会とメディアの関係に新たな光を当てるべく執筆活動を行っている。著書に『紅白歌合戦と日本人』、『アイドル進化論――南沙織から初音ミク、AKB48まで』(いずれも筑摩書房)、『社会は笑う・増補版――ボケとツッコミの人間関係』、『中居正広という生き方』(いずれも青弓社)。最新刊は『SMAPと平成ニッポン――不安の時代のエンターテインメント 』(光文社新書)、『ジャニーズの正体――エンターテインメントの戦後史』(双葉社)。

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