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舞台『ローマの休日』、5年ぶりに上演

男の切なさが映画よりも出ているんじゃないかな

真名子陽子 ライター、エディター


拡大舞台『ローマの休日』に出演する吉田栄作=安田新之助撮影

 わずか3人の俳優で演じる舞台版『ローマの休日』が5年ぶりに上演される。世代を超えて愛されている映画『ローマの休日』は、1953年にウィリアム・ワイラー監督により作られたアメリカ映画で、多くの女性に愛されたオードリー・ヘップバーンを一躍スターにしたロマンティック・ラブストーリー。

 2010年に日本で初めてストレートプレイとして上演。登場人物は、新聞記者のジョー・ブラッドレー/吉田栄作、アン王女/朝海ひかる、ジョーの友人でカメラマンのアーヴィング・ラドヴィッチ/小倉久寛の3人のみ。当時の時代背景にもスポットを当て、登場人物たちの生い立ちや人生を捉えることで、より深く人物像を描き出し、脚本・演出のマキノノゾミは第36回菊田一夫演劇賞を受賞した。

 その後、2012年に再演され、今回5年ぶりに初演メンバーが再結集し上演される。大阪で取材会が開かれ、初演からジョー・ブラッドレー役を演じる吉田栄作が、作品への思いを熱く語ってくれた。

おそらくこれが最後になるんじゃないかなと思います

――あいさつから。

 2010年が初演で今回は3回目の上演になります。おそらく、(吉田自身の出演が)これが最後になるんじゃないかなと思います。

――初演のメンバーが再び集結します。そのことについていかがでしょうか? 掛け合いもすごく楽しみです。

 うれしかったですし、新鮮な気持ちで稽古の初日に入っていけたら良いなと思いました。掛け合いは稽古を重ねてできるもので、いきなりはできないんです。5年ぶりですので、正直ほとんど覚えていなくて。朝海さんとは7年ぶりですので、そういう意味でも新鮮にできたらいいなと思います。小倉さんとの掛け合いは、本番中にいろいろとハプニングが起きるので、そこも楽しみですね。

拡大舞台『ローマの休日』に出演する吉田栄作=安田新之助撮影
――初演の際に、この名作を演じるにあたって感じた事や思い出などを聞かせて下さい。

 映画『ローマの休日』は、僕らの世代では雲の上の存在で、それを日本人がやるとなって、台本を読むまではあまりいい印象を持ちませんでしたね。なんだろう……たわいない作品になるんじゃないかなと思ったんです。作品が大きすぎるので、そう考えてしまったんですね。でも、マキノさんが書き足された初演の台本を読んだ時に、「あっ、これはスタッフとキャストがしっかりとした仕事をすれば、とてもいい作品になるんじゃないかな」と感じました。読み終わった時には、ぜひやらせて欲しいという気持ちになっていました。

――実際に舞台に立たれて、その手ごたえはありましたか?

 脚本について映画配給元のパラマウントに許可を得て上演しましたが、その方々が初演の初日を見に来られて、最後のカーテンコールのときに誰よりも早く立ち上がり、スタンディングオベーションをしてくれたんです。ステージ側からその光景を見てすごくうれしかったですし、ずっと脳裏に残っていますね。

――書き足されたのは、赤狩り(非米活動調査委員会での共産主義者排斥運動)の部分でしょうか?

 そうです。作家のダルトン・トランボは、赤狩りでハリウッドを追放されたんですよね。そのことを、ジョーがなぜローマにいるのかという理由に、投影したんです。それによってジョー自身に深みが増し、アーヴィングをかばった経緯や、最後にアン王女のスクープを決して売らないと決めた男気が見え、物語全体がさらに深みを増してますし、最後の別れなんて、そういう男だからこその切なさというものが、映画よりも出ているんじゃないかなと思っています。

――書き足された背景は、ジョーを演じるうえで影響はありましたか?

 長いものに巻かれないというか、大きな力に逆らって生きる……。結果、損をするかもしれないけれど、自分の生き方を曲げないというところは、男からするとものすごく惹かれる部分があるので、どこか自分の理想を物語の中に入れているところは少なからずありますね。

真実の口のシーンは完コピしてください

拡大舞台『ローマの休日』に出演する吉田栄作=安田新之助撮影

――改めてジョーや作品の魅力を再発見したところはありますか?

 初演の時にマキノさんが、真実の口のシーンは演出をしないと言ったんです。映画の演出をよく見て完コピしてくださいと(笑)。音楽から、手を入れるタイミングから、すべて映画の通りにやりました。そうしたら、それが巧くいったので、毎日、映画を見るようになったんです。このときグレゴリー・ペックはこっちの手をポケットに入れているとか、ネクタイの先をズボンに入れているところなども映画通りにしました。『ローマの休日』の大ファンがいたら、「これもやってる」「これもそのまんまだ」と思ってもらえるように。

 映画がそのまま舞台になっているように錯覚されるんじゃないかなと思うんですよね。映画はカラーがすでにあった時代のものだけど白黒で、あえて監督が白黒にしたらしいんです。そして舞台も白黒なんです。そういうところも含めて、いい意味での錯覚がひとつの魅力になってるんじゃないかなと思います。

――先ほど、今回が最後になるかもしれないとおっしゃってましたが、その理由は?

