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ベルリン映画祭で、カウリスマキが会見ボイコット

「銀」じゃダメ!? 引退の花道を飾れなかった鬼才

林瑞絵 フリーライター、映画ジャーナリスト

『The Other Side of Hope 』(アキ・カウリスマキ監督) © Sputnik Oy拡大『The Other Side of Hope 』(アキ・カウリスマキ監督) (c) Sputnik Oy

上機嫌で果報を待つだけだったが…

 「真冬の映画の祭典」といえば、世界三大映画祭のひとつ、ベルリン映画祭。第67回目を迎えた今年は2月9日~19日まで開催。コンペティション部門に選出された18本が、最高賞である金熊賞を競い合った。

 今回、誰もが金熊賞を手中に収めると信じたのが、フィンランドの鬼才アキ・カウリスマキ監督。彼の映画『The Other Side of Hope』は、上映されるやいなや、瞬く間にプレス関係者の間で本命作品に躍り出た。

 本作はシリアのアレッポから命からがら逃れ、フィンランドで難民申請をする青年と、仕事と悪妻に別れを告げ、新たにレストランを開業する初老男性との人生が交錯する様を描く。

カウリスマキ=撮影・筆者拡大アキ・カウリスマキ=撮影・筆者
 映画祭中盤に行われた公式上映後の会見で、カウリスマキはかなり上機嫌な様子を見せていた。

 電子タバコをくゆらせながら、難民問題といった重めな質問にもざっくばらんに答えていった。ドイツのメルケル首相の名を出し、「少なくとも難民の運命に興味を持っている政治家」とし、映画祭開催国の長に敬意を示した。

 会見中は彼の盟友で、主要キャストのサカリ・クオスマネンが、フィンランド・タンゴを歌うという嬉しいオマケも付いた。歌い終わったクオスマネンをねぎらい、背中をポンと叩いた時のカウリスマキの笑顔も忘れがたい。

 彼は憮然とした表情でおなじみなので、その笑顔の似合わなさも含め可愛かった。だから最初の会見は、一言で言えばサービス満点の贅沢さ。みんな満足、カウリスマキも満足、あとは金熊賞の果報を待つだけとなったのである。

まさかのシナリオ

 ところが現実はシナリオ通りにいかない。

 金熊賞は女性監督イルディゴ・エンエディのハンガリー映画『On Body and Soul』に授与されたのだ。たしかに下馬評でも本作は高めではあった。しかしカウリスマキ作品を差し置いて、金熊賞にまで推す人はほぼいなかったと思う。

 新たな巨匠の誕生を見届けるのは嬉しいことである。だがその一方、みなが金熊賞を信じて疑わなかった作品が受賞を逃すのはやはりやりきれない。映画祭も祭りは祭り。みんなが「カウリスマキ・フィーバー」で盛り上がるべく、胴上げ準備でスタンバイしていたのに、とつぜん「解散」を命じられた応援隊の気分に近い。

 だから多くの人が落胆したと思う。だがその落胆が一番大きかったのは、カウリスマキ本人だったのではと想像する。直前まで、本作はまさに金熊の最有力候補。周囲は「もう絶対カウリスマキが獲る」くらいの雰囲気が漂っていた。ところが蓋を明けたら銀熊の監督賞。勝手に胴上げされたのに落とされたようなもので、本人にとってはキツイと思う。

「最後の映画」

 実はこの映画祭期間中、カウリスマキは ・・・続きを読む
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筆者

林瑞絵

林瑞絵(はやし・みずえ) フリーライター、映画ジャーナリスト

フリーライター、映画ジャーナリスト。1972年、札幌市生まれ。大学卒業後、映画宣伝業を経て渡仏。現在はパリに在住し、映画、子育て、旅行、フランスの文化・社会一般について執筆する。著書に『フランス映画どこへ行く――ヌーヴェル・ヴァーグから遠く離れて』(花伝社/「キネマ旬報映画本大賞2011」で第7位)、『パリの子育て・親育て』(花伝社)がある。

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