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[書評]『キジムナーkids』

上原正三 著

小木田順子 編集者・幻冬舎

『この世界の片隅に』の続きのようなお話  

 とあるジャーナリストが言っていた。「どうしてテレビの情報番組では、辺野古の問題など、もっと沖縄のニュースを取り上げないのかと、よく言われるんですよね。でも、理由は簡単。たまにやっても、沖縄の話になると、視聴率がとたんに下がるんですよ」

 そう聞いて、「本土の人間はあまりに理解が足りない。沖縄の痛みが分かっていない」と眉をひそめる人は少なくないだろう。が、私には、沖縄の話が始まるとチャンネルを替えてしまう側の気持ちが、分からなくもない。

 「ひめゆり学徒隊」のことは知っている。でも、日本で唯一、地上戦があったとは、どういうことなのか? 沖縄に米軍基地がたくさんあることも知っている。でも、その中で暮らすとは実際どういうことなのか? 正直、ピンとこない。

 「ピンとこない」ものはこないんだから、しかたない。だから「どうしてもっと関心を持たないんだ」と責められるのは、めんどくさい。ただ、それは良くないことのような気はするから、うしろめたい。

……と前置きが長くなったが、本書は、1937年沖縄生まれ、ウルトラシリーズなどの脚本家として知られる著者による、終戦直後の沖縄を舞台にした自伝小説だ。キジムナーとは、沖縄の伝説上の妖精のこと。ガジュマルの老木の上に「キジムナーハウス」という秘密基地をつくった少年たちの日々を描いている。

『キジムナーkids』(上原正三 著 現代書館) 定価:本体1700円+税拡大『キジムナーkids』(上原正三 著 現代書館) 定価:本体1700円+税
 長い前置きをしたのは、本書は、私のようなピンときていない人が、「読んで何かを学ばなきゃ」などと思わず、他のエンタメ小説を読むのと同じように、フラットな気持ちで読むのがいいんじゃないかと思うからだ。「沖縄の話だから」と敬遠して手にとらないんだったら、それはすごくもったいない。

 主人公は小学5年生のミツ少年、仇名はハナー。終戦後、疎開先の熊本から沖縄に戻り、警察官である父親の仕事の関係で、知念半島南東にある百名村に転校してくる。

 そこで待ち構えていたのが、ハブジロー、ボーボー、ベーグァの、同じクラスの3人。転校生の宿命で、最初は当然いじめられるハナー少年。だが、その洗礼をめでたくクリアし、彼らは「同志」になっていく。

 なんの同志か? それは、アメリカ軍のトラックや倉庫などから、食料・タバコ・衣類・電池などもろもろの物資を調達してくる(有り体に言えば、盗んでくる、ですね)同志。彼らはそれを「戦果」と呼び、その隠し場所が「キジムナーハウス」なのだ。

 アメリカ軍相手の彼らの悪ガキぶりの痛快なこと。いつも空腹を抱えた彼らが、調達に成功したサンドイッチや黄桃の缶詰にむしゃぶりつく様子の美味しそうなこと。聖地・御獄(ウタキ)に囲まれ、子どもはキジムナーの存在を信じ、大人は子どもに何かよくないことがあると「マブヤー(魂よ)」とおまじないを唱え、それらが方言のウチナーグチで綴られる、その土の匂い、空気の匂い、そして精神のありようの豊かなこと。

 もちろん舞台になっているのは、アメリカ軍との地上戦によって焼き払われ、多くの人が命を落とした地だ。少年たちもみな、苛烈な体験をし、深い傷を負っている。彼らがたくましく生きる日々が描かれる中で、ひとりひとりの過去が明かされていく。

 ベーグァはなぜ言葉を発せず、ヤギの鳴き声しか口にしないのか。彼らのもう一人の仲間・サンデー少年、学校に行っていない、いつもポケットに貴重品のタバコをしのばせている、年齢不詳の大人びた彼は、いったい何者なのか。

 少年たちの秘められた過去が明らかになるくだりでは、目頭が熱くなったり、生々しい悲惨さにページから目を背けたくなったり、怒りがこみあげたりする。それは、不謹慎な表現であることを承知であえて言うが、物語として強烈におもしろい。

 出版社がつくった新刊案内で、本書は沖縄版『スタンド・バイ・ミー』と書かれていた。『スタンド・バイ・ミー』では、4人の少年が好奇心で始めた「死体探し」が、少年時代を卒業する通過儀礼となった。本書でも、戦争が終わってもガマ(洞窟)に住んでいる、謎の人物・フリムン(crazyの意)軍曹との出会いが、ハナー少年を大きく成長させる。

 これらフリムン軍曹ほか、少年たちをとりまく、いわゆるキャラの立った大人たちの姿も、サイドストーリーとしてしっかり書きこまれ、物語を厚く読み応えあるものにしている。

 「『この世界の片隅に』の続きのようなお話だな」というのが、本書を読み終えたときの、私の最初の感想だった。戦時中であっても、戦後の困窮期であっても、人々は、四六時中、涙して苦しんでいるわけではなく、ささやかながらも楽しみを見つけて強く生きている。声高に反戦を叫ばなくても、そのような人々の姿を通して、確かなメッセージが心にしみわたる……。

 本書でハナー少年ほかキジムナーkidsに出会い、私は、終戦直後の沖縄を初めてリアルに感じ、何かが少しだけピンときた気がする。そのことが、現在の沖縄が直面する問題への理解につながったのかは分からない。でも、無理に「何かを学んだ」気になるのはやめよう。この豊かな物語にどっぷり浸った時間そのものが、私にとってはかけがえのない追体験だったと思うから。

*ここで紹介した本は、三省堂書店神保町本店4階で展示・販売しています。
*「神保町の匠」のバックナンバーはこちらで。

三省堂書店×WEBRONZA  「神保町の匠」とは?
 年間8万点近く出る新刊のうち何を読めばいいのか。日々、本の街・神保町に出没し、会えば侃侃諤諤、飲めば喧々囂々。実際に本をつくり、書き、読んできた「匠」たちが、本文のみならず、装幀、まえがき、あとがきから、図版の入れ方、小見出しのつけ方までをチェック。面白い本、タメになる本、感動させる本、考えさせる本を毎週2冊紹介します。目利きがイチオシで推薦し、料理する、鮮度抜群の読書案内。

筆者

小木田順子

小木田順子(こぎた・じゅんこ) 編集者・幻冬舎

1966年、長野県生まれ。90年、PHP研究所に入社。PHP新書創刊に携わる。2005年、幻冬舎に入社し、幻冬舎新書の創刊に携わる。気がつけば、編集者人生の大半を新書編集者として過ごしている。担当した本は村山斉『宇宙は何でできているのか』(新書大賞2011)、香山リカ『しがみつかない生き方』、國分功一郎『来るべき民主主義』など。書評誌『いける本・いけない本』編集長も務める。