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必見! 万田邦敏『SYNCHRONIZER』

禁断の脳波実験を描く

藤崎康

「SYNCHRONIZER」拡大『SYNCHRONIZER』

 人間と動物の脳波を同期(synchronize)させる研究を孤独に続ける科学者が、人間同士の脳をシンクロさせる恐るべき実験に手を染めていく。万田邦敏監督の傑作『SYNCHRONIZER』(シンクロナイザー)は、そんな禁断の脳波実験をモチーフにしたSFスリラーだが、冒頭まもなく、深夜の実験室で、脳波測定器を眼帯のように顔に装着した無表情な主人公がひとりコンピューターに向かい、そのモニター上にネズミの脳波が波形を描き、バーナード・ハーマン作曲のヒッチコック監督『サイコ』の息せき切ったようなメロディーに似たBGMが流れる――というオープニングからして、見る者を戦慄させる。

 そしてその戦慄は、予測不能な物語展開と、全篇を律する強い画力ゆえに、ラストまで途切れない(以下ネタバレあり)。

――人間と動物の脳波を同期させるという無認可の研究をひそかに続ける、科学者の高志(万田祐介)。研究所では孤立している高志に一途な想いを寄せ、彼を見守る同僚の萌(宮本なつ)は、彼に協力を申し出る。やがて愛し合うようになる二人は、共同研究の結果、ネズミの認知機能が霊長類にも匹敵するほど発達していることを知り、驚く。さらに二人は、この研究が人間の脳機能障害の改善に役立つことに気づく。

 いっぽう高志の真の目的は、人間と動物だけでなく、人間同士の脳をつなげることで、母・春子(美谷和枝)の認知症を治療することだった。萌にとっても観客にとっても予想外のこの真相の設定は、サスペンス効果満点だ(本作の脚本は、万田邦敏+小出豊+竹内里紗の共作によるが、パンフレットで万田監督が述べている脚本作成のプロセスも興味深い<6~8頁>)。

 そして、さらなる不意打ちの波状攻撃が続く。……高志が母・春子と脳波の同期を繰り返すうち、母の認知症はみるみる回復していく。しかもその実験は、母の脳だけでなく、母の肉体にも大きな変化をもたらす(このプロットポイントのドライブ感が抜群)。高志は母との共鳴に没入し、母への愛に溺れていく。

 不安にかられた萌は、高志と脳の同期を試みるも失敗。おまけに高志からは、「君は母さんとは違う」と冷たく言い放たれ、呆然となり、彼のもとを去る。

 その後も実験にのめり込む高志は、なんと40代まで若返った母(中原翔子)の妖艶さに魅了され、ついに禁を犯すが、ラストでは、別人のように20代まで若返った母(大塚怜於奈)の神々しい裸身を前にして、正気を失った彼は恭しくひざまずくのだった(まったくもって、脳波実験によって急速に「若返っていく母」に高志が支配されていく、という物語の予想外の展開/エスカレーションは凄い)――。

制御不能な科学技術というモチーフ

 このように『シンクロナイザー』は、先端科学技術を用いた機械装置による脳波の同期という、SF(空想科学)的コンセプトにのっとってはいる。眼帯のような脳波測定器や、かつてオウム真理教も使用していたヘッドギアなどのマシーンも強烈な印象を残す。しかし、次第に鮮明になるのは、 ・・・続きを読む
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筆者

藤崎康

藤崎康(ふじさき・こう) 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

東京都生まれ。映画評論家、文芸評論家。1983年、慶応義塾大学フランス文学科大学院博士課程修了。著書に『戦争の映画史――恐怖と快楽のフィルム学』(朝日選書)など。現在『クロード・シャブロル論』(仮題)を準備中。熱狂的なスロージョガ―、かつ草テニスプレーヤー。わが人生のべスト3(順不同)は邦画が、山中貞雄『丹下左膳余話 百万両の壺』、江崎実生『逢いたくて逢いたくて』、黒沢清『叫』、洋画がジョン・フォード『長い灰色の線』、クロード・シャブロル『野獣死すべし』、シルベスター・スタローン『ランボー 最後の戦場』(いずれも順不同)

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