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劇団スタジオライフの新作は萩尾望都作品

『エッグ・スタンド』制作発表会見

真名子陽子 ライター、エディター


拡大『エッグ・スタンド』制作発表会見から、(左から)岩﨑大、曽世海司、松本慎也、萩尾望都、山本芳樹、久保優二、笠原浩夫=劇団スタジオライフ提供

 劇団スタジオライフが、3月1日から東京・シアターサンモールで、萩尾望都原作の『エッグ・スタンド』を上演する(3月24日~大阪・ABCホール)。『トーマの心臓』『訪問者』『マージナル』『11人いる!』など、萩尾作品を上演してきたスタジオライフ。『エッグ・スタンド』は、1984年3月号のプチフラワーに発表された漫画で、今回が初の舞台化となり、劇団の新作でもある。第2次世界大戦中におけるドイツ占領下のパリを舞台に、少年ラウル、踊り子ルイーズ、レジスタンスのマルシャンの3人を軸に物語が繰り広げられる。

 その制作発表会見が、原作者の萩尾望都を迎え行われた。メインキャストの笠原浩夫、山本芳樹、曽世海司、岩﨑大、松本慎也、久保優二と脚本・演出の倉田淳が登壇。萩尾と倉田の特別対談が行われ、キャストには新作にかける意気込みを聞いた。

萩尾望都×倉田淳、特別対談

拡大『エッグ・スタンド』制作発表会見、特別対談から、萩尾望都(右)と倉田淳=劇団スタジオライフ提供

倉田:この作品のイメージがすごく好きで、舞台化させていただきたいと思ったのが10年ほど前になります。先生に許可をいただきながら、いざとなると怖気づいてしまい月日が経ってしまいましたが、このたび一歩踏み出そうと思い、舞台化することになりました。先生がバブルの兆しが見え始めた1984年に、この作品を発表されたその経緯を教えてください。

萩尾:父と母が戦争を体験した世代なので、戦争については興味があり、いろいろと本を読んでいました。けれど、日本を舞台にした物はあまりにも生々しく直視できなくて、高校の図書館でヨーロッパを舞台にした本を読んでいたんです。20歳を過ぎた頃に『二十四時間の情事』という映画を見て、その時に、戦争の悲しみは個々人のうえに落ちてくるんだな、一度そういうものを書きたいなと思っていたんです。その後、描こうと思ったときに事故にあい執筆が延びたのもあって、たくさん本を読むことができました。でも、本を読んでも読んでも正直わからない。戦時体験者との距離はこんなにあるんだと……。読んでわかった気にはなるけれど、本当のところはわかりません。むしろ映画や舞台といった生身の人間が演じたものをダイレクトに見る方が、伝わるだろうと思っていました。

倉田:作品を書かれた2年前の1982年に事故にあわれていますが、そのことで先生の死生観が変わったのでしょうか?

萩尾:それまでは非常に暗い人間だったんです。でも、事故にあって、もしひどかったら、あっけなく死んでいたなと。それから開き直れたんです。それまでは、「どうしてわかってくれないの?」と思っていたのが、「まあ、いいか」と思うようになりましたね。

倉田:ナチスやユダヤといった、ある種特殊な状況や物語を創っていくときのパワーはどこからくるのでしょうか?

萩尾:どうなんでしょうね……。向こうから降りてくるときもあるし、それをキャッチして物語に入り込むときもあります。ストーリーを考えているときにそこに入り込んで、脳内旅行している感じです。

倉田:『エッグ・スタンド』についてですが。

萩尾:(食器の)エッグ・スタンドの存在を知った時、なんてすごいアイデアなんだろうと思ったんです。転がらないように支えて食べやすくなっていて。卵って壊れやすいものですよね。地球や世界自体も不安定で、ちゃんとエッグ・スタンドに乗せて守らなければならないんだ、世界はそんなに頑丈じゃないという危機感があったんだと思います。

倉田:許可をいただいてから10数年経ってしまったけれど、そういった意味でも、今だからこそ上演させていただく意味がものすごく出てきたなと思っています。戦後70年の年に『アドルフに告ぐ』を上演し、他にも大戦やナチスに関する芝居をしてきましたが、そこで終わらせてはいけないと思っています。危ういですよね、ちょっとしたことでいつでも傾いてしまいそうなところにいるんだなと。

