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ミュージカル『グレート・ギャツビー』

主演・井上芳雄「経験してきたことがにじみ出ると信じて演じたい」

真名子陽子 ライター、エディター


拡大ミュージカル『グレート・ギャツビー』に出演する井上芳雄=安田新之助撮影

突然現れた一人の美しき大富豪。
全てを手に入れた男が、
ただひとつ手に出来なかったのは愛――。

 ミュージカル『グレート・ギャツビー』が、5月から7月にかけて再演される(東京・愛知・大阪・福岡)。20世紀の文学史において最高傑作のひとつとされ、これまで何度も映画化されてきた名作『グレート・ギャツビー』は、1991年に宝塚歌劇で小池修一郎演出によって世界で初めてミュージカル化(題名は『華麗なるギャツビー』)。2008年に『グレート・ギャツビー』と改題し上演された。今回、主人公ジェイ・ギャツビー役に井上芳雄を迎え、脚本・演出も新たに再び名作に挑む。音楽は、『BANDSTAND』でブロードウェーデビューを果たすリチャード・オべラッカーにより、全曲書き下ろしされる。高校生の頃に『華麗なるギャツビー』を見たという井上が、大阪で開かれた取材会で作品への思いを語ってくれた。

一途に思い続ける人は女性受けがいいと……

拡大ミュージカル『グレート・ギャツビー』に出演する井上芳雄=安田新之助撮影

井上:名作中の名作である『グレート・ギャツビー』をやらせていただくことになりました。小池先生の代表作ですが、今回は音楽が一新され、新しく脚本を書いてくださいます。日本とアメリカの才能がコラボレーションし、画期的な作品になると思います。日本のミュージカルの新しいスタンダードになる作品になればと思っています。

記者:『グレート・ギャツビー』の作品に触れたのは?

井上:高校生のときに杜けあきさんのギャツビー(宝塚歌劇)を映像で見たのが最初です。そのあとに映画を見ました。当時、とても評価の高い作品だと聞いたので見ました。実際、ミュージカルとして素晴らしい作品だと思いましたし、音楽も素晴らしかったです。杜さんもとてもかっこよくて。当時、小池先生のことはくわしく知らなかったのですが、素晴らしい作品を作る方が、宝塚にいらっしゃるんだという驚きがありました。ミュージカルなら何でも見たいと思っていた時期で、福岡にいてあまり情報がない中、賞を取ったということは知っていました。「すごいな!」と単純に思いましたね。

記者:高校生の時に見た『グレート・ギャツビー』はいかがでしたか?

井上:原作が素晴らしいですし、ミュージカルに適している作品だなと思いました。パーティーのシーンや怪しげなバーで飲んでいてパッと男役が踊りだす……といった、ミュージカルに適している材料があるんです。小池先生も思い入れがあるようで、先生の熱がこもった作品になっているなと。この時代のアメリカは、男はかっこよくスーツを着こなし、車を使い始めて…といった、時代的におもしろく題材としてミュージカルにあっているものを、小池先生が上手に料理したという感じがしました。そして、すごくロマンチックな話だと思います。男のロマンというか、こんな人がいるのかと。男から見てもかっこいいですし、一途に思い続ける人は女性受けがいいと、今までの役を通して感じます(笑)。そんな人がいないからでしょうか……。

記者:そのギャツビーを演じるにあたって心がけていることは?

井上:男優として、究極の役でみんながやりたいと思う役だと思います。正直、まだどうしたらいいかわからないのですが、取り繕ってもしかたがないし、なにかを纏おうと意図的にやってもばれてしまう役だと思うので、今まで経験してきたことがにじみ出ると信じて演じたいと思います。宝塚バージョンの杜さんの背中がすごく大きく感じたんです。もちろん衣装のせいもあったと思いますが、それを超えたものでした。そして、女性なのに哀愁が出せるんだと、今でも覚えているんです。同じことはできないけれど、自分の背中からもなにかにじみ出るはずだと信じてやるしかないですね。

妙なプレッシャーのかけ方を小池先生がしてくる

拡大ミュージカル『グレート・ギャツビー』に出演する井上芳雄=安田新之助撮影

記者:名作ということもありますが、小池先生の作品・演出ということでの思い入れもありますか?

