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『THE SMALL POPPIES』

スタジオライフ演出家、倉田淳さんに作品の魅力を語ってもらいました

真名子陽子


拡大スタジオライフ公演『THE SMALL POPPIES』
 劇団スタジオライフの次回公演は『THE SMALL POPPIES』。1986年にイギリスで発表され、翌年に上演されているらしい。さて、どんな物語なんだろうと調べてみたけれど、情報がほとんどない。戯曲も日本語訳では出ていない。それならば聞いてしまおう!と、本作の上演台本・演出をされるスタジオライフの倉田淳さんに、『THE SMALL POPPIES』について伺ってきました。中にはネタバレも含まれています。けれど倉田さんいわく「いろんな情報を知ったうえで見てくださった方がありがたいです。そうすることで感じ方もまた違ってくると思うから」とおっしゃっています。なぜ、今この作品なのか? 登場人物は5歳のこどもだけど……、期待の舞台美術は? そして、作品を通して伝えたいことを聞いています。スタジオライフの新作は、心揺さぶる“倉田マジック”がふんだんに入っている予感が満載です。

『THE SMALL POPPIES』を選んだ理由

 ロンドンに滞在していた1987年11月に、ヤングヴィック劇場で上演していて、タイトルが可愛いなと思ったのと、何か惹かれるものもあったので見に行ったんです。そうしたらとてもおもしろくて感動したんですね。すぐに作者のDAVID HOLMANさんに連絡を取って本をくださいとお願いしたら、ご本人がぜひ会いましょうと言ってくださって。その時にこの本(戯曲集)をいただきました。盲目の猫を飼っていらして、こういう戯曲を書かれる方は、傷ついた猫を大事にしていらっしゃるんだなと、そういうこともすごくうれしかったですね。

拡大30年目にHOLMANさんにいただいた戯曲集
 でも、『THE SMALL POPPIES』の日本の上演権はある女優さんが持っているから、上演したいなら彼女に申請をしてくれと言われました。日本に帰ってきて、すぐにその方に連絡をとったら「ダメです」と言われたんです。いつか上演しようと思っていたのかもしれませんね。HOLMANさんが預けたくらいだから、なにかご関係もあるだろうし、ここは引こうかなと思ってその時は引いたんです。

 それからこの戯曲からはすっかり離れていたのですが、風の便りでその女優さんがお亡くなりになったと耳にして、再び、ふっとこの戯曲に引き寄せられたんです。新たに調べたらエージェントと契約をしていたので、今回はすんなりと許可をもらえました。もしかしたら、すでにその方の権利はなくなっていて、もっと早く上演できたかもしれない。でも今思うのですが、あの時に無理強いしなくて良かったなと……。今の時代だからこそ――内戦がたくさんあって移住を強いられたり、移民となって逃げる際に亡くなったり、その移民がシャットアウトされる動きがあったり、アメリカは国境に壁を作ろうとしている。そういう時代だからこそ、今やる意義をさらに持ったのではないかと思いました。

メインの登場人物は5歳のテオとレップとクリント

 物語の舞台は移民の国、オーストラリア。メイン3人の性格をひと言で言うと、クリントは内向的で悩みを抱え込んでしまう子。レップはとにかく一生懸命で健気で真面目で考える子。テオは能天気。その能天気な底抜けの明るさで、いろんなことを救っていく。落ち込んでもすぐ立ち直る子です。

 テオはギリシャ系で、内紛と経済破綻があった国ですね。お父さんはエリートで英語をがんばって話しているけれど、お母さんはギリシャ語しか話さない。テオはその中ではつらつと生きています。

 レップはカンボジア難民で、ノイというお姉さんと一緒にタイとカンボジアの国境のキャンプにいた時に、移民局の人に選ばれてオーストラリアへ来ました。言葉もわからない、文化も習慣も違う中にいきなり放り込まれて、移民局のホステルにいるものの、学校へは行かなきゃいけない。持っていく粗末なお弁当を見て、シェーンといういじめっ子にいじめられるんです。

拡大上演台本・演出の倉田淳=伊藤華織撮影
 クリントはオーストラリアにルーツがあるこども。でも、親は必ずどこかの国から来ているんですよね。そのクリントは少し問題を抱えています。母子家庭で、お母さんは新しい恋人ができて家に連れて来たいんだけど、クリントはそれに拒否反応を起こしています。そこからどんどん内向していって問題を抱えていくんですね。でも、レップのお弁当をめぐる一件で、二人は友だちになります。いじめっ子にやられながらも、友情の中で少しずつ心を解放していきます。

 児童劇というジャンルではあるけれど、人が共存していくとはどういうことか?というメッセージが、山のように詰まっています。異文化であってもお互いを受け入れて、理解して触れ合って、あるがままを受け入れ合っていくことが大事なんじゃないかということが根底に流れています。だから30年待って、今の世の中がこんなだから、この戯曲がより深く私達に示唆してくれるんじゃないかなと思ったりしています。30年待った甲斐があったかな……待っててくれたんじゃないかなと思います(笑)。

