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SMAP騒動は「たかが芸能界」の問題ではない

芸能人のリスクに思いが及ばないメディアの想像力

松谷創一郎 ライター、リサーチャー

日本社会の“雑なまなざし”

 先日、『SMAPはなぜ解散したのか』(SB新書)を上梓した。タイトルだけ見るとゴシップ本のように思われるかもしれないが、その内容は、SMAPを切り口に芸能界の問題を日本のポップカルチャーの問題に敷衍(ふえん)し、また、労働問題やソフトパワー政策の問題として法律や他国の状況と比較しながら論じた内容だ。読者には、題材と論調にギャップを感じたひとも少なくないはずだ。

 こうした内容になったことにはさまざまな理由があるが、その強い動機となったのはSMAP解散騒動に対する日本社会の“雑なまなざし”があったからだ。この問題は昨年(2016年)1月の騒動勃発以降、報道が過熱したわりには単なる芸能ゴシップと見なされてきた。筆者は、それに対し当初から強い違和感をおぼえていた。

拡大2016年1月の解散騒動勃発の際は、スポーツ紙は連日一面でとりあげた
 スポーツ新聞は、週刊誌の記事を追い抜くかたちでジャニーズ事務所からのリークを中心に論調を組み立て、テレビ番組の多くはみずから取材することなくそのスポーツ新聞の口を借りて報道を続けた。

 明確に対抗し続けたのは、『週刊文春』や『週刊新潮』などの週刊誌だ。とは言え、それらもゴシップの域を出るものではなく、そこから労働や文化の問題に敷衍することはなかった(なお、このことを年末発売の『週刊文春』2017年1月5・12日号で痛烈に批判したのは、『校閲ガール』などで知られる小説家の宮木あや子だ)。

 一方、一般紙は事実関係を報じるに終始した印象が強い。読売新聞に至っては、ほとんど関心のある素振りを見せなかった。たしかに、ふだんから芸能を扱うことが少ないので、それもわからなくもない。一般紙のスポーツ欄でプロレスが扱われないようなものだろうか。また他社よりも日本テレビとの関係が強いので、触れにくい面もあっただろう。実際、日本テレビ『NEWS ZERO』のキャスターは嵐の櫻井翔だ。

 そんななか健闘していたのは、朝日新聞だった。1年前の2016年1月26日付の「耕論」をはじめオピニオンページでこの問題を取り上げた。そのなかでは、ジャーナリストの津田大介が、かなり直接的にメディア批判をした(2016年1月28日)。毎日新聞も、昨年末にウェブ単独記事として「SMAP『解散』研究」という連載をした。そのなかでコラムニストの中森明夫と評論家の宇野常寛は、あの「公開処刑」に対し厳しい目を向けている。

 しかし、津田や中森、宇野のような論調はネットでは多く見られるものの、マスコミの報道においてはけっして多くはない。あの「公開処刑」に多くのひとが異様なものを感じたにもかかわらず(あるいはそれゆえに)、多くの論者ははっきりとその異様さに触れようとしない。触れたとしても、奥歯にものが挟まったような言及に留まる。

 SMAP解散をめぐる言説状況は、マスコミとネットで強いコントラストを表してきた。

騒動に対する厳しい視線は?

 つい先日、朝日新聞はジャニーズ事務所のジャニー喜多川社長へのインタビューを2本掲載した。それが以下である。

「『華やかな世界ない』 ジャニー氏、セリフに込めた思い」

「『顔で選ぶんですかと、よく聞かれるけど…』ジャニー氏」

 この2本は、朝日新聞夕刊2017年1月23日付、朝日新聞朝刊2017年1月24日付の朝日本紙にもそれぞれ掲載されている。

 しかし、その内容にはなんとも拍子抜けした。そこではジャニー社長の生い立ちや今後のことが雑多に語られただけで、SMAPについては「その選択が本人の意思であり、プラスになるなら、絶対に応援しなきゃいけない」と、先日のスポーツ紙の囲み取材の内容を繰り返すに留まった。

 簡単に御しられたな――それが私の正直な感想だ。

 この記事を担当した朝日新聞社の文化くらし報道部に在籍する林るみ、山根由起子両記者は、けっして芸能について疎いわけではない。とくにベテランの林記者は、この『WEBRONZA』でもいくつか記事を寄せているが、そのなかには「【韓国社会と韓流パワー (1)】 JYJファンの投票と大手放送局のスト」という記事もある。読めばわかるが、そこでは旧事務所の圧力で地上波のテレビ番組から締め出されているJYJと、当時のイ・ミョンバク政権、そして放送局との関係について書いてある。当時、非常に読み応えのある記事だと感じたことがある。そう、林るみ記者は、日本のテレビ局と芸能プロダクションの間で生じている歪(いびつ)な関係について、間違いなくわかっている。