井上:宝塚の代表作ですし、普通に考えるとやり直す必要はないと思うんです、代表作は代表作のままでいいのではと。音楽も出演者も変えてやることはとてもリスキーなことかもしれないし、もしかしたら名前を汚してしまうかもしれないと思うのですが、小池先生は同じ作品を何回もやり直せるんですね。『エリザベート』は4、5パターンやっているし、『ロミオ&ジュリエット』も2パターンしている。普通はあまりしたがらないと思うんですけど、それを意欲的にやっていく演出家だと思います。だからこそ、この作品を芳雄でやろうと決めてくださったことに大きな意味が自分の中にあるから、できるだけ小池先生の顔をつぶさないように、恩を仇で返さないようにと思っています。今まで自分が積み重ねてきた“なにかしら”が、花開きひとつの実を結ぶぐらいの作品になるようにと意気込んでいますが……プレッシャーでもあります。最近、「井上君はいろんな舞台で経験を積んで、僕が一緒にやるのがプレッシャーです」とか、妙なプレッシャーのかけ方を小池先生がしてくるので、これをどう受け止めたらいいのかと思うのですが(笑)、期待には応えたいですね。

記者:ミュージカルの枠にとどまらずストレートプレイなど幅広く活躍されていますが、やはりミュージカルはしっくりとくるものですか?

井上:そうですね。一番好きなので、そういう意味ではホームグラウンドという気はします。でも単純なのか、ほかのジャンルで素晴らしい経験をさせてもらうとそこに浸ってしまうというか、はまってしまうんです。先日までケラさん(ケラリーノ・サンドロヴィッチ)の『陥没』に出演していましたが、そこで演じている間はケラさんに夢中なんです、「この人はなんだ、何考えてこうなっているんだ」と。ストプレやコメディの芝居はおもしろいなと夢中になって、久しぶりにこっちに帰ってくると「あれ?」ってなるんです。「なんだ、このやたら歌いだす人は」と、海外留学から帰ってきた人みたいな気持ちになるんです。そして、ちょっとノッキングを起こすんです、毎回。「なんでミュージカル俳優はこういう芝居をするんだ」とか(笑)、自分もしているんですけどね。でもそれは悪いことではなくて、その違和感を一回飲み込んだり、貫き通したりすると、また自分のミュージカルでの芝居のやり方が変わってくるだろうと思いますし、捉え方や新しい価値観が生まれたりします。毎回その繰り返しですね。今回も『エリザベート』以来なので、どう感じるのかなと楽しみにしています。

記者:この作品には男女の価値観のずれがありますが、物語についてどのように捉えていますか?

井上:ちょっと乱暴な言い方をすれば、男の代表と女の代表がギャツビーとデイジーだと思うんです。男の人はロマンチックでずっと夢を見て信じて愛し続け、周りも見えていないからこそのエネルギーでやりきる。どこかで自分のところへ帰ってくると信じている。女の人は、愛情の意味は一緒だと思うのですが、こんな言い方をすると女の人に怒られるかもしれませんが、現実を見ながらどっちにいくと得なのかを常に考え、男には悟られないように現実的な決断をする。それぞれの代表格がそろっていると思います。また、フィッツジェラルド(原作者)と奥さんのゼルダがモデルになったと聞いているので、そういう意味でも興味深い二人です。

記者:ギャツビーはロマンチストということですが、井上さんの理想と重なる部分はありますか?

井上:僕もロマンチストというか、信じたいというか。自分の思いは伝わるはずだとか、夢は叶うはずだとか、あの人は今でも僕のことを気にしているはずだとか(笑)、というのは、信じたいと思っていますね、やっぱり。男はみんなそうじゃないかなと思いますし、信じることで出るエネルギーが男性にはあると思うので、決して悪いことではないと思うんです。女性からしたら馬鹿だと思うんだろうなと思いますけどね。でもそこが男の人の愛らしさじゃないかなとも思います(笑)

ギャツビーに驚きと羨望の気持ちが生まれてくるんじゃないかな

拡大ミュージカル『グレート・ギャツビー』に出演する井上芳雄=安田新之助撮影
記者:音楽を担当するリチャード・オベラッカーの曲はいかがですか?

