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[書評]『フランス料理の歴史』

ジャン=ピエール・プーラン エドモン・ネランク 著 山内秀文 訳

小林章夫 上智大学教授

実にお得な読む美食  

 翻訳で400ページを超える大著。世界に冠たるフランス料理の歴史。通史として間然するところのない文献であり、「料理名にまつわる由来小事典」「フランス美食史の重要ポイント」「参考文献一覧」があるだけでなく、訳者による「フランス料理の現在」と題する簡にして要を得た解説(これがないと、現在の様子がわからない)、さらに、「人物コラム――スーパーシェフ&偉大な食通一覧」まで付されていて、これで1200円は実にお得。いや、何よりも訳文が流麗にして読みやすく、楽しい読書体験を堪能できること間違いなし。

『フランス料理の歴史』(ジャン=ピエール・プーラン エドモン・ネランク 著 山内秀文 訳 角川ソフィア文庫) 定価:本体1200円+税拡大『フランス料理の歴史』(ジャン=ピエール・プーラン エドモン・ネランク 著 山内秀文 訳 角川ソフィア文庫) 定価:本体1200円+税
 優れた書き手が知識と経験を惜しげもなく披瀝し、それを辻調理師学校の俊才が見事な日本語で日本人読者に伝えてくれたことに大いなる感謝。通読しても、折に触れて辞書代わりに使っても役立つことは間違いない。

 事実、評者も17世紀から18世紀にかけての叙述をじっくり読んで、膝を打つことしきりだった。

 89ページから始まる「ムノン 錬金術師的料理人の伝統」を読んで、「料理とは、食べ物の粗野な部分を希薄化する、つまり料理の扱う食べ物のかけらから、それが含んでいる卑俗な部分をとり去ることである」とのご託宣に出会うと、いったいこの後どのような記述へ続くのかと興味津々となる。

 その上で、締めくくりの見出し「おいしい料理が人類を向上させる」に至ると、同じ18世紀でも、英仏の差はいかんともしがたいとあきらめるのである。

 いやそもそも、それを言うならイギリス料理の歴史などという本は書けないだろうし、書いても読者はごく少数にとどまるだろう。われらイギリス屋はミステリーの世界に浸るより仕方あるまい。ビールの歴史を書いたところで、フランスにはワインがある。やれやれ。

 最後に付け加えておくと、本書はもともと2005年に学習研究社から『プロのためのフランス料理の歴史』のタイトルで出版されたもの。しかし、今回出たものは大幅な修正、加筆がされているから決定版である。けちらずにこれをお買いなさい。

*ここで紹介した本は、三省堂書店神保町本店4階で展示・販売しています。
*「神保町の匠」のバックナンバーはこちらで。

三省堂書店×WEBRONZA  「神保町の匠」とは?
 年間8万点近く出る新刊のうち何を読めばいいのか。日々、本の街・神保町に出没し、会えば侃侃諤諤、飲めば喧々囂々。実際に本をつくり、書き、読んできた「匠」たちが、本文のみならず、装幀、まえがき、あとがきから、図版の入れ方、小見出しのつけ方までをチェック。面白い本、タメになる本、感動させる本、考えさせる本を毎週2冊紹介します。目利きがイチオシで推薦し、料理する、鮮度抜群の読書案内。

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筆者

小林章夫

小林章夫(こばやし・あきお) 上智大学教授

上智大学英文学科教授。専攻は英文学だが、活字中毒なので何でも読む。ポルノも強い、酒も強い、身体も強い。でも女性には弱い。ラグビー大好き、西武ライオンズ大好き、トンカツ大好き。でも梅干しはダメ、牛乳もダメ。著書に『コーヒー・ハウス』(講談社学術文庫)、『おどる民 だます国』(千倉書房)など、訳書に『ご遺体』(イーヴリン・ウォー、光文社古典新訳文庫)ほか多数。