 それゆえ、ジャニー社長に対して「あの謝罪会見についてどう思いますか?」とか、「年末の『スマスマ』放送時に、メンバーと幹部のみなさんがフジテレビ局内に入ったという話が出ていますが、本当ですか?」、「仮にメンバーがジャニーズ事務所から独立したとして、その後(のんさんのように)テレビ出演が阻害されるようなことが起これば放送法改正に動くという提案をされている国会議員もおり、独禁法に抵触するという話も出ていますが、この点についてどう思いますか?」、「(SMAPのチーフマネジャーを恫喝した)メリー副社長の『週刊文春』への対応は、あれで良かったと思いますか?」等々、聞くべきことはたくさんあった。

 が、結果として載ったのは、あたりさわりのない発言だった。

 このとき指摘しておかなければならないのは、彼女たちはそれぞれ、これまでジャニーズ事務所についての記事を多く書いていることだ。週刊誌『AERA』も含め、過去3年半の間に計20本のジャニーズ関連記事を執筆している。2年前にジャニー社長へのインタビューもしており(朝日新聞朝刊2015年1月21日付)、今回が初めてではない。ジャニーズ事務所が手がけるミュージカルについての記事も少なくない。今回の記事も1月24日まで上演されていた『ジャニーズ・オールスターズ・アイランド』をきっかけとしたものである。

 筆者はこれらの記事をいわゆる「パブリシティ」と認識する。「パブリシティ」とは、金銭の授受がないために広告ではないものの、宣伝的要素のある記事のことを指す。あくまでも文責は取材側にあるが、演劇や映画などの公開タイミングで出演者やスタッフに取材するものだ。

 今回の2本の記事は、公演最終日のタイミングとほとんど重なっているので、実質的に宣伝効果は乏しい。しかし、2月1日からは帝国劇場でジャニー喜多川作・構成・演出(東宝製作)の新たなミュージカルの公演が控えていた。ロングランを続けている堂本光一主演の『エンドレス・ショック』だ。山根由起子記者は、過去にも3回この公演についての記事を書いている。

 なお、上記の私の認識に対して『WEBRONZA』編集部からはツッコミが入った。具体的にそれを列挙すると、「公演最終日直前の記事はパブとはふつう言わない」「『エンドレス・ショック』のチケットは即完売なので、もともとパブをやる必要がないらしい」「記事に公演情報がいっさい出ていない」とのことだ。

 しかし、「パブリシティ」記事でないとすると、もっとたちが悪い。SMAP解散から1カ月もたたないこのタイミングで朝日新聞がジャニーズ事務所の社長に取材し、SMAPの解散騒動にほとんど言及していないのだから。前述したように彼女たちは、芸能界の問題点について十分に理解しているはずだ。なのになぜ、このタイミングでジャニー社長にツッコミを入れないのか逆にわからない。これが「忖度」という名の自己催眠か。

 一方ジャニーズ事務所にとっては、いちばんの手厳しい相手であった朝日新聞に対し、社長をインタビューに出すことで軽く処理できたことになっただろう。これで当面ジャニーズ事務所は、SMAP解散騒動について朝日新聞の取材を受けなくてすむ。

 「先日、社長のジャニーが話したとおりです」――そう、繰り返せばいいからだ。なぜなら両記者のインタビューにおいて、社長は所属する人気グループの解散について「その選択が本人の意思であり、プラスになるなら、絶対に応援しなきゃいけない」と回答しているからだ。最もいま語ってほしいテーマについて、あっさりと片付けられてしまったのだ。

 ここには、昨年の騒動に対して厳しい目を向けた朝日新聞の姿はない。

 振り返れば、1997年にも朝日は『AERA』(3月24日号)で社長への独占インタビューをしている。そのとき記事を書いた渡辺節子記者は、「ジャニーズ事務所がキャスティングや番組作りに圧力をかけるという噂もあります」と厳しい質問もしている。だが、今回の記事には、こうした姿勢がまるで見られない。ジャーナリズムとしては、絶望的にヌルい。

 朝日新聞は、こうしてジャニーズ事務所に簡単に御しられたのである。 ・・・続きを読む
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筆者

松谷創一郎

松谷創一郎(まつたに・そういちろう) ライター、リサーチャー

ライター、リサーチャー。1974年生まれ。商業誌から社会学論文、企業PR誌まで幅広く執筆し、国内外各種企業のマーケティングリサーチも手がける。得意分野は、映画やマンガ、ファッションなどカルチャー全般、流行や社会現象分析、社会調査、映画やマンガ、テレビなどコンテンツビジネス業界について。著書に『SMAPはなぜ解散したのか』(SB新書)、『ギャルと不思議ちゃん論――女の子たちの三十年戦争』(原書房)。共著 に『どこか〈問題化〉される若者たち』(羽淵一代編、恒星社厚生閣)、『文化社会学の視座――のめりこむメディア文化とそこにある日常の文化』(南田勝也、辻泉編、ミネルヴァ書房)等。

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