 初演の時にある方が、「吉田君、これは君の40代の仕事にしたらいいよ」と言ってくれたんです。その言葉がとても印象的で、当時41歳で、良い作品だし、そうなったらいいなと思っていました。現在48歳……なので、これが最後かなと。お姫様抱っこがキツイんです、冗談ですが(笑)。軽々とやってるように見せないといけないですし、舞台は稽古も含めて何度もやりますから……もちろんそれが原因ではないですけどね(笑)、ちゃんとトレーニングしてますから。

――今回、初演以来の『ローマの休日』出演となる朝海さんの魅力は?

 今年、こまつ座さんの舞台『私はだれでしょう』で共演したんです。『ローマの休日』の初演以来でした。『私はだれでしょう』で、朝海さんが違う誰かと芝居をしているシーンや、お客さまに向かって歌を歌うシーンで、後ろから彼女を見ている状況があったんです。その時に、しっかりと舞台で息づいている人なんだなと思ったんです。舞台の上で生きている様子に彼女の魅力を感じました。

――演出は変わったりするのでしょうか。また、ご自身が変わりそうな予感などは?

 基本、マキノさんは変えずにいくんじゃないでしょうか。演出という意味では変えないと思います。ただ、演者が年齢を重ねているので、僕らの中から湧き出る芝居がどう変わったか、どう成長してきたのかいうのを、ずっと見に来てくださっているお客さまには、何か感じていただけるかもしれませんね。自分が5年経ってどうだろうというのは、まだ稽古が始まっていないのでわからないです。そこは自分でも楽しみでもあり、怖くもあり。昔の方が良かった……なんて、ことのないように(笑)。

再々再演? 「国民的辞めないでコール」がおこったら

拡大舞台『ローマの休日』に出演する吉田栄作=安田新之助撮影

――初演時のパンフレットに『ローマの休日』は好きな映画だと書いていましたが、その好きな映画に出ているグレゴリー・ペックという偉大な役者と、まったく同じように演じてと言われて、どんな気持ちになるんでしょうか?

 誰もが知る有名なシーンはそのままいこうというマキノさんの発想は、さすがだなと思いましたね。稽古の初日にマキノさんが僕らに言ったことで、2つ印象に残っているんです。ひとつは、とにかくあの『ローマの休日』を我々はやるんだ。やっぱりそれはプレッシャーで、誰もが本当にやるの? 本当にやれるの? という感覚でいると思う。自分たちはあの映画へのリスペクトを強く持ちましょうと。

 もうひとつは、例え話をしたいと。映画ができるより以前にオフブロードウェイで僕らがやるこの三人芝居があった。この戯曲があった。それがオフブロードウェイでロングラン上演されていた。それを見た関係者がこれは映画になるんじゃないかと言って、あの有名な人たちをキャスティングし、あの映画ができたんだと。あくまでも例え話ですよ。僕たちがやるのは、あの映画の前のオフブロードウェイでやっていた三人芝居の日本人版だという考え方でやってみませんかとおっしゃったんです。これを聞いた三人はマキノさんの言葉に救われたというか……すでにマキノさんの演出の第一歩が始まっていたんだなと思いましたね。それは、いまだに三人とも口を揃えて言いますよ。

――40代でこの作品に出会ってどのような影響がありましたか?

 同じ舞台を3回やるということが今までなかったんです。その意味では代表作なんだろうなと思います。『ローマの休日』が代表作と言うには、身の丈があわないというか実感はないんですけど。今回、3回目をさせていただくので、自分でもそう言えるように、今回が最後になってもいいように、しっかりとやらせていただきたいと思っています。

――素晴らしい作品です。再々再演があったら?

 もしそうなったら、タイミングにもよると思うのですが、「国民的辞めないでコール」がおこったら(笑)、一考させていただきます。その可能性があるうちは、正直、誰にも譲りたくないですね。

◆公演情報◆
舞台『ローマの休日』
2017年7月26日(水)~27日(木) 大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
2017年7月30日(日)~8月6日(日) 東京・世田谷パブリックシアター
[スタッフ]
オリジナル脚本:イアン・マクレラン・ハンター、ジョン・ダイトン
原作:ダルトン・トランボ
演出:マキノノゾミ
脚本:鈴木哲也、マキノノゾミ
音楽:渡辺俊幸
[出演]
吉田栄作、朝海ひかる、小倉久寛、川下大洋(声の出演)
公式ホームページ

筆者

真名子陽子

真名子陽子(まなご・ようこ) ライター、エディター

大阪生まれ。ファッションデザインの専門学校を卒業後、デザイナーやファッションショーの制作などを経て、好奇心の赴くままに職歴を重ね、現在の仕事に落ち着く。レシピ本や観光情報誌、学校案内パンフレットなどの編集に携わる一方、再びめぐりあった舞台のおもしろさを広く伝えるべく、文化・エンタメジャンルのスターファイルで、役者インタビューなどを執筆している。

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