人と共存するにはどうしたらいいかという意味を示唆

 オーストラリアは移民で成り立っている国であるということや、カンボジア内戦やベトナム戦争のこともパンフレットに書きました。若い方はキリング・フィールドのことを知らないんですよね。まず、物語の背景をわかっていただけたらうれしいので、見る前に読んでくださいと言いたいのですが……。でも反対に、そのことを知らなくても、どんな社会でも通じることだなと思ったりしています。学校だろうが会社だろうが近所だろうが、違う人間が集まるというのはどこにでもあることですよね。みんな違う人間で、その違う人間が集まっているということを、大きな意味で捉えていただければと。人と共存するにはどうしたらいいかということを示唆していますので、この作品を見てなにかを感じていただければうれしいなと思います。

 芝居の中に難しい言葉や哲学的なこと、政治的なことはまったく入っていません。難民のことを説明する言葉があると、反対に面倒だなと思って。状況だけを見せて、レップやノイの心細さをちゃんとわかっていただけて、日常に起こるいろんなケースで考えてもらえればいいなと思っているんです。こどもたちが本気の勝負をして、本気の感情が動いていきますので、そこにたどり着けるかなと思っています。

5歳のこどもを演じる役者は大変

拡大上演台本・演出の倉田淳=伊藤華織撮影
 稽古は大変です(笑)。でも、みんな生き生きとやっていますね。はちゃめちゃな5歳児なんてやったことがないから。とにかくエネルギーの放出を意識しています。小さい子は落ち込む時は全力で落ち込むし、うれしい時は体いっぱいで跳びはねるし、エネルギー全開の状態になります。役者はそこが大変で疲れると思います。ただ、やりすぎないようにとだけ言ってます。やりすぎちゃうと見ている方は冷めてしまうので。稽古の中で、そのサジ加減の良いところを見つけていかなきゃいけないですね。今回は、KoaraチームとKangarooチームの2チームですが、仲良くなりそう!というところから配役を決めました。親友になってくれないと話がちゃんと落ちないから。

――Koaraチームの宇佐見さんが意外でした。

 放り込みました!レップの心情そのままですね。それを反映してくれるかなと。みんなに鍛えてもらって、今、伸びてきているのでどんどんいってもらわないと!

こどもとおとなの二役を演じます

 演技のしどころだし、役者たちはおもしろい芝居のアプロ―チができると、おもしろがってやっています。今回は、「おとなが演じるこども」ということをアプローチしたいんです。今、考えなきゃいけないのはおとなだと思うんですね。こどもの姿を借りていろんな状況を提示し、芝居の最後には、台本にはないんだけれど、みんなおとなに戻ってもらいます。

 最初と最後に同じ歌を歌うのですが、最初はこどものままで、音が外れようが元気いっぱいに歌って、最後はおとなになって、祈りを込めて歌ってほしいと思っています。そのラインを確立して、おとながやることの意味を持ちたいと思っています。決して、こどものための芝居だとは思っていないんです。「おとなが演じるこども」ということで、ずっと見ていただければ。歌は、西洋のこどもたちが歌っている童謡が元になっていて、とても素敵なんです。「深い海の青、それが愛」と……心がそそられます。

 二役の着替えも舞台の上でしますし、その変わり目もご覧いただきたい。その方が作品のテーマをわかってもらえるだろうし、最初は何をやっているんだろうと思いますが、見ていくうちに「あっ、そういうことね」という思いが、どんどん重なっていくのではと思います。「どうしたら仲良くなれるのか」「やっぱり愛は深い」、そして「深い海の青」という言葉が最後に出てきます。それらをメッセージとしてお伝えできればいいなと思っています。

 舞台は、中央部分が円形の盆になっていて、人力で盆を回します。正当な盆の使い方ではなく、遊園地のアトラクションのような感じで思っていただければ。役者が回すことも楽しみのひとつとして見てもらいたいですね。その盆は、オーストラリアの芸術家、ケン・ドーン氏が描くようなイメージで彩られているんですよ。

◆公演情報◆
スタジオライフ公演『THE SMALL POPPIES』
2017年6月15日(木)~7月2日(日) 東京新宿・シアターサンモール
[スタッフ]
作:DAVID HOLMAN
上演台本・演出:倉田淳
企画・制作・問合せ:Studio Life〈03-5942-5067/平日12:00~18:00〉
[出演]
笠原浩夫、山本芳樹、岩﨑大、船戸慎士、関戸博一(koalaチームのみ)、松本慎也、緒方和也、宇佐見輝、牧島進一、仲原裕之、若林健吾、千葉健玖、江口翔平、吉成奨人、藤原啓児
公式ホームページ

筆者

真名子陽子

真名子陽子(まなご・ようこ) ライター、エディター

大阪生まれ。ファッションデザインの専門学校を卒業後、デザイナーやファッションショーの制作などを経て、好奇心の赴くままに職歴を重ね、現在の仕事に落ち着く。レシピ本や観光情報誌、学校案内パンフレットなどの編集に携わる一方、再びめぐりあった舞台のおもしろさを広く伝えるべく、文化・エンタメジャンルのスターファイルで、役者インタビューなどを執筆している。

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