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続・必見! 傑作『パーソナル・ショッパー』

霊媒としてのIT情報ツールなど

藤崎康 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

『パーソナル・ショッパー』 拡大『パーソナル・ショッパー』 公式サイトより

スマホのメッセージと、虚実ないまぜの情報環境

 『パーソナル・ショッパー』(『PS』)では、ファッション映画と心霊映画という二つのジャンルの接続は、携帯電話、パソコン、タブレット端末などのIT情報ツールを介してもなされる。もとよりIT情報ツールとは、人と人との通信手段であり、あるいは人が映像(動画・写真など)にアクセスする媒体だ。

 さらに――かりに霊というものが存在するとしたら――、IT情報ツールは人と霊(もしくは生者と死者)とを媒介する、まさに霊媒/ミーディアムとなりうる機器であるが、それらは『PS』のドラマにとって不可欠な小道具だ。とりわけ、ある時からモウリーンの携帯電話(スマホ)にひんぱんに届く差出人不明のテキストメッセージ(以下、メッセージ)が、サスペンスを増幅する(謎の男unknownからの最初のメッセージがモウリーンに届くのは、買い付けでロンドンへ向かう彼女がパリの北駅でユーロスター――英仏間のユーロトンネルを通る特急列車――の乗車手続きをしている時だが、本作では列車、バス、乗用車、バイクなどの乗り物の走行感も快い)。

 その男からのメッセージは、まるで近くからモウリーンの一挙一動を監視しているような内容で、モウリーンが「誰?」と返信すると「当ててみろ」とはぐらかし、彼女が思わず「〔兄〕ルイス?」と打つと、それはスルーされ、「まずは接触したい」と返信が来る……というように、二人のメッセージ交換はめまぐるしいテンポでなされるが、携帯/スマートフォンにしがみつき素早く画面をタップするモウリーンの姿は、その交信相手が正体不明である点を含めて、まさしく虚実ないまぜの情報環境を生きる、われわれ自身の表象でもあろう(その男からのメッセージで、モウリーンはキーラの服を試着するよう唆(そそのか)されて実行に移す)。

異世界へアクセスする<窓・扉>としての液晶画面

 さらに、モウリーンが携帯やパソコンの動画サイトで、降霊術を特集した1960年代のテレビ番組を見るシーンに、目を見張る。『レ・ミゼラブル』などで知られる19世紀フランスの文豪、ヴィクトル・ユゴーに扮した役者らがテーブル・ターニング――霊媒たちがテーブルの上に手を置いて死者の霊を呼び寄せる「こっくりさん」――を行なう交霊会の模様を映す、キッチュだが変にリアルなその動画は、一種の映画内映画としても興味深い(ユゴーは一時期、イギリスのジャージー島に移り住み、降霊術にのめりこんだ)。

オリビエ・アサイヤス監督拡大オリヴィエ・アサイヤス監督
 そこで注目すべきは、霊媒/霊能者であるモウリーンが、 ・・・続きを読む
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筆者

藤崎康

藤崎康(ふじさき・こう) 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

東京都生まれ。映画評論家、文芸評論家。1983年、慶応義塾大学フランス文学科大学院博士課程修了。著書に『戦争の映画史――恐怖と快楽のフィルム学』(朝日選書)など。現在『クロード・シャブロル論』(仮題)を準備中。熱狂的なスロージョガ―、かつ草テニスプレーヤー。わが人生のべスト3(順不同)は邦画が、山中貞雄『丹下左膳余話 百万両の壺』、江崎実生『逢いたくて逢いたくて』、黒沢清『叫』、洋画がジョン・フォード『長い灰色の線』、クロード・シャブロル『野獣死すべし』、シルベスター・スタローン『ランボー 最後の戦場』(いずれも順不同)

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