中吊り広告を「盗み見」する執念にも、それを暴き出したねばりにも脱帽だが……
2017年05月24日
詳細は週刊新潮の記事を読んでいただきたいが、要するに週刊文春が発売前の週刊新潮の中吊り広告を入手して内容を知り、週刊新潮の特ダネを文春発のネットで速報したり、追っかけ取材をしたりしていたというものだ。
木曜日発売の両誌は火曜日の夜に最後のニュースページ(1折)を校了する。ところが中吊り広告はそれより前に印刷され、広告代理店などに納品される。週刊文春は校了日(火曜日)の午後に流通大手のトーハン経由で週刊新潮の中吊りを入手し、校了までの数時間を使って“犯行”に及んでいたというのである。巻頭のグラビアでは、文春社員を尾行し、トーハンから拝借した中吊りを近くのコンビニでコピーする様子まで掲載している。記事としてはほぼ完璧だ。
これに対して文藝春秋広報室は〈情報を不正あるいは不法に入手したり、それをもって記事を書き換えたり、盗用したなどの事実は一切ありません〉とコメントし、文春オンラインには新谷学編集長の〈編集長から読者の皆様へ〉という説明文が掲載された。広報室のコメントと同様、新谷氏も不正・不法はないと主張し、記事の盗用や書き換えは「断じてありません」と否定した。
いやぁ正直、一般読者にはどうかと思うが、元同業者としてはこれほど面白い話はなかった。文春、新潮という業界を代表するライバル誌同士の情報戦がここまで生々しく詳らかにされたケースはないからだ。他社の中吊りを盗んでまで勝ちたいと思う週刊文春の執念にも、それを2年半もかけて調査・取材し暴き出した週刊新潮のねばりにも、脱帽というほかはない。
まず、週刊新潮の記事だが実によく取材をしている。中吊り漏洩ルートを特定するため、わざとフェイク情報を流したり文春社員を尾行したり、まるでスパイ映画を観ているように興奮する。もちろん、文春・新谷編集長の自宅前での直撃もある。新谷氏は「企業秘密」を盾に言葉を濁すが、中吊りを入手していた事実の否定はしない(できない)。ほぼ認めているのと同様で、新潮よくやった、ご苦労さまと言うほかはない仕上がりだ。
一読してわかるのは、記事を貫く“怒り”である。そりゃそうだろう。毎週、血の滲むような努力で取ってきたネタを校了直前に“盗み見”されていたというのだから。
週刊新潮が情報漏洩の疑いを持ったきっかけは3年前、2014年9月11日号で朝日新聞の従軍慰安婦記事問題に絡んで池上彰さんの連載コラムが掲載されなかった“事件”を報じたことだった。
週刊新潮はこの特集を最大の売りネタである「右トップ」で扱っている。同じ号の週刊文春の中吊りには、「池上彰」の「池」の字もない。ところが、週刊文春はこのネタを発売2日前の火曜日にネットで〈スクープ速報〉として流したのだ。ネットを見た新聞各紙が後追いして記事にもしたため、世間ではこれは週刊文春によるスクープだと認知された。
だが、取材が先行していたのは間違いなく週刊新潮だった。なぜかというと、池上さん自身が週刊文春に連載を持っていて、その中で取材が来たのは新潮が先で、文春は校了日ギリギリだったことを明かしているからだ。しかも、文春が下手を打ったのは、新潮の特ダネを潰そうとするあまりか、2日前にネットで流してしまったことだ。それまでは、週刊文春のスクープネタは発売日前日の水曜日にネットに流すことはあっても2日前というのはなかったという。
これに気づいたのは、他でもない週刊新潮で池上さんの特ダネを取って来た記者だった。週刊誌記者にとって右トップを張るのは最大の栄誉である。この記者にとって、週刊新潮での右トップは初めてのことだった。当時の編集長からも褒められた。取材過程で週刊文春が動いている気配は微塵もなかった。刷り上がった当該号の中吊りを見て、一人悦に入っていた。
それが、頭から冷水をかけられる事態となったのだ。ネット上には、〈週刊新潮、文春のスクープを右トップ扱い、ダセエ〉といった言説が溢れた。世間には、文春と同着のネタをあたかも独自の特ダネのように右トップ扱いにした新潮がカッコ悪いと映ったのだ。特ダネをモノにしたつもりの週刊新潮の記者の悔しさは想像に難くない。
実は、このときの“怒り”が、今回の記事にストレートに反映している。そう、週刊新潮の大特集〈スクープ至上主義の陰で「産業スパイ」! 新潮ポスターを絶え間なくカンニング! 「文春砲」汚れた銃弾〉を2年半かけて取材し、中吊り借用の事実を突き止めたのは、前述の池上スクープを潰された記者だったのだ。週刊誌記者“2年半かけてのリベンジ戦”、エエ話やなぁ……。
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そんなわけで、週刊新潮の怒りは120%理解するし、2年半かけて記事をモノにした記者の努力とねばりも礼賛したい。
だが、しかし。
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