井上:デモを聴かせてもらいましたが、同じ作品の中でもいろんな種類の音楽があります。ジャズっぽいナンバーもあったし、ミュージカルらしい壮大なソロナンバー、スケールの大きい楽曲もあって、いろいろ書ける方なんだなという印象があります。小池先生がおっしゃっていたのですが、メロディーをちゃんと書ける人がいいんだとおっしゃっていて。オベラッカーさんはオーソドックスなスタイルではありますが、ちゃんとメロディーをかける方なんだと思いました。(年齢が)僕と変わらないくらいの方で、いろんなミュージカルにも詳しいですし、ギャツビーのことが大好きなんです。自分はギャツビーの音楽がやりたくてミュージカルの作曲家になったと。ほんとか?と思うのですが(笑)、会ったときにおっしゃっていたので信じようと思います……。小池先生もすごくマニアックなんですけど、ギャツビーに関しては先生と張り合えるくらいの知識があって、打ち合わせの時に宝塚版で付け加えた原作にないシーンについて、このシーンはなんだと盛り上がったらしいです。思い入れがすごくあるみたいなので、一番ふさわしい人ではないかなと思います。

記者:制作発表会見で『夜明けの約束』を歌いましたが、歌われていかがでしたか?

井上:宝塚版の『朝日が昇る前に』が名曲だと言われていますが、おそらくそれに値する曲だと思います。ギャツビーがデイジーと再び出会うために、ありとあらゆる悪いことをして、その目的のために突き進んできたけれども、それがすべて良かったとは思っていなかったんだなと思いました。たくさんの人を傷つけてきたけれどもそれは目的のためで、それが今達成されようとしている。僕たちが再び出会って愛し合えることを神様が祝福してくれている。悪いこともしてきたけれど許されたと思いたいんだなと、切なく苦しい気持ちになりました。

記者:この作品は男性のファンの方が多いようですが、男性を引き付ける要素は何だと思いますか?

井上:これからのお稽古の中でたくさん発見していくと思うのですが、名作といわれるものをやった時に思うのは、誰しも思い当たる節があるんだなってことです。男の人からすると初恋に近い思いというのはずっと消えないといいますか……。まだ思いがある場合、「あの人の家の近くに引っ越したら会えるかな」くらいは思ったことがあると思うんです、たぶん。でも、実際にはやらないし、今やったら捕まっちゃうと思うんですけど(笑)。でも、誰しも一度は胸に抱いた思いがあって、それを貫いている男の人を目の当たりにすると、驚きと羨望の気持ちが生まれてくるんじゃないかなと思います。賑やかな中にはいるけれども彼はすごく孤独だし、そこに共感する気持ちも男の人にはあると思うんです。

記者:ポスターもかっこいいですね。

井上:小池先生はポスターにもこだわりがあって、韓国で『モーツァルト!』を演出された時に一緒だったカメラマンを連れて来られたんです。作品の世界観が表現されていて素敵ですね。衣装はこの時代を反映していて、スリーピースのスーツできっちりとした作りになっています。それを着こなすハードルは高いですが、大人の男と言われるためにはしっかりとスーツを着られる、スーツが似合う体にならないといけないなと思っています。

◆公演情報◆
ミュージカル『グレート・ギャツビー』
2017年5月8日(月)~29日(月) 東京・日生劇場
2017年6月3日(土)~15日(木) 愛知・中日劇場
2017年7月4日(火)~16日(日) 大阪・梅田芸術劇場メインホール
2017年7月20日(木)~25日(火) 福岡・博多座
[スタッフ]
原作:F・スコット・フィッツジェラルド
音楽:リチャード・オベラッカー
脚本・演出:小池修一郎
[出演]
井上芳雄、夢咲ねね、広瀬友祐、畠中洋、蒼乃夕妃、AKANE LIV、田代万里生 ほか
公式ホームページ

筆者

真名子陽子

真名子陽子(まなご・ようこ) ライター、エディター

大阪生まれ。ファッションデザインの専門学校を卒業後、デザイナーやファッションショーの制作などを経て、好奇心の赴くままに職歴を重ね、現在の仕事に落ち着く。レシピ本や観光情報誌、学校案内パンフレットなどの編集に携わる一方、再びめぐりあった舞台のおもしろさを広く伝えるべく、文化・エンタメジャンルのスターファイルで、役者インタビューなどを執筆している。

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