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萩尾望都×倉田淳×笠原浩夫インタビュー(下)

スタジオライフが萩尾原作の傑作漫画『エッグ・スタンド』を初舞台化

大原薫 演劇ライター


萩尾望都×倉田淳×笠原浩夫インタビュー(上)

あと10年か20年は、オスカーをやれるんじゃないですか

拡大左から、笠原浩夫、萩尾望都、倉田淳=宮川舞子撮影

――『トーマの心臓』の初演以来20年で初演キャストの笠原さんが出演したということと、萩尾先生が40年ぶりに『ポーの一族』をお描きになったことがリンクしているように感じます。

萩尾:そうですね。まあ、単に偶然なんですが(笑)。

倉田:本当にびっくりしました。

――『ポーの一族』を40年ぶりにお描きになったのは?

萩尾:自分でも描くとは思っていなかったんです。夢枕獏さんに会う度に「『ポーの一族』の続編が読みたいなあ」とずっと言われていて、「またまた。もう同じ顔を描けませんから」と言っていたんです。でも獏さんがそんなに読みたいとおっしゃるんだったら、顔が変わっていても許してくれるかなとちょっと思えたんですね(笑)。それに私も還暦を越しましたから、皆さんに大目に見てもらおうと思って(笑)思い切って描きました。

――私を含めて『ポーの一族』の愛読者は皆、本当に感激して、喜んで拝読しています。

萩尾:はい、読者の皆さんに(喜んで)読んでいただいて、本当にびっくりしています。感謝しています。ありがとうございます。

――40年ぶりにバンパネラ(吸血鬼)のエドガーに会って、エドガーの変わらぬ姿を見ると、私自身が「わたしのことなど忘れただろうね」とエドガーに問いかけて「おぼえてるよ 魔法使い」と言われたような気持ちになります。

萩尾:ああ、それは『ポーの一族』の中の(『エディス』の登場人物オービンが、42年ぶりに会ったエドガーに言われた)台詞ですね(笑)。

――でも、笠原さんのように20年前と変わらぬ舞台姿が見せられるなら、永遠に生き続けるバンパネラもあながち空想の話でもないかもしれないと思えます。

萩尾:笠原さんはあと10年か20年は、オスカーをやれるんじゃないですか。

笠原:20年ですか、ものすごい世界になりますけど(笑)。まあ、気持ちは前向きでいきたいです。

役者が台詞を口にすることで新たな発見が生まれる

拡大『エッグ・スタンド』に出演する笠原浩夫=宮川舞子撮影
――さて、スタジオライフが新作として萩尾先生の作品を取り上げる『エッグ・スタンド』。現在稽古中とのことですね。

倉田:スタジオライフは上演時間が3時間近い作品が多いのですが、今回は1時間半から2時間弱と、劇団始まって以来のコンパクトさかもしれません。でも、行間を埋めていく作業が大変で、同じシーンを何度も何度も稽古しているので、あっという間に(稽古)時間がたってしまっています。本当に細かく稽古をしていますし、役者が(台詞を)口にすることによって新たな発見がいろいろ生まれる。面白いです。

萩尾:ありがとうございます。

倉田:毎朝起きると、寝起きでぼーっとしていても「今日は稽古だ」と思うと楽しみで目が覚めるんです。毎日ワクワクしています。

――『エッグ・スタンド』を読むと、戦争を舞台として描きながらも、ラウル、ルイーズ、マルシャンなど登場するキャラクターがとてもイキイキとしていることが印象的です。実際にそういう人たちに会ったかのような気分になります。

萩尾:私たちは実際に戦争を体験した世代ではありませんよね。ですから、戦争中のことを描くときに、体験した人が読んでも「これは多分嘘じゃないよな」と思ってくださるくらいのところまでいかないとリアリティーが出ないなと思っているんです。日本で体験した人でも、広島で体験したり東京で体験したりといろんな立場の人がいますけれど、「こんなことはなかったよ」と思われないようにリアル感を突き詰めていくというのが、戦争時代を描くときに考えますね。

――作品中には、ラウルが「孵化しなかった卵がまちがってゆでられて食卓に出される」という話をするシーンがあります。ゆでられた黒いヒヨコの絵が鮮烈ですが、このシーンはどうして発想されたのでしょうか。

萩尾:上京したてのころに食器のエッグ・スタンドを見つけて、「すごい発明だなあ」と最初は面白かったんですね。わざわざ卵を立てるためにスタンドを立てるという手間がすごいなと思って。ゆで卵を皿において殻をむけばいいじゃないと思うんですけど、違うんですね。卵を立てて、スプーンで殻を割って手が汚れないようにして食べる。この手間は何でしょう、と文化の差にも驚いて。そのうちだんだんエッグ・スタンドから発想していって、卵が世界、エッグ・スタンドは世界を支える石でありスピリッツみたいに思えてきた。作品のタイトルを『エッグ・スタンド』にしたいと思って予告を描き出したときに、死んでしまった卵が少年で、スタンドの上に載っているけどもう壊れてしまっているとか、壊れやすい世界をエッグ・スタンドに載せて支えているとか、いろいろ複合的なイメージが湧いてきた。それで、こういう話になりました。

◆公演情報◆
スタジオライフ『エッグ・スタンド』
2017年3月1日(水)~20日(月・祝) 東京・シアターサンモール
2017年3月24日(金)~25日(土) 大阪・ABCホール
『OSAKA SPECIAL EVENT』
2017年3月26日(日)大阪・ABCホール
[スタッフ]
原作:萩尾望都(『エッグ・スタンド』小学館文庫『訪問者』収録)
脚本・演出:倉田淳
[出演]
ラウル:松本慎也/山本芳樹(Wキャスト)
ルイーズ:曽世海司/久保優二(Wキャスト)
マルシャン:岩﨑大/笠原浩夫(Wキャスト)
船戸慎士、奥田努、仲原裕之、宇佐見輝、澤井俊輝、若林健吾、田中俊裕、千葉健玖、江口翔平、牛島祥太、吉成奨人、藤原啓児
※チケットは各プレイガイドにて発売中
公式ホームページ
 〈萩尾望都プロフィル〉
福岡県生まれ。代表作は『トーマの心臓』『11人いる』『ポーの一族』『残酷な神が支配する』『イグアナの娘』『なのはな』『王妃マルゴ』など。作品のジャンルはSF・ファンタジー、ミステリー、ラブコメディ、バレエもの、心理サスペンスものなど幅広い分野にわたり、「少女漫画の神様」とも評されている。小学館漫画賞、星雲賞コミック部門、手塚治虫文化賞優秀賞を受賞するなど、数々の受賞歴があるほか、2012年には少女漫画家では初となる紫綬褒章を受章、2017年には朝日賞を受賞している。
 〈倉田淳プロフィル〉
1975年、演劇集団「円」研究所に第一期として入所。芥川比呂志に師事し、81年まで演出助手を務めた。85年に故・河内喜一朗とともに劇団スタジオライフを結成し、ほとんどの作品の脚本と演出を手掛ける。
 〈笠原浩夫プロフィル〉
宮城県出身。劇団の作品を中心に客演やドラマ、Vシネマ、映画など幅広く活躍中。スタジオライフでの主な出演作品は、『PHANTOM~THE UNTOLD STORY』『GREAT EXPECTATIONS~大いなる遺産~』『トーマの心臓』『訪問者』『ヴェニスに死す』『ヴァンパイアレジェンド』『死の泉』『桜の園』『DRACULA』などがある。

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筆者

大原薫

大原薫(おおはら・かおる) 演劇ライター

演劇ライターとして雑誌やWEB、公演パンフレットなどで執筆する。心を震わせる作品との出会いを多くの方と共有できることが、何よりの喜び。ブロードウェー・ミュージカルに惹かれて毎年ニューヨークを訪れ、現地の熱気を日本に伝えている。

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