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ウィメンズ・マーチが拓いた新しい空間と連帯の波

それはワシントンだけでも、マドンナだけでも、そして「反トランプ」だけでもなかった

木村涼子 大阪大学大学院人間科学研究科教授

トランプ大統領に対する抗議デモ行進で埋め尽くされたホワイトハウス近辺の路上=21日、ランハム裕子撮影拡大ウィメンズ・マーチに参加した人々で埋め尽くされたホワイトハウスの路上=2017年1月21日 撮影・ランハム裕子

 トランプ大統領の誕生は世界中を揺るがせた。2017年1月20日の大統領就任日には、それを言祝ぐ声と抗議の声が拮抗した。翌日の21日には大規模なウィメンズ・マーチがワシントンを中心に開催された。この事実は日本でも報道されたが、その後のトランプ大統領の言動が連日注目される中で、ウィメンズ・マーチは日本の中ではすでに「終わってしまった」一過性の出来事と化している。

2017年2月16日に、アメリカは「移民のいない日」拡大「移民のいない日」に、「移民のいない生活には、限界がある」と書いた紙を貼って休業したカフェ=2017年2月16日、ロサンゼルス
 そしてつい先日の2月16日、アメリカは「移民のいない日」(A Day Without Immigrants)になった。

 トランプ大統領の政策に抗議するために、移民を中心に、そして移民のみならずその趣旨に賛同する人たちによって、全米でストライキや休業が展開された。20日にはNBCでデモの参加者100人以上が解雇されたことが報じられ、波紋が広がっている。

 実は続いてアメリカでは、「女性のいない日」(A Day Without A Woman)が近づいている。1904年3月8日にニューヨークで女性労働者が参政権を要求してデモをしたことを記念し、3月8日は国際女性デー(International Women's Day)と呼ばれる。この1世紀ほどの間、この日には毎年各国でさまざまな催しがおこなわれてきた。来たるこの日に、アメリカにおいて「女性のいない日」の運動が計画されている。

 ウィメンズ・マーチが起こした波はまだ全米で、さらには世界中にひろがり続けているのだ。

ウィメンズ・マーチを私たちは本当に知っているのか

 クリントン氏と大接戦の末に大統領に選出されたトランプ氏は、候補者の時代から、さまざまな舌禍をおこしてきた。彼が、女性に対する差別や蔑視、移民に対する偏見と排外主義を抱いていることは明確だった。

 私は、今年1月中旬、大統領就任日の翌日に、彼の政策や思想に抗議するとともに、大統領としての国政運営を少しでも良い方向に変えるために、女性を中心としたマーチが計画されていることを知った。どんなマーチになるのだろう、どのくらいの規模になるのかと気になりつつ、また日本でも連帯してマーチがおこなわれることを知りつつも、体調不良のために家に閉じこもり、インターネットやテレビで状況を見守った。

 日本のマスメディアは報道が遅れるだろうから、CNNやABC、BBCをテレビでチラチラと見つつ、ツイッターやフェイスブックなどのSNS、YouTubeの動画などで、実にリアルにマーチの様子を追体験することができた。インターネット上ではライブで続々と世界各地から状況を伝える言葉や感想、その場の映像や動画が配信され、グローバルに共有されていた。

 全世界で同時に連帯してマーチや集会がおこなわれている様子を見ることができ、情報のグローバル化のありがたさを実感した。

 ウィメンズ・マーチ主催者のHPでは、アメリカ国内だけで408カ所、アメリカ以外では81カ国、グローバルには合計673カ所で開催、495万6422人が参加と集計されている。ワシントンポストは世界中の開催場所を示した世界地図を報じている。それだけの規模で世界中のひとびとが参加したことは、日本ではあまり知られていない。

 そして日本でも東京と大阪でワシントンの現地時間にあわせて夜のマーチが開催された。しかし、そのことを報じたメディアは少ない。

セレブの運動だったのか

 ABCニュースが配信した、ワシントンの集会の壇上でのスピーチやパフォーマンスの6時間近くのフル動画を見ながら、フェミニズムが1970年代から80年代にかけて批判されてきた「白人女性しかも中流の運動」という批判を超えて(いまだにそこが核であることはかわりないかもしれないが)、ブラック・フェミニズムやLGBT(Lesbian, Gay, Bisexual, Transgenderの頭文字。LGBTQなど他のバリエーションもある。日本ではセクシュアル・マイノリティと総称することも多い)などの多様なマイノリティ運動との間で議論を繰り返しながら、ひと昔前では考えられなかったほど、連帯の可能性を大きく進展させていることを実感した。

 ワシントンにかぎっても、登壇したスピーカーやパフォーマーは、白人女性の女優やきちんとスーツを着こなした白人女性、またマイケル・ムーアのような著名な白人男性だけではなかった。多くの黒人女性、そして少数ながら黒人男性も、また、移民、ネイティブアメリカン、LGBTなど、さまざまな立場の人たちが壇上に登場し連帯を強調した。スピーチの中では日系アメリカ人との連帯を訴える言葉もあった(We are Japanese American!)。

 しかし、ネット上などで直後に目にしたのは、「しょせんセレブの運動だ」「それなら大金を寄付しろよ」といった批判だった。ワシントンで登壇しスピーチしたマドンナやスカーレット・ヨハンソン、参加者として会場にいたエマ・トンプソンの姿ばかりがクローズアップされていたことへの、自然な反応でもあろう。

 確かに有名な女優や歌手の登場は目立つ。だが、スカーレット・ヨハンソンは、自分はパーソナルなことを語りたくないが、ここではあえて語るべきだと考えたと前置きをして、 ・・・続きを読む
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筆者

木村涼子

木村涼子(きむら・りょうこ) 大阪大学大学院人間科学研究科教授

1961年生まれ。1990年、大阪大学大学院人間科学研究科博士課程単位取得退学。大阪大学大学院人間科学研究科教授。博士(人間科学)。専門は、近代日本におけるジェンダー秩序、ジェンダーと教育研究など。『<主婦>の誕生――婦人雑誌と女性たちの近代』(吉川弘文館)、『学校文化とジェンダー』(勁草書房)など著書多数。