萩尾:そして傾き始めたら倒れるまで手を付けられないですよね。

倉田:イデオロギーを先行するわけではないですが、心持ちとして、今やらせていただく意味を加味していきたいと思います。すでに稽古が始まっていますが、いざ始めてみたら大変です。シンプルな優しい言葉を登場人物は口にしていますが、その言葉の奥行きの深さに打ちのめされています。

拡大『エッグ・スタンド』制作発表会見、特別対談から、萩尾望都=劇団スタジオライフ提供
萩尾:でもいつも倉田さんは、(作品の中の)ドイツや船旅に連れていってくれる。今回も冬のパリに連れていってくださるだろうと思います。

倉田:役者たちはどうしても感情がわき起こってくるんですね。でも、言葉をきちんとまず相手役に伝える、そうするとお客様に伝わる。感情に寄り過ぎないようにコントロールしながら稽古をしています。

萩尾:劇団の皆さんは感受性が豊かだから。

倉田:手前みそになりますが、先生の言葉ひとつひとつを感じ取ってくれています。そして、先生の絵からもくみ取ってくれています。絵を見て、ラウルやルイーズの瞳から、マルシャンの佇(たたず)まいからいろんなものをもらっています。そういった意味では先生に道をつけてもらっています。絵の中からもちゃんと感じ取ってくれる役者たちと一緒に仕事ができてうれしいですね。こんなことを言うと癪に障るんですけど(笑)。

萩尾:題材は暗い設定ですが、そこは“スタジオライフ倉田マジック”で何かを感じられる舞台にしてくれると思っています。楽しみにしています。

■対談番外編

 最後に倉田から、昨年40年ぶりに描いた『ポーの一族』について聞かれた萩尾。こんな逸話を話してくれた。

萩尾:『flowers』(小学館)に読み切りを1本描こうとなった時に、短編で『ポーの一族』の番外編を描こうと思ったんです。なぜかというと、夢枕獏さんが会うたびに「『ポーの一族』の続きが読みたいな」とおっしゃって、不思議なもので「獏さんが読んでくれるなら描こうかな」と洗脳されていったんです。けれど、描けるかどうか不安があったんですね。でも、還暦を過ぎてしまい、不安だ不安だと言っていたらすぐに70、80になるだろう、そうなると描けなくなるなと思い、「しょうがない、描くなら今だ!」と。最初、32枚って言っていたのが40枚になり、しかも終わらない……そして今も続きを描いていますが、単行本1冊にまとまればいいかなと思っています。

倉田淳、メインキャストから作品への意気込みを

拡大『エッグ・スタンド』制作発表会見から=劇団スタジオライフ提供

◆倉田淳(脚本・演出)
たった100ページほどの短編なんですが、その重さたるやものすごく深いお話で、台本を作成するときも何度も立ち止まりながら書きました。短編なのに自分の中を通過していくのに時間がかかった作品です。そして役者が登場人物を演じていく中で、また新たな発見がたくさんあります。第2次世界大戦中のパリが舞台ですが、物語に普遍性があるなと思います。どうやって生きていかなければいけないか、何をしていかなければいけないのか、それがとても深く描かれていて、普遍であるから今の時代にもものすごく意味深いものになっていると思います。真摯に一言一言を大事にして、取り組ませていただきたいと思っています。

長い芝居が多かったのですが、今回は2時間もない芝居になると思います。その時間は凝縮された時間で、先生の構成には無駄がありませんので、ただ道を歩いていくだけです。春に向かっていく時期に、幕切れにマルシャンが言う「春は来るのだろうか」という意味を、皆さんと一緒に考えていきたいと思っています。

◆松本慎也(ラウル役)
原作を読んでいると、上質な古いフランス映画の中に自分が入り込んだような感覚になります。登場人物の短いセリフのやり取りの間にも、いくつもの繊細な感情のやり取りがあって、その感情の機微を生身の人間として、僕たちが舞台上で表現できるように密な稽古をしています。ラウルは表面的な感情の起伏は少ないのですが、見る人によっていろんな捉え方ができます。演じる側としては難しい役だなと思うのですが、彼が抱える心の闇とルイーズのキスによって彼が初めて流す涙の意味をしっかりと体現できるようにしたいと思っています。

◆山本芳樹(ラウル役)
稽古に入った時にとても懐かしい感じがしました。淡々とシーンが紡がれていくことが、懐かしく新鮮でした。萩尾先生原作の新作公演はすごく久しぶりで、昔はこういう稽古をしていたな、スタジオライフの原点だなと、懐かしく、新鮮に、うれしく、稽古に取り組んでいます。素晴らしい原作の舞台化をさせていただくのは、うれしくもあり、大変で難しいところもあり、わくわくしながら取り組んでいます。お客様も楽しみに期待して待ってくれていると思います。期待以上のものを届けられるように精進していきます。

◆曽世海司(ルイーズ役)
この作品を上演するとなったとき、何ができるだろうと考えました。ひとりひとり、その人の人生を生きる、演劇人としては当たり前のことですが、人物の感情に溺れずに、自分たちがその場を生きることに全うしないと成立しないなと思いました。若い女性の役は久しぶりにさせていただくのですが、舞台の上で成立させるためには、生きるという心持ち、その瞬間瞬間を大事に、ただ生きればいいなと。その結果、皆様の心に届いたらいいなと思います。20年前の3月1日が初舞台でした。今回、その3月1日に初日を迎えられることをご褒美かつ叱咤激励と思って頑張ります。

◆久保優二(ルイーズ役)
『エッグ・スタンド』初演に、ルイーズ役として出させていただけることを、とても幸せに感じています。前回の『トーマの心臓』公演の時に先輩から勧められて読みました。その日から、毎日読んでいた作品です。今回、新作として公演すると知ったときにはびっくりしましたし、ルイーズ役をいただけてとてもうれしかったです。妥協することなく、自分の中にあるものをしぼり出しながら挑みたいと思います。

◆岩﨑大(マルシャン役)
大人の男性でラウルやルイーズを支えて見守り生きていく、そういった役どころはほぼ初めてです。今持っているものだけでは足りないなと思いつつ、でもないものは出せないので、どういう風に料理して進化させて、どう表現できるかなと考えています。原作には書かれていない過去に何があったかを模索していて、どういう感情でどういう人間に育ってきたんだろうと考えながら、少しずつ形になるように挑んでいます。どういうキャラが完成するのか自分でも未知数です。原作を損なわず、でもスタジオライフならではの作品になるよう努力していきます。

◆笠原浩夫(マルシャン役)
やればやるほど、本を読めば読むほど、その重さをひしひしと感じています。背景にある戦争・殺人に対する価値観や倫理観が問われていて、それが根底に流れていることで重さを感じるのかなと思っています。演じるマルシャンとして、現代につながる身近な重さとして、見ている人にどう伝えることができるか、そこが勝負なのかなと思っています。そしてやはり、見ている人を冬のパリに連れていくこと、それに尽きるのではと思っています。

◆公演情報◆
スタジオライフ『エッグ・スタンド』
2017年3月1日(水)~20日(月・祝) 東京・シアターサンモール
2017年3月24日(金)~25日(土) 大阪・ABCホール
『OSAKA SPECIAL EVENT』
2017年3月26日(日)大阪・ABCホール
[スタッフ]
原作:萩尾望都(『エッグ・スタンド』小学館文庫『訪問者』収録)
脚本・演出:倉田淳
[出演]
ラウル:松本慎也/山本芳樹(Wキャスト)
ルイーズ:曽世海司/久保優二(Wキャスト)
マルシャン:岩﨑大/笠原浩夫(Wキャスト)
船戸慎士、奥田努、仲原裕之、宇佐見輝、澤井俊輝、若林健吾、田中俊裕、千葉健玖、江口翔平、牛島祥太、吉成奨人、藤原啓児
※チケットは各プレイガイドにて発売中
公式ホームページ

筆者

真名子陽子

真名子陽子(まなご・ようこ) ライター、エディター

大阪生まれ。ファッションデザインの専門学校を卒業後、デザイナーやファッションショーの制作などを経て、好奇心の赴くままに職歴を重ね、現在の仕事に落ち着く。レシピ本や観光情報誌、学校案内パンフレットなどの編集に携わる一方、再びめぐりあった舞台のおもしろさを広く伝えるべく、文化・エンタメジャンルのスターファイルで、役者インタビューなどを執筆している。

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