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朝海ひかる×吉田栄作、こまつ座を語る(上)

終戦直後のラジオ放送の世界を描いた『私はだれでしょう』、10年ぶりに上演

中本千晶 演劇ジャーナリスト


拡大『私はだれでしょう』に出演する朝海ひかる(右)と吉田栄作=岩村美佳撮影

 こまつ座『私はだれでしょう』(井上ひさし作)が初めての再演として10年ぶりに上演される。物語の舞台は終戦直後の混乱の中にある日本放送協会の一室、当時は誰もが耳を傾けていたラジオ番組の制作に関わる人々の姿が描かれる。演出は初演に続いて栗山民也が手がける。

 元アナウンサーという華やかな経歴を持ちながら、今は「尋ね人」の番組制作に打ち込む川北京子(朝海ひかる)。CIE(民間情報教育局)のラジオ担当官として彼女たちを監督する立場にある日系二世の軍人、フランク馬場(吉田栄作)。そこに突然「ラジオで『私がだれなのか』を探して欲しい」という謎の男が現れ、思わぬ騒動に……。

 本格的なお稽古の初日、『ローマの休日』(2010年)に続く2度目の共演となる二人に話を聞いた。井上作品に真摯に向き合おうとする様子が伝わって来るいっぽうで、『ローマの休日』初演時のことに話が及ぶと、和気あいあいと思い出話に花が咲いた。夏には『ローマの休日』の再演も予定されており、共演が続く二人。息の合ったコンビぶりからも、作品への期待が高まるインタビューとなった。

川北京子さんって、すごくヒロイックな女性

拡大『私はだれでしょう』に出演する朝海ひかる=岩村美佳撮影
――では最初に、お二人が台本を読んで感じたこの作品への印象についてお伺いできますか?

朝海:会話のやり取りが軽快で楽しくて、歌が間に入って、いつもの井上先生の魅力が溢れている戯曲だなと思いましたね。でも、やはり最後にはいろいろ考えさせられる余白もある、楽しいけれど重い作品だなと感じました。

吉田:この国にはこういう歴史があったのだなと思いました。NHKで仕事をさせていただくことも多いので(笑)「これはNHKの歴史でもあるのかな」とかね。

――お二人が演じられるのは、それぞれいろいろなものを抱えている役ですけど、どんな人なのでしょう?

朝海:私の役は川北京子と言いまして、元NHKアナウンサーで、今は「尋ね人」という番組の制作をしているひとりですね。

――その「尋ね人」という番組の制作に一生懸命になっているところに実はいろいろな思いがあるわけですが、どんな性格の人だと捉えていますか?

朝海:とにかく芯の強い女性だというイメージが一番にあります。あとはとても頭が良い女性で、話が横道にそれても必ず軌道修正して進める(笑)。責任感が強い女性というふうに捉えています。

――かっこいい女性ですよね。

朝海:そうですね……でも、そこまでの強さを持ち続けられる裏が彼女にはあるので、それもちゃんと表現できたらいいなと思います。

吉田:「責任感」っていう言葉が今出ましたが、彼女の責任の持ち方は自分の人生に対してだけではなくて、戦後のこの国に対しての責任感さえ背負っていて、決して妥協したくないという、すごくヒロイックな女性だと思うんですよね。劇中の歌も掘り下げていくと、川北京子の喜怒哀楽が歌になっていて、それをみんなで共有して歌っているのかなという。

――吉田さんが演じるフランク馬場さんについてはいかがですか?

吉田:当時のフランクさんは、GHQでNHKを監視する立場の人です。でも、彼は日系人で、フランクの中にも別の一面があるんです。

――物語の後半で京子さんの「こうしたい!」という思いを受け止めていくのがフランクさんですよね。

吉田:そうですね。7場構成の中で一番変わっていく人でもありますね。

栄作さん、きっと軍服も似合うだろうなぁと

拡大『私はだれでしょう』に出演する吉田栄作=岩村美佳撮影

――お二人は『ローマの休日』以来、7年ぶりの共演ですが、共演と聞かれた時どうでした?

朝海:フランク馬場さんって英語が堪能で、神奈川県に住んでいて、本当に栄作さんそのままなので、「きっと軍服も似合うだろうなぁ」と(笑)。台本を読んでいても栄作さんがフランク馬場として立っている姿が想像できて、早く見たいなと思いました。

吉田:確かにフランク馬場という人は決して遠い存在には思えなかったですね。「神奈川県」や「カリフォルニア」「NHK」など、僕にとって身近なキーワードがセリフの中にもたくさん出てくるので、この人をどういうふうに演じていくかは僕自身も楽しみです。でも朝海さんがどんな川北京子を演じられるのかも、すごく楽しみなんです。井上ひさしさんが「当時のNHKの人たちは凛としていた」と書かれているのですが、川北京子さんはまさにそういう人で、その「凛」っていうのは宝塚トップスターの真骨頂でもあると思うんですよね。

――京子さんとフランクさん、二人は『ローマの休日』の時のように異性として惹かれあっているわけでもないけれど、でも二人だけの絆もあるようですが、二人の関係についてどんなふうに捉えてらっしゃいますか?

吉田:一点だけ『ローマの休日』の時と似ているのは、「ままならない」ということ。

朝海:そうですね(笑)。

吉田:流れに逆行したいんだけど、逆に流されてしまうという「ままならなさ」はちょっとだけ似ているなと思いましたね。僕はこっちに行かなきゃっていう終わり方なども、ね。

◆公演情報◆
こまつ座第116回公演
『私はだれでしょう』
2017年3月5日(日)~26日(日) 東京・紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA
2017年3月30日(木) 山形・川西町フレンドリープラザ
2017年4月8日(土) 千葉・市川市文化会館 大ホール
[スタッフ]
作:井上ひさし
演出:栗山民也
[出演]朝海ひかる、枝元萌、大鷹明良、尾上寛之、平埜生成、八幡みゆき、吉田栄作、朴勝哲(ピアノ奏者)
公式ホームページ
〈朝海ひかるプロフィル〉
元宝塚歌劇団、雪組トップスター。1991年から2006年まで在団。花組、宙組、雪組で活躍。2002年トップスターに就任。2006年『堕天使の涙/タランテラ』で退団。退団後は、ミュージカル、ストレートプレイ、映像などで活躍中。主な出演作品に舞台『蜘蛛女のキス』『エリザベート』『ローマの休日』『おもひでぽろぽろ』『しみじみ日本・乃木大将』『アドルフに告ぐ』『國語元年』『幽霊』などがある。
朝海ひかるオフィシャルファンクラブ
〈吉田栄作プロフィル〉
1988年映画『ガラスの中の少女』でデビュー。以降、話題のテレビドラマに立て続けに主演。音楽活動においてもシングル17枚、アルバム8枚をリリースしている。主な舞台作品に、『トロイラスとクレシダ』『ファントム』、『三文オペラ』『オットーと呼ばれる日本人』『ローマの休日』などがある。
吉田栄作オフィシャルブログ

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筆者

中本千晶

中本千晶(なかもと・ちあき) 演劇ジャーナリスト

山口県出身。東京大学法学部卒業後、株式会社リクルート勤務を経て独立。ミュージカル・2.5次元から古典芸能まで広く目を向け、舞台芸術の「今」をウォッチ。とくに宝塚歌劇に深い関心を寄せ、独自の視点で分析し続けている。主著に『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』『タカラヅカ流世界史』『宝塚歌劇は「愛」をどう描いてきたか』『宝塚歌劇に誘(いざな)う7つの扉』(東京堂出版)など。早稲田大学非常勤講師、NHK文化センター